空の産業革命やデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)を実現するものとして注目されている技術の一つが「ドローン(無人航空機)」です。例えば物流分野の人手不足解消などに期待されていますが、同分野に留まらず幅広い領域での活用が検討されており、社会実装も徐々に進んでいます。
そもそもドローンとは、航空法において無人航空機に分類されます。「航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」(航空法第11章)と定義され、飛行許可承認申請手続きを含め、航空法の規制対象です。
ただし、機体の本体重量とバッテリーの重量の合計が100g未満のもの、いわゆる軽量なトイ(ホビー用)ドローンのようなタイプは除かれます。
ドローンは最近の技術のように考えられがちですが、その歴史は意外にも古いもので、第二次世界大戦頃に端を発しました。イギリスとアメリカで開発が進められ、イギリスは1935年に、アメリカは1940年に無人飛行に成功したといわれています。
以降、ドローンは無人偵察や無人攻撃などの軍事利用を目的に研究・開発が継続されます。それが1980年代後半になると、農薬散布などを主用途に民間で活用されるようになりました。いわゆる産業用ドローンの登場です。
その端緒となったのは、ヤマハ発動機が1987年に開発・製品化した世界初の薬剤散布用無人ヘリコプター「エアロロボットR-50(L09)」(*1)。12馬力のガソリンエンジン駆動、ペイロード20kgのシングルローター型ドローンです。
(*1)参考:ヤマハ発動機 無人システムHP(https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/heli/history/r-50-l09.html)
今やドローン開発において海外メーカーの後塵を拝していますが、実は産業用ドローン普及の先鞭をつけたのは日本です。特に農薬散布用では活用が広がり、ドローン大国ともいわれる状況でした。
とはいえ、ドローンの知名度はそれほど高いとはいえませんでした。そうした中、ドローンが注目されるきっかけといわれているのが、2010年にフランスのParrot社が発売した「AR Drone」です。ホビー用ドローンの元祖といわれる小型機で、搭載カメラによる空撮やライブ映像を見ながらの遠隔操縦(FPV飛行方式/後述)など、多くの人がイメージするドローンの原型となりました。
AR Droneの登場を機に、中国DJIなど多くのメーカーが続々とドローンを市場投入しました。趣味として親しまれるようになったことで認知度が上がると共に、産業分野では農業以外にも用途が拡大。「空の産業革命」と呼ばれ、災害対策や物流、インフラ点検などさまざまな領域で導入が進んでいます。
以下、ドローンの種類や技術、応用分野などについて、もう少しドリルダウンして詳しく見ていくことにしましょう。
さまざまなドローンの種類とタイプ
ドローンには、さまざまなタイプや種類があります。大きなカテゴリーとしての視点から見た場合、「回転翼型」「固定翼型」「VTOL (Vertical Takeoff and Landing)型」といった分類が可能です。さらに、回転翼型には一基のプロペラで構成される「シングルローター型」と、複数のプロペラが搭載された「マルチコプター型」があり、これらの4種類が無人航空機として代表的なものとなります。
回転翼型:シングルローター型ドローン
シングルローター型ドローンは、文字通り一基のメインローターだけで飛行するタイプで、端的にいえば「無人ヘリコプター」のことです。初期のドローンといえば、基本的にはこのタイプが主流でした。
同モデルの駆動スタイルはヘリコプターと同じです。メインローターの揚力だけで浮上し、ローターやテール(尾翼)の角度変更により機体を制御して前後左右に移動します。
現在も、産業向けでドローンが最初に使われるようになった農薬散布で用いられることが多い他、測量情報などの取得や自然環境のデータ計測などでも使われています。旧タイプというわけではなく、シングルローター型も進化しています。もともとローターが一基のため燃費がよく、大型プロペラはペイロードに余裕を生みます。また、飛行スピードが速いことも特徴です。このため、災害対策や物資の搬送といった分野での活躍が期待されています。
