2025年7月17日、「DXの“その先”を拓く、2日間」をコンセプトとした「日本DX大賞2025サミット&アワード(日本DX大賞実行委員会主催)」の2日目(Day2)が開催されました。
救命活動における搬送困難事例の課題解決につながる“救命DX”やオンラインによる小児科休日診療を実現した“地域医療DX”、観光客の利便性を向上させる“屋台DX”、複数の自治体で取り組まれた“窓口業務DX”など、好事例が相次いだ初日(参照:イベントレポート◎日本DX大賞2025/Day1)に続くDay2でも興味深いDXに取り組む企業や団体の受賞が相次ぎました。
以下、Day2に行われた「サステナビリティトランスフォーメーション(SX)部門」「事業変革部門」「業務変革部門」、恒例の「ノーコード大賞」を受賞した企業の取り組みや評価ポイントなどを紹介していきます。
SX部門:大賞はCO2削減と収益性向上を両立したトクヤマ
「サステナビリティトランスフォーメーション(SX)部門」においては、総合化学メーカーの株式会社トクヤマ(本部:東京都千代田区)が大賞を受賞しました。
トクヤマは2023年12月、電気や蒸気などのユーティリティのバランスを加味し、プラントの稼働率に伴う多様な主要製品の収益計算を自動で行う経営シミュレーションモデル「T-FORCE」を自社で構築しました。
T-FORCEを用いて自社の徳山製造所(山口県周南市)の運営業務を大幅に効率化し、環境負荷低減に役立つ予測計算も可能にしました。
そして、この経営シミュレーターとデジタルツインを融合したソリューションを開発。複雑で大規模なプラント群の稼働を最適化し、年間6500トン超の二酸化炭素(CO2)排出量の削減に成功すると共に、収益性も向上させました。
こうしたCO2削減と収益性アップという両立しにくい課題の解決を実現したことに加え、今後の製造業が進むべきSXの方向性とその道筋を示した点などが高く評価され、今回の大賞受賞に至りました。
審査員を務めた八子知礼氏(株式会社INDUSTRIAL-X代表取締役)は、トクヤマの取り組みを次のように激賞しています。
「大規模な設備を稼働させつつ、複雑な工程において材料やCO2排出量、エネルギーなどをきちんとコントロールしていかなければいけない中で、それを完全にデジタル空間化し、さらに経営シミュレーション環境も内製した。個人的には、文句なしに賞賛すべき事例である」
受賞したトクヤマの生産技術センター兼DX推進グループ主幹の立川敬史氏は、「今回開発したソリューションは他の製造業にも適用できる技術だと考えており、水平展開を進めてDX推進の取り組みを加速させていきたい」と語りました。
SX部門の優秀賞・奨励賞
SX部門で大賞に続く、優秀賞や奨励賞に選出されたのは以下の自企業や団体となっています。
〈優秀賞〉
・株式会社ミライロ
・NTTテクノクロス株式会社
〈奨励賞〉
・株式会社ミスミグループ本社
事業変革部門:事業承継とDXの融合事例が大賞に
「事業変革部門」の大賞受賞者は、国際物流プラットフォームを手掛ける株式会社Shippio(東京都港区)と、グループ会社である協和海運株式会社(神奈川県横浜市)です。
創業60年の老舗通関の協和海運が有する伝統産業の知見と、スタートアップ企業であるShippioの技術力をM&Aにより融合し、通関業務のDX化を推進しました。
IT環境の整備やペーパーレス化、ツールの活用などのデジタル化を通じてベテラン人材の能力を大きく引き上げることで、社員数はほぼ横ばいのまま、取扱量6倍、工数約1/5という大幅な生産性向上を実現しました。
審査員を務めた株式会社ローランド・ベルガーの小野塚征志氏は講評において、下記のように3つの評価ポイントを示しています。
まず、「Shippioという、“イケてるスタートアップ”が、協和海運という伝統的な会社と一緒に手を携えて、1つのチームでDXを進めてきたこと」、次に「紙ベースの業務ばかりで、最もDXをやりにくい貿易・通関業務という分野で取り組んできたこと」。
