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2025.07.29 11:55

イベントレポート◎日本DX大賞2025/Day1
“DXのその先”を拓く2日間、Day1は地域医療DX相次ぐ

 2025年7月16日と17日の2日間にわたり、自治体や民間企業などによるデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)推進への取り組みを評価し、表彰する「日本DX大賞2025サミット&アワード」(日本DX大賞実行委員会主催)が開催されました。

 日本DX大賞サミット&アワードは、現場でDXに取り組む実践者が集い、成功も失敗も分かち合う“実践者のための交流の場”となっています。それと同時に、さまざまなDX推進プロジェクトを発掘して共有し、優れた取り組みを称えるコンテストとなる「日本DX大賞」の表彰式を行い、プロジェクトの事例を広く発信するイベントです。

 前年同様、2025年もリアルとオンラインのハイブリッド形式で実施され、会場となった渋谷ストリームホール(東京都渋谷区)には多くの関係者が集い、熱気に包まれました。

 同大賞における実行委員会は、一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX)、一般社団法人ノーコード推進協会(NCPA)、Re-Innovate Japanの 3団体で構成されています。

 応募総数は過去最多となる158件(前回大会は132件)で、コンテストはDX推進プロジェクトのテーマに応じて6部門(地域DX/庁内DX/支援/サステナビリティトランスフォーメーション/事業変革/業務変革)が設定されました。

 書面審査を経て応募者から選出されたファイナリスト(部門ごとにそれぞれ4社・団体)のオンライン審査を6月16日から20日にかけて実施。プロジェクトの戦略性や革新性、成果、組織などの観点から審査を行い、各部門の大賞、優秀賞などが決まりました。

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Day1の各賞受賞者。年々、応募者が増えていることから、積極的にDXに取り組む企業や団体も増えていると推察される

 今年は、「DXの“その先”を拓く、2日間」をイベントテーマとして掲げており、初日(Day1)の16日が行政・公的機関や公共事業に関連する民間企業・団体、2日目(Day2)の17日が一般民間企業・団体を主な対象として実施。

 イベントプログラムは、表彰式に加え、ポスターセッションや過去の大賞受賞者によるパネルディスカッション、各部門のファイナリストによるパネルディスカッションなど、盛りだくさん。参加者にとって、自分たちのDXの取り組みにとどまらず、開催コンセプト通り、その先を見据えた情報の共有や交流の場として機能しているように感じられました。

 本稿では、「地域DX部門」「庁内DX部門」「支援部門」を表彰したDay1の様子をレポートしていきましょう。

地域DX部門:大賞は“いのちを救う救急DX”

 「地域DX部門」は、現場における自治体によるDXへの取り組みや、官民連携による地域課題解決プロジェクトを対象としたものです。今回、大賞に選ばれたのは救急医療の質を上げる“いのちを救う救急DX”に取り組んだ山形県山形市とTXP Medical株式会社(東京都千代田区)でした。

 このプロジェクトは、救急・集中治療・救急隊向け医療データシステムなどを手掛けるTXP Medicalが開発した救急医療情報連携システム「NSER mobile」を、山形市の消防本部や医療機関が導入したことにより実現したものです。

 NSER mobileは、ローコードツールとAIを活用し、救急隊の情報入力負担を軽減すると共に、医療機関へのリアルタイム共有を実現する仕組み。病院の決定や対応要請に要する時間を削減したことに加え、傷病者の救命率や医療機関の準備の効率が向上し、救急隊の大きな課題である搬送困難事例、いわゆる“救急患者のたらい回し”の減少に貢献したことが大きな評価につながりました。

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“救急DX”が評価されて地域DX部門大賞に選ばれた山形県山形市とTXP Medical。審査員の中尾氏(左)、TXP Medicalの大西氏(中央)、山形市消防本部の尾形氏(右)

 審査員を務めた可処分時間ラボ共同代表の中尾潤氏は、医療や消防をテーマとしたドラマが非常に増えていること、今回の地域DX部門でも医療関係をテーマにした応募が多数あったことに言及しつつ、評価ポイントについて以下のように述べました。

 「さまざまなアイデアに加え、文化やKPI(*1)の異なる消防・医療・行政の3者を連携させるという情報共有プラットフォーム構築の難しさがある中で、DXを実現したことが素晴らしい」。
(*1)目標達成度を定量的に評価するための指標

