デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の実現には、さまざまなテクノロジーが用いられます。社会実装が進むドローン(無人航空機)も、その一つであることは間違いないでしょう。
このドローンに関連する総合展示会「Japan Drone(ジャパン・ドローン)2025」が、6月4日から6月6日の日程で幕張メッセにて開催されました。今回は第10回目を迎える記念会となり、第4回目となる「次世代エアモビリティEXPO 2025」との併催。主催者発表によると、会期中2万3049名(前年比108%)が足を運びました。
同展示会を記者として取材するのは、実に8年ぶりのこと。第1回と第2回に足を運んで以来となります。驚いたのはテクノロジーの進化のスピード。当時、ドローンのビジネス向け用途といえば搭載カメラによる空撮がメインでした。産業用においても、農業などの農薬散布などでの利用が主なもの。インフラ監視・保守や警備といったコンセプトモデルは見られましたが、実装フェーズに入るのはまだ先という状況でした。
それが、この10年近くで技術が進化し法制度も整いつつあることから、さまざまな領域で活用の実事例が報告されていました。
初開催から出展を続ける某ブースの担当者も「単に空飛ぶカメラというフェーズはとうに脱し、幅広い分野での活躍が期待される」と語っており、ドローン本体はもちろん、それを取り巻く環境を含めて大きく発展していることが感じ取れました。
記者目線ではありますが、具体的なポイントとして注目したのは「ドローンポート」「枝分かれ(特化・分化)」「機体大型化へのチャレンジ」「eVTOLの広がり」などのキーワードです。以下、詳しくレポートしていきましょう。
機体との一体型システム「ドローンポート」
まず、最も目を引いたのが「ドローンポート」。大手ドローンメーカーのDJIなどはドックと呼んでいますが、空港を意味するエアポートになぞらえた前者が一般的となっています。
ドローンポートとは、ドローンを遠隔で自動運用することを目的とした施設や機器のことです。いわば、ドローン本体とポートが一体となったドローンシステムやソリューションといってもよいでしょう。
本体にドローンが離着陸し収納するスペースがあり、現場にいなくとも事務所などから遠隔操作が可能です。プログラムやAIなどによる自律飛行、自動帰還や自動給電、バッテリー交換やメンテナンスまで自動化され、さらに取得データはクラウドに自動アップロードされるといった機能を備えたフルシステムのポートが標準化しつつあります。ドローンポートはオペレーションの完全自動化を実現し、ビジネスや産業におけるドローンの実装範囲を広げ、利便性を飛躍的に高めることに貢献しています。
ドローンポートを用いたドローンシステムは、インフラの監視や点検、一部物流などにおいて、定期的な複数飛行といった長時間運用の効率化を目的に活用されている事例が多いとのこと。
例えば、橋梁の点検・監視では事前に飛行経路や飛行時間をプログラムし、同じルートを自律的に定期飛行させるといった運用を行えます。警備などの分野では、巡回中にバッテリーが切れる前にドローンがポートに帰還し、充電終了後に再び飛行を開始するといった使い方が考えられます。
こうした活用は、民生用機器のお掃除ロボットを思い浮かべるとイメージしやすいのではないでしょうか。
災害対策の分野でも、ドローンポートの実装は進んでいます。宮城県仙台市では、令和4年からドローンポートの本格運用を開始しました。東日本大震災で市職員や消防団員が避難広報中に被災した経験を踏まえ、津波からの避難を呼びかける手段として導入したとのこと。津波警報との連動によりドローンが離陸・飛行し、サイレン音が届かない場所にいる人に避難を呼びかける体制を整えています。
また、令和6年の能登半島地震では、ドローンポートを用いた自動監視システムが災害現場に初実装されたとのこと。二次災害を防ぐ目的で、土砂ダムを撮影して決壊のリスクを監視しました。
さまざまなメーカーがドローンポートの開発を進めており、種類も増えつつあります。大型の据え置き型だけでなく、Autel社の小型ドローンポート「EVO Nest」やGDU社の車載型ポートなど、多様化を背景に今後その活用の幅も広がっていくことが予想されます。
ドローンを理解するための基礎知識 航空法において、ドローンは無人航空機に分類されます。「航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」(航空法第11章)と定義され、飛行許可承認申請手続きを含め、航空法の規制対象です。 ただし、機体本体の重量とバッテリーの重量の合計が100g未満のもの、いわゆる軽量なトイドローンのようなタイプは除かれます。 ドローンにはさまざまなタイプがありますが、カテゴリーとして大きくは回転翼型と固定翼型、VTOL (Vertical Takeoff and Landing)型があります。回転翼型には一基のプロペラで構成されるシングルローター型と、複数のプロペラが搭載されたマルチコプター型があることから、主にこれら4タイプが代表的なものとして挙げられます。 ただし、機体本体の重量とバッテリーの重量の合計が100g未満のもの、いわゆる軽量なトイドローンのようなタイプは除かれます。 