本稿執筆時点、「サービス等生産性向上IT導入支援事業(以下、IT導入補助金)」は、2025年第1回公募の申請受付中です。IT導入補助金2025の概要については、デジタルシフトやDX推進におけるコスト面からの支援措置として当メディアでも「補助金解説◎IT導入補助金2025」で解説しました。
5つの申請枠が用意されており、申請件数では「通常枠」と「インボイス枠(インボイス対応類型)」が群を抜きます。そして、続くのが「セキュリティ対策推進枠」です。2024年の申請件数は255件と先の2つの枠には及びませんが、採択率は約85%と最も高くなっています。
高度化するサイバー攻撃と被害増を背景に、サプライチェーン全体でのセキュリティ対策が強く求められるようになり、中小企業もカヤの外にいることはできず対策が迫られています。もはやサイバーセキュリティ対策はコストではなく、経営戦略として投資計画に含める必要があります。
そこで、本稿では、中小企業のサイバーセキュリティ投資を支援するIT導入補助金のセキュリティ対策推進枠にフォーカスして概要やポイントなどを解説します。
セキュリティ対策推進枠の制度概要
IT導入補助金のセキュリティ対策推進枠の目的について、事務局ポータルサイトや公募要領では「中小企業・小規模事業者等が、サイバーセキュリティ対策を強化するためのITツールを導入するための経費の一部を補助することで、サイバーインシデントを原因として事業継続が困難となる等の生産性向上を阻害するリスクを低減するとともに、供給制約やそれに起因する価格高騰といった潜在的リスクを低減すること」と説明されています。
端的にいえば、中小企業や小規模事業者などが取り組むサイバーセキュリティ対策への投資に対して資金面で支援し、セキュリティ被害を削減しようというわけです。
もともとは通常枠などのオプションとして、サイバーセキュリティお助け隊サービス(後述)をメインツールと組み合わせて申請する形式であり、申請採択の加点項目ともなっていました。その後、サイバーセキュリティお助け隊サービス単独でも申請できる「セキュリティ対策推進枠」という新たな枠として設置されました。
その制度設計の特徴は、「補助対象ツールは事務局に登録されたものであること」や「IT導入支援事業者との伴走型申請であること」など、他のIT導入補助金申請枠と同じです(上画像)。
補助率と補助額
2025年のセキュリティ対策推進枠では、補助率と補助金額の拡充措置が講じられています。補助率では、中小企業の「2分の1」は従来通りですが、小規模事業者は「3分の2」に設定されました。補助金額については、上限金額が引き上げられ、「5万円~150万円」となっています。
企業側のセキュリティ対策プロジェクトとしては、最低10万円から最大300万円(小規模事業者の場合は7万5000円から225万円)の投資が対象となるわけです。
補助金を利用してセキュリティ対策に取り組んだ場合に、自社の事業ではどのくらいの金額が補助されるかを試算できる「補助金シミュレーター」が、事務局ポータルサイトに掲載されています。申請を検討するうえで、活用してみるとよいでしょう。
補助対象
IT導入補助金では、補助対象(機能要件)について事前に事務局の審査を経て補助金のポータルサイトに公開されたITツールと規定されています。
セキュリティ対策推進枠では、機能要件を「『サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト』に掲載されているサービスのうち、IT導入支援事業者が提供し、かつ事務局に事前登録されたサービス」と規定し、補助対象の経費については「サービス利用料(最大2年分)」としています。
サイバーセキュリティお助け隊サービスとは、中小企業に対するサイバー攻撃への対処として欠かせないサービスをワンパッケージにまとめた、民間事業者が提供するサービスのこと。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が制度化し、適合審査で認めたサービスをリストとして公表しています。
中小企業などが本格的にサイバーセキュリティ対策に取り組む場合、ハードルが高い面もある中、サイバーセキュリティお助け隊サービスでは「ネットワーク監視」「端末監視」「併用」という3種類のサービスを設定。「見守り」「駆け付け」「保険」がワンパッケージ化されており、慣れていない事業者のセキュリティ対策にも導入しやすいものとなっています。
セキュリティ対策推進枠を利用することで、これらのサービス利用料(最大2年分)について最大150万円が補助されるわけですから、セキュリティ環境の導入を検討する事業者にとって大きなメリットです。
また、セキュリティ対策推進枠の交付を受け補助事業を実施することで、他の補助金で加点が得られる場合もあります。例えば、「ものづくり補助金」が挙げられます。同補助金では審査における加点項目に政策加点があり、「健康経営優良法人認定」や「DX認定事業者(関連記事)」などが対象となっています。
その中に、サイバーセキュリティお助け対策サービスも含まれており、セキュリティ対策推進枠を利用することで加点要件を満たすこととなります。さまざまな補助金を活用して経営基盤強化を図る事業者にとって、申請を検討する価値は十分にあるのではないでしょうか。
押さえておくべき申請のポイント
ここからはセキュリティ対策推進枠の申請検討や申請方法におけるポイントについて、公募要領の内容を中心に解説しましょう。
まず、補助金や助成金などの事業全般にいえることとして、申請しようとする制度をしっかりと理解することが欠かせません。事務局ポータルサイトやメディアのガイドなども役立ちますが、やはり公募要領を読み込むことは欠かせません。