また、受賞した山形市消防本部救急救命課の尾形一氏は、「全国には720の消防本部があり、各地の救急隊もさまざまな課題を抱えている。今回の我われの取り組みが、彼らの参考になればと思う」とのこと。同じく、TXP Medical 医療DX事業部長の大西裕氏は、「我われは、業務効率化だけではなく、地域に安心して住めることをDXで届ける“救急DX”に取り組んでいる。救急医療情報システムを活用して、日本全国が住みやすく、安心して住める場所にしていきたい」と感想を述べました。

地域DX部門の優秀賞・奨励賞

 地域DX部門で、大賞に続く優秀賞や奨励賞に選出されたのは以下の自治体や企業となりました。
〈優秀賞〉
福岡県福岡市とLINEヤフーコミュニケーションズ株式会社
北海道函館市
〈奨励賞〉
福島県福島市

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地域DX部門において優秀賞を獲得した福岡市とLINEヤフーコミュニケーションズ

 特にユニークだったのは、福岡市とLINEヤフーコミュニケーションズ株式会社(福岡県福岡市)が取り組んだ「屋台DXプロジェクト」です。

 福岡市では多数の屋台が出店していますが、個々の営業状況の把握が難しく、観光客におススメの屋台を教えても、行ってみたら店主の都合で休業というケースもしばしみられました。

 そこで福岡市とLINEヤフーコミュニケーションズは、LINE公式アカウント「FUKUOKA GUIDE」に、生成AIによる屋台レコメンド機能「AIおいちゃん」と、IoT電球による営業情報可視化機能を実装。これにより、利用者は好みの屋台を簡単に見つけることができ、リアルタイムで営業状況を確認できるようになりました。

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ノーコードを用いて「現場で育てるDX」に取り組み、地域DX部門優秀賞を獲得した函館市。利便性向上や、“優しさ”の価値を行政サービスに実装した点などが評価された
 
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地域DX部門の奨励賞に選ばれた福島市。オンライン診療を活用した小児科休日診療を実現する地域医療DXを推進。子供を持つ親の負担軽減にとどまらず、地域医療全体の負荷を軽減する重要な取り組みとして評価された

庁内DX部門:都城市が3年連続で大賞獲得

 自治体内部の業務効率化や市民サービス向上に取り組んだプロジェクトを対象とする庁内DX部門では、4年連続の決勝大会進出となった宮崎県都城市が前回に続き大賞を受賞しました。

 都城市は3年連続の大賞受賞という記録を樹立したことで、“殿堂入り”と認定され、今年のトロフィーやパネルに加えて、JDX代表理事の森戸裕一氏から連続して大賞を受賞した記念の盾が贈呈されました。

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都城市は庁内DX部門において大賞受賞3連覇で殿堂入りを果たした。左から審査員の谷畑氏、都城市の佐藤氏、JDXの森戸氏

 都城市は今回、「D(デジタル)に頼りすぎないDX」を掲げ、窓口の“書かないワンストップ化”や、さまざまな手続きのオンライン化といったフロントヤード改革(窓口改革)に取り組みました。

 具体的には、AIカメラの活用による混雑状況の可視化、窓口予約システムの導入など多様な取り組みにより、従来の約3時間から約45分へと待ち時間の大幅な短縮や、職員の残業時間削減などの成果をあげています。

審査では、デジタルツールの導入を前提とせず、徹底したアナログ業務の改革から着手し、これまで多くの成果を上げてきたことが高く評価されました。

 さらに、審査員の谷畑英吾氏(滋賀県湖南市・元市長)は、今春に都城市デジタル統括課副課長の佐藤泰格氏が窓口業務DXで日本DX大賞2023において優秀賞を受賞した北海道北見市を視察したことを紹介。これを受けて、「このように、全国の先進的な知識や知見を取り入れながら変革を進めている姿勢が非常に素晴らしい」と称えました。

 また、殿堂入りを果たした都城市ですが、「今後も新しいチャレンジを続けていきたい」(都城市の佐藤氏)と、さらなる先を見据えました。

庁内DX部門の優秀賞・奨励賞

 庁内DX部門で大賞に続く、優秀賞や奨励賞に選出されたのは以下の自治体や企業となりました。
〈優秀賞〉
鹿児島県指宿市
〈奨励賞〉
大分県別府市
福島県福島市

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指宿市は、「行政手続最適化プロジェクト」で庁内DX部門の優秀賞を獲得した

 庁内DX部門で優秀賞を獲得した指宿市は、同市のDX推進ビジョンに基づき、行政手続きのオンライン申請と窓口のデジタル化を推進しました。

 大規模なシステムへの投資を行わず、国が提供する「ぴったりサービス」(*2)を最大限活用し、システムへの投資を抑え、ほかの小規模な自治体でも応用が可能なモデルを構築したことで高い評価を得ました。
(*2)政府が運営する「マイナポータル」が提供するオンラインサービスの一つで、行政手続きの電子申請などが可能