シングルローター型ドローンは、端的にいえば無人ヘリコプターです。農薬散布などを目的に農業分野で用いられることが多い他、物資輸送や測量情報などの取得、自然環境のデータ計測などが主な用途です。 マルチコプター型ドローンは、最も一般的なドローンのイメージに近いものでしょう。複数のプロペラを備えたタイプで、屋内外を問わず空撮や測量、物資輸送、インフラ点検、農薬散布、配管内点検や室内警備など多用途で使われています。手動操作だけでなく、自律飛行に対応する機種も豊富です。 固定翼型ドローンとは、文字通りプロペラがなく翼が固定されたタイプ。長距離飛行が可能なので、広範囲の作業が必要な農業や測量、監視などの用途で用いられています。 VTOL型ドローンは、日本語で「垂直離着陸機」といい、回転翼と固定翼を併載したハイブリッド型タイプです。回転翼で垂直離着陸を行い、固定翼で長距離高速飛行を可能とします。いわば回転翼型と固定翼型の、いいとこ取りといったイメージです。軍事用途などで先行して使用されていますが、今後は産業分野での活用が期待されています。なお、VTOLは「ブイトール」と発音され、VTOLの中でも特に電動で飛行するものは「eVTOL」と呼ばれます。 |
さまざまな用途に最適化されたドローン
ひと昔前、ドローンといえばカメラを搭載して無人で空を飛ぶ機器と解されていました。しかし、今では技術的な進化と共に分化が進み種類も枝分かれしており、さまざまな用途に最適化された機体が展示会場には並んでいました。
興味を引いた機体やブースで話を聞けたものなどから、いくつかピックアップして紹介しましょう。
環境にやさしく長時間飛行が可能な水素燃料
ドローンにおける技術的な課題の一つに飛行時間が挙げられます。モーター駆動(プロペラ)を動力源とするドローンでは、その電源はリチウムイオン充電池などのバッテリーが用いられています。しかし、機体の軽量化やペイロードが優先されると容量が限定されるため、飛行時間は制約されます。
主流の回転翼型ドローンでは、機種サイズやペイロードなどのスペックにもよりますが、20分から30分くらいが一般的です。産業やビジネスに実装されるには、より長時間の飛行が求められることは確かでしょう。
そうした状況下、ドローンにおいても水素燃料電池が注目されています。周知の通り、水素燃料電池は水素と酸素を化学反応させて電気を作り出す発電装置です。発電効率はそれほど高くありませんが、発する熱を利用することで総合的なエネルギー効率が高いことを特徴とします。このため同じ容量でも、水素ガスを用いたドローンは一般的なバッテリー充電池より長時間飛行が可能となるわけです。
この分野で先行しているのが、国内企業のロボデックス社です。今回の展示会では、水素ドローン「aigis one」を紹介していました。
同社は、日本で初めて水素ドローンを開発して許認可を取得。水素ドローンの機体のみならず、社会実装の推進に向け軽量化した水素ガスカートリッジの開発に取り組んでおり、展示会場でも新しいカートリッジを紹介していました。
さらに、移動式水素ステーションによる充填サービスを提供するなど、水素ドローン周辺も含めたトータルソリューションを展開しています。
特殊環境向けドローン
Flyabilityが開発した屋内点検・測量用球体ドローン「ELIOS 3」は、LiDARセンサー(*1)によりスキャンされた空間情報がリアルタイムに3次元データ化されるので、ドローンの位置と周辺環境を瞬時に把握できます。随時、機能も更新されており、最近では離陸地点に自動帰還する「スマート・リターン・トゥ・ホーム」機能が追加されました。
(*1)光を用いたリモートセンシング技術で、Light Detection And Rangingの略。照射したレーザー光の反射情報を利用して対象物までの距離や物体の形を計測する
また、カメラやセンサーなどの外部デバイスを装着・脱着できるモジュラー式ポートを備えており、さまざまな用途に拡張できることから、幅広い分野での活用が考えらることも特徴でしょう。
こうした情報収集力と安定した飛行能力といった特徴から、ボイラーや溶鉱炉、煙突内部、埋没配管などの特殊環境向けで活用。日本では、同モデルを用いたソリューションをブルーイノベーション社が提供しています。
社会実装が進む水中ドローン
用途特化という意味では、水中ドローン(無人潜水艇)も盛況でした。海洋分野でも高齢化などを背景に人手不足の課題を抱えており、水中ドローンは養殖場やインフラ点検、藻場調査などで活用されています。展示会場では、体験コーナーの設置や実機の展示など多くのモデルが紹介されていました。
水中で使われるドローンには、空中を飛行するドローンとは違った難しさがあります。その一つが、視界の問題といわれています。海洋や河川環境では、南国の澄んだ海でもなければ、調査環境は視界不良という状況がほとんど。手動操作や自律運行の難しさに加え、取得した映像データも濁りなどにより画質がよくないというケースが多いといいます。
そこで、この課題を解決するために開発されているのが水中画像画質改善システムです。水中で取得した映像データをソフトウェア処理により改善し、視認性のよい映像に補正するもの。会場でも、いくつか紹介されていました。
重量物運搬ドローンで運搬サービス受託