IT導入支援事業者のサポートが得られるとはいえ、補助事業の中心は申請事業者です。細かな留意点やポイントなどを知るためにも、一度は公募要領に目を通しておくべきでしょう。
申請を検討するにあたっては、念のため自社が対象かどうか、満たすべき申請要件は何かを公募要領で確認しておきたいところです。対象となる中小企業や小規模事業者の定義(公募要領:P5-6)は、例外規定なども含めてまとめられており、申請要件についても詳細に記載(公募要領:P6-8)されています。
過去にIT導入補助金の交付決定を受けている場合、あるいはIT導入補助金 2025で他の枠に申請中といった場合など、申請が制限されるケースがある点には注意が必要です(公募要領:P14)。
申請要件では、20項目近くが記載されていますが、押さえておきたい項目としては「GビズIDプライムを取得していること」や「SECURITY ACTIONの宣言を行うこと」、「3年間の事業計画を策定し実行すること」などがあります。
GビズID(gBizID)プライムとは、行政サービスを利用するための法人代表者や個人事業主のアカウントのこと。アカウントは「gBizIDホームページ」で作成でき、基本的には取得に2週間程度を要するので、申請を決めたらすぐに準備しましょう。
また、SECURITY ACTIONはIPAが実施しているもので、中小企業が情報セキュリティ対策(「★一つ星」、または「★★二つ星」)に取り組むことを自己宣言する制度です。交付申請書を作成する際、宣言済みのアカウントの入力が必要となります。
どうセキュリティに取り組みSECURITY ACTIONを宣言するかは、「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン(関連記事:DX時代に中小企業や小規模事業者が倣うべき体系的教科書)」が役立ちます。
IT導入補助金の申請では、難しい事業計画書の提出は必要ありませんが、申請事業者に対して労働生産性に関する「年平均成長率1%以上」などの要件を満たす3年間の事業計画を策定し実行することが求められています。
採択率を高めるには、審査項目を理解すると共に加点項目に注目する必要があります。この点も、公募要領に記載(P15-17)されています。
加点項目には、「地域経済牽引事業計画の承認取得」や「健康経営優良法人2025の認定事業者」などいくつかありますが、比較的取り組みやすいのは「IT戦略ナビwithの実施」です。
IT戦略ナビwithとは、「自社の取り組みが同業他社と比較してどうか」という現状を把握し、「どのようにITを活用すればビジネスが成功するか」をIT戦略マップ・導入プランとして作成するツールです。中小企業基盤整備機構のデジタル化を後押しするためのポータルサイト「デジwith(デジウィズ)」で提供されています。
また、前述したSECURITY ACTIONの「★★二つ星」の宣言は、加点対象となります。IT導入補助金の申請要件としては、「★一つ星」でもよいとされていますが、セキュリティ対策推進枠では加点される「★★二つ星」を宣言する方がメリットは大きいでしょう。
国の方針でもある賃上げも加点項目となっています。補助事業の計画期間において、「最低賃金を地域別最低賃金プラス30円以上の水準にする」「給与支給総額の年平均成長率を1.5%以上にする」といった要件を満たす事業計画を策定し、実行することが必要です。
注意したいのは、計画達成が求められる項目で加点を受けて採択されたにも関わらず、加点要件を達成できなかった場合、中小企業庁が管轄する補助金の申請で大幅に減点されること。災害などにより事業に大きな損失があったなどの例外を除き、18か月間にわたって適用されます。特に、賃金引き上げなどの加点項目には慎重な検討が必要でしょう。
この他、交付申請決定後の事業実施や実績報告、留意点などセキュリティ対策推進枠に関する詳細は、すべて公募要領にて説明されています。公募要領を読み込むことが、採択への最も近道といえそうです。
他の申請枠と同じく、セキュリティ対策推進枠も本稿執筆時点で第1次公募の申請受付中(第1次締切:5月12日)です。公募回数の多さはIT導入補助金の利点ですが、実施回数や採択数は予算に左右されます。予算が消化されれば公募は終了するため、早期に申請することも採択率アップにつながります。定期的に、事務局ポータルサイトで公募スケジュールや制度設計の細かな変更などを確認したいものです。
ここがポイント! |
●IT導入補助金のセキュリティ対策推進枠は、中小企業や小規模事業者などのサイバーセキュリティ強化の支援に特化した申請枠。 |
●拡充により、2025年の補助金額は「5万円~150万円」、補助率は「中小企業:2分の1/小規模事業者:3分の2」。 |
●対象となるITツールはIPAの「サイバーセキュリティお助け隊サービス」に掲載され、事前に事務局に登録されたもの。 |
●採択率を高めるには審査項目や加点要件などの情報が詳説された公募要領を読み込むこと。 |
外部リンク
IT導入補助金 事務局ポータルサイト=https://it-shien.smrj.go.jp/ セキュリティ対策推進枠 事務局ポータルサイト=https://it-shien.smrj.go.jp/applicant/subsidy/security/ サイバーセキュリティお助け隊サービス=https://www.ipa.go.jp/security/otasuketai-pr/index.html#service_area gBizIDホームページ=https://gbiz-id.go.jp/top SECURITY ACTIONホームページ=https://www.ipa.go.jp/security/security-action/

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