そして3つ目は「DXにより働き方が変化したことで、伝統的な会社で働いていた人々も仕事に対する考え方が変わり、人材の価値が高まっていったこと」です。
さらに、小野塚氏は「まさに“価値を生むDX”を実現したのではないか」と述べ、“貿易DX”の担い手としての今後の成長に期待を寄せました。
一方、Shippioブランドコミュニケーション室の西藤健司室長は「島国の日本は貿易立国だが、貿易・通関業務の課題はなかなか見えづらく、我われはその解決に取り組んできた。今回、このような場で通関業務が取り上げられ、非常にうれしい」と語っています。
事業変革部門の優秀賞・奨励賞
事業変革部門で、大賞に続く優秀賞や奨励賞に選出されたのは以下の企業となりました。
〈優秀賞〉
・株式会社ミスミグループ本社
〈奨励賞〉
・大成建設株式会社
・アート引越センター株式会社
ミスミグループ本社(東京都千代田区)は、先のSX部門奨励賞に続き、製造業の調達モデルを革新する別のプロジェクトでも事業変革部門優秀賞を獲得しています。
具体的には、機械部品業界のデジタル化の遅れと非効率な調達を解決することを目的に、国内外500社超のサプライヤーの在庫を一元管理しEC上で即時に表示して可視化できるシステムを開発しました。
これにより、顧客は部品を探す手間がなくなり、納期短縮と在庫対応力の強化を実現できるなど、業界全体の変革を促したことが評価されました。
業務変革部門:大賞は教育の高みを目指す大阪大学
「業務変革部門」では、3万5000人の巨大組織において全学的なレベルで教育・研究・経営のDXを推進している国立大学法人大阪大学(大阪府大阪市)が大賞を受賞しました。
大阪大学では、全学的な共通ID・人財データプラットフォームを構築して、顔認証やデジタル学生証を活用したサービスを学内外で展開。また、全職員への生成AIの導入や、RPA(Robotic Process Automation)の実装による業務改革も実施しています。
さらに、こうした自社システムを他大学にも提供することで、日本の大学の国際競争力強化に貢献していく考えです。
審査ではこのような、教育・研究・経営を横断する全学的なDXを断行した実行力に加え、日本の教育全体の底上げを目指すという“高い志”も大きな評価ポイントとなりました。
大阪大大学のOUDX推進室副室長・教授の鎗水徹氏は、「ヒト・カネ(予算)が限られる中で、3万5000人の組織を相手にDX推進を求められ、どこから手を付けていいかわからない状況から始まった」と3年前を回顧。
この状況を打破するため「まずはDXを推進するための仲間を増やすところから始めた」といい、「仲間と共に楽しく取り組むことが非常に大事である」とDX推進の要諦について指摘しました。
また、こうした活動や成果を他の大学と共有することで、「システム構築では協力し、教育と研究では切磋琢磨することにより大学間のアライアンスを広め、産業界のように大学の国際競争力を高めていきたい」との決意を示しました。
審査員の志水静香氏(株式会社ファンリーシュ代表取締役兼CEO)は、大阪大学の取り組みについて、「個人的にすごくワクワクした。単なる業務変革ではなく、学生や教職員、卒業生が皆、大学のサービスを受けられ、デジタル学生証・教職員証の発行にとどまらず、コミュニティの無限の可能性があると思った」と述べました。
業務変革部門の優秀賞・奨励賞
業務変革部門で、大賞に続く優秀賞や奨励賞に選出されたのは以下の企業や団体となりました。
〈優秀賞〉
・旭化成株式会社
・株式会社ヒューマングループ
〈奨励賞〉
・悠悠ホールディングス株式会社
優秀賞受賞企業の中でユニークだったのは、ヒューマングループ(長崎県佐世保市)です。創業72年の自動車学校・観光事業を営む中小企業ながら、30年使った基幹システムをノーコードツールの活用により低コストで再構築し、大幅な業務効率化と離職率の低下という成果を生み出したことが評価されました。