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デジタルファーストを掲げる別府市は、生成AIを活用したデジタル総合窓口のCitizen Navigator構築事業を推進。行政の根幹となる正確性を生成AIで担保する取り組みは他の自治体への展開も期待されると評価され、庁内DX部門奨励賞に選ばれた
 
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出産・子育て応援DXに取り組んだ福島市は、市民目線のシステム内製化や事務効率化などが評価され庁内DX部門奨励賞に

支援部門:RPA活用で中小企業に寄り添うロボ研が大賞

 中小企業や地域のDX推進をサポートする企業や団体などの取り組みを対象とする「支援部門」の大賞受賞者は、株式会社ASAHI Accounting Robot研究所(山形県山形市/通称:ロボ研)でした。

 ロボ研の前身は、税理士法人あさひ会計グループ内の業務効率化を目的に設置されたRPA(Robotic Process Automation)推進チームです。

 そこで培われた自社のRPA活用ノウハウを中小企業や会計事務所に提供しており、事務作業の生産性向上や高付加価値業務へのシフトを支援すると共に、セミナー開催を通じて企業内のRPA推進にかかわる人材の育成にも注力するなど精力的な取り組みが評価されました。

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RPAの活用ノウハウや人材育成などの面で地域DXを支援しているロボ研が、支援部門の大賞に選ばれた。審査員の酒井氏(左)とロボ研の澁谷氏(中央)

 選考理由について、審査員の酒井真弓氏(ノンフィクションライター)は、「同社が会計事務所という専門家集団でありながら自らを変革して現在の事業を進めてきたこと」や「全国の中小企業向けに伴走型の支援を行っており、支援の輪が広がり着実に浸透していること」、「非IT人材のリスキリングを通じて現場の業務を変革していること」などを挙げています。

ロボ研のマネージャー/テクニカルエバンジェリストの澁谷匠氏は、大賞に選出されたことを受けて、次のように語気も強く意思表明しました。

 「我われは、何よりも支援先のみなさんのことを考えながら仕事をしている。大賞受賞を励みに、全社一丸となって、今よりも1.5倍、いや、2倍以上は、よりよいサービス・サポートを提供していけるだろう」。

支援部門の優秀賞・奨励賞

 支援部門で、大賞に続く優秀賞や奨励賞に選出されたのは以下の企業や団体、組織となっています。
〈優秀賞〉
国立大学法人東北大学
プロフェクト株式会社
〈奨励賞〉
大阪府堺市 堺DX推進ラボ

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東北大学は、「業務のDX推進プロジェクト」に取り組み支援部門優秀賞に選ばれた。評価ポイントは、自大学にとどまらず、「大学DXアライアンス」を設立して知見を全国の大学で共有し、高等教育全体のDX底上げのプラットフォームを構築したこと
 
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プロフェクト株式会社(本社:東京都港区)は、全国の中小企業8社が開発した生産管理システムTEDによる、現場ニーズに即した実践的なDX推進が評価され、支援部門優秀賞を獲得した
 
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地域ぐるみによるDX支援を通じた企業価値向上に取り組む堺DX推進ラボが、支援部門奨励賞を獲得。産学官、さらに金融機関など充実した連携体制で地域企業の課題解決に取り組むモデルを構築したことなどが評価された

「JDXアンバサダー制度」創設! 第1期生紹介

 JDXでは、2025年6月に「JDXアンバサダー制度」の創設を発表しています。同制度は、日本DX大賞をはじめとしてJDXが主催するさまざまなコンテストで優れた実績をあげた受賞者から、DX推進の経験と知見を社会に還元する意欲を持つ人たちをリーダーとして認定するものです。

 第1期生として、39名がアンバサダーに認定されており、日本DX大賞2025の開催会場で紹介されました。

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会場で紹介された16名のJDXアンバサダー(Day1)
 
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Day2では、13名のJDXアンバサダーが現地参加した

 「これまで表彰された方々を卒業生として迎え、タッグを組んで日本の変革を一緒にやっていく仕組みを構築した。今回表彰された方々もアンバサダーの資格があるので、彼らと同じ目線で一緒に頑張ってほしい」とJDXの森戸代表理事。この制度により、DXの現場で活躍する実践者が全国規模のネットワークでつながり、知見と経験を共有する取り組みの加速が期待されます。

外部リンク

日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX) 山形県山形市 TXP Medical株式会社 宮崎県都城市 株式会社ASAHI Accounting Robot研究所
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