古河産業は、積載可能重量75kgの「EAGLE 75」と、同49kgの「EAGLE 49」という重量物運搬ドローンを展示していました。開発元はドローンWORKシステム社で、古河産業はこれらのドローンを用いて運搬サービスを提供している点に興味を引かれました。
ドローン開発では中国などの海外メーカーが圧倒的に先行しており、純国産機は少ない状況です。こうした背景から、国内メーカーがドローンビジネスに関わる場合、国内代理店として機体を販売するか、あるいはソフトウェアなどの周辺サービスと組み合わせたシステムやソリューションとして提供するか、といった事業展開が多く見られます。
そうした中、古河産業では重量物運搬業務を企業から受託しているという点で少し毛色が異なると感じました。同社が手がけているのは、いわゆるラストワンマイル(目的地に到達するための最後の区間)に着目したサービス。山間部などにおいて、地上の道路経由では目的地まで到達できない最終区間について、ドローンを用いた運搬業務を請け負っているわけです。
「バッテリー駆動のドローンは技術的に飛行時間に課題があり、またドローン物流が活性化するには法整備が追いついていない状況下、ラストワンマイルの重量機材運搬はサービス提供者と顧客の双方にとって適したもの」とブース担当者は話していました。
機体大型化へのチャレンジ
基本的に、ドローンは機体が大きいほど重量物を長距離運行することができます。この観点から、展示会場ではマルチコプター型ドローンの大型モデルも見られました。実装はまだ先になりそうですが、数年ぶりに会場に足を運んだこともあり、そのサイズ感には驚きました。
例えば、インフラ事業者や国の機関、自治体などと連携しながら開発を進める三菱重工は、同社無人機の試作モデルを展示していました。同社はカテゴリー上、中型機と位置付けていますが、ペイロード200kg、航続距離200km(将来計画/バッテリータイプ仕様では15km)という仕様は回転翼タイプとしては大型の部類に入るでしょう。
数年前から研究開発が進められており、昨年にはヤマハ発動機との共同開発に着手。エンジンにより発電した電力を用いて個々のローターを電動モーターで回転させるハイブリッド化を実現しました。今年の4月中旬には初浮上にも成功したとのことです。
試作のリーディングカンパニーというトピア社は設計から機体までオリジナルで内製したバッテリータイプの大型ドローンを展示。大型のマルチコプター型ドローンは来場者の目を引きました。
また、グリッドの増減により機体のサイズ感を変更できるテクノシステム社の「スペースフレームドローン」も興味深い技術です。軽量・高強度のスペースフレームにより大型化も可能で、会場にはペイロード300kgをイメージしたモデルが展示されていました。
VTOLの広がり
会場では、VTOLの実機やモックの展示も目立ちました。それこそ以前はコンセプトとして構想はあったものの実機をほとんど目にしなかったカテゴリーですが、徐々に実装に向けて進みつつあるようです。
先の囲みでも解説した通り、VTOLとは日本語で垂直離着陸機です。回転翼タイプのように垂直に離着陸できるので滑走路を不要とし、固定翼機のように高速で長距離を飛ぶことができます。それだけに活用の幅も徐々に広がっており、測量やインフラ点検、物流、農業などで使われつつあります。
展示ブースでは、日本初のVTOL型ドローンとされるエアロセンス社のエアロボウイング「AS-VT01」や災害対策用「AS-H1」、ガスタービンを用いた独自のハイブリッドシステムを採用したHIEN Aero Technologies社のeVTOL、テララボ社のコンセプトモデル「TERRA Dolphin 8000」などが存在感を放っていました。
法制度が整えば市場の急拡大も
今回の展示会からも見てとれたように、ドローン本体や周辺のテクノロジーは飛躍的に進化しています。産業やビジネスにも活用は広まりつつある中、ボトルネックとなっているのは法整備です。もちろん、以前に比べて整いつつありますが、さまざまな規制も敷かれており、なかなかドローンをビジネスに導入するにはハードルが高い状況です。
しかし、逆にいえば法規制の緩和や整備が進めば、一気にドローン活用が広まる可能性もあるわけです。例えば、電子商取引(EC)市場の拡大、高齢化や過疎化を背景とした買い物弱者の増加、さらに人手不足の問題からラストワンマイル物流のニーズはますます高くなることが予想されます。この解決のためにも物流ドローンへの期待度は高く、実証実験や法整備は急ピッチで進められています。
幕張メッセでのJapan Drone 2025は閉幕しましたが、「第2回Japan Drone/次世代エアモビリティEXPO 2025 in 関西」が11月26日と11月27日の二日間にわたり、ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター(大阪市北区)で開催されます。そちらに足を運んでみるのも、よいかもしれません。
外部リンク
第10回Japan Drone/第4回次世代エアモビリティEXPO 2025 第2回Japan Drone/次世代エアモビリティEXPO 2025 in 関西

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