日本ノーコード大賞:函館市、医療法人葵鐘会が大賞受賞
日本DX大賞では、一般社団法人ノーコード推進協会(NCPA)が主催する「日本ノーコード大賞」の表彰も行われました。
同大賞は日本DX大賞にエントリーした企業・団体のうち、ノーコードの活用による優れた事例を表彰するもの。第3回となる今年の日本ノーコード大賞は、6月16~20日にオンラインでファイナリストのプレゼンテーション審査が行われ、Day2にて結果発表と表彰式が行われました。
今年の大賞受賞者は、「自治体部門」から北海道函館市、「一般企業部門」から医療法人葵鐘会(きしょうかい)が選ばれました。
自治体部門の大賞を受賞した函館市は、子育て世代の負担軽減のため取り組んだ市の公式LINEを活用した行政サービスを実現した事例が評価されました。ノーコードツールを用いて、妊娠から小学校入学までの情報提供や手続きをスマホで完結できる仕組みを構築しています。
構築にあたっては、現場の気づきやアイデアを職員自身がすぐに反映できるようにしたことで、現場の業務効率改善と市民への優しい行政サービスの両立を実現。子育てにゆとりを生み出し、合わせて職員のDX文化も醸成されたとのことです。
同市の子育て支援システムは、他の自治体でもカスタマイズして使うことができるため、全国で300以上の自治体が導入しているとのこと。大会審査委員長を務めた中山五輪男代表理事は、「どんどん横展開されている素晴らしい好事例」と講評しました。
一般企業部門で大賞に選出された医療法人葵鐘会(愛知県稲沢市)は、東海地方を中心に産科医療施設を展開。今回、産科新生児医療の業務忘れインシデントを防ぐため、新生児室に大型液晶モニターと音声付きアラートを備えたシステム「勿忘草(わすれなぐさ)」を構築しました。
このシステムは、ノーコード機能を活用して同法人が独自開発したもので、入院中の新生児に対する非常に多岐にわたる管理業務の進捗状況を一覧表示し、タイミング遅延を音声で通知する仕組みにより、インシデントの発生件数をほぼゼロにしました。
総括:横展開を加速し、影響力増大を目指す
主催者である一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX)の森戸裕一代表理事は閉会のあいさつで、「日本DX大賞を4年間続けてきて相当の手応えを実感している」ことを強調。「年を追うごとに影響力が増大していくことを目指して、今後もこれを継続していく」という考えを示しました。
また、森戸代表理事は、Day1のオープニングセッション(*3)で登壇した前デジタル庁統括官の村上敬亮氏が指摘していた「行政の縦割り組織を崩すうえで、例えばそこに横ぐしを差すプラットフォームの構築を提案するといった工夫の必要性」に言及し、「新たに認定したアンバサダーの方々と、さまざまな企業や組織に横ぐしを差すプラットフォームを作っていきたい」と述べました。
(*3)地域を変えるDXシナリオ―官民で実現する『共生』と『横展開』の力
さらに、「日本DX大賞には中小企業部門はないのかとよく聞かれるが、中小企業とか、大手企業といった呼称をなくすのもDXの役割ではないか。東京都と地方といった区分や呼称も変えたい」と力説。
最後に、「我われは日本DX大賞を含め、年4回のアワードを実施している。その各賞受賞者をアンバサダーとして巻き込み、どんどん影響力を大きくしていく。そうやってみなさんと一緒に新しい日本を作っていきたい」と締めくくりました。
外部リンク
日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX) ノーコード推進協会(NCPA) 株式会社トクヤマ 株式会社Shippio 大阪大学

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