回転翼型:マルチコプター型ドローン
同じ回転翼型でも、マルチコプター型ドローンは複数のプロペラを備えたタイプです。ドローンをイメージして、一般的に思い浮かべるのはマルチコプター型ではないでしょうか。
搭載されたローター数に応じた呼称もあり、トライコプター(3基のローターを搭載)/クアッドコプター(4基のローターを搭載)/ヘキサコプター(5基のローターを搭載)/オクトコプター(6基のローターを搭載)などとなっていいます。ローターが多いほど機体を大型化でき、飛行は安定しペイロードも増える点がメリットです。ただし、利用場所までの機体移動の不便さや機体構造の複雑さなどが、デメリットとなります。
複数のローターで構成されるため、一基あたりのプロペラサイズは大きなものではありません。機体の制御や前後左右の移動では、基本的にそれぞれのプロペラの回転数を個別に変えることで行います。
屋内外を問わず空撮や測量、物資輸送、インフラ点検、農薬散布、配管内点検や室内警備など幅広い用途で使われています。手動操作だけでなく、自律飛行に対応する機種も豊富です。
固定翼型ドローン
固定翼型ドローンとは文字通り翼が固定されたタイプで、いわゆる飛行機型のドローンです。大きな主翼により発生する揚力で飛行します。そのメリットには、長距離を安定して高速飛行できることや、機体を大型化しやすいのでペイロード(最大積載量)を拡大しやすいことなどが挙げられます。ただし、ローター飛行ではないため垂直移動や横移動、ホバリングはできず、離着陸には滑走路を必要とします。
こうした特徴から、固定翼型タイプは広範囲の作業が必要な農業や測量、監視などで使われており、日本よりも海外の国土の広い地域において活用が進んでいます。
VTOL(Vertical Takeoff and Landing)型ドローン
VTOL型ドローンは、日本語で「垂直離着陸機」といい、回転翼と固定翼を併載したハイブリッド型タイプです。回転翼タイプのように垂直に離着陸できるので滑走路を不要とし、固定翼機のように高速かつ安定して長距離を飛ぶことができます。回転翼型と固定翼型の、いいとこ取りといったイメージです。
なお、VTOLは「ブイトール」と発音され、VTOLの中でも特に電動で飛行するタイプは「eVTOL(electric VTOL:電動垂直離着陸機)」と呼ばれます。
もともと軍事用途などで先行して開発され使用されてきましたが、今後は産業分野での利用が期待されます。測量やインフラ点検、物流、農業などでの活用が想定される他、国が2030年代の本格導入を目指す「エアモビリティー(空飛ぶクルマ)」では、eVTOLがメインストリームになるといわれています。
用途特化・ソリューション化するドローン 本文でも言及したように、かつてドローンといえばカメラを搭載した無人飛行機でしたが、今では枝分かれやシステム化により、個別用途に最適化した機体が登場しています。 例えば、用途特化では「特殊環境型ドローン」などが挙げられます。特殊環境型ドローンとは、ボイラーや溶鉱炉、煙突内部、埋没配管といった通常飛行では難しい環境で利用することを想定したもの。目視できない厳しい環境のため、優れたリモートセンシング技術や安定した高精度な自律飛行、機体の損傷防止など、先端テクノロジーの搭載により実現されています。 また、ソリューション化という意味では「ドローンポート」が代表的です。ドローンポート(*2)は、空港を意味するエアポートになぞらえたもの。機体を遠隔で自動運用することを目的とした施設や機器のことで、ドローンとポート(離発着場・収納庫)が一体となったシステムといってもよいでしょう。 (*2)「ドローンドック」とも呼ばれる ポートにはドローンが離着陸し収納するスペースがあり、現場にいなくとも遠隔操作が可能です。プログラムやAIなどによる自律飛行を可能とし、ポートへの帰還や給電、バッテリー交換やメンテナンスまで完全自動化。取得データはクラウドに自動アップロードされるなど、オペレーションフリーを実現します。 こうした特徴から、ドローンポートは人が足を運びにくい場所で定期的に複数回飛行が必要なインフラの監視や点検、室内外の巡回警備といった長時間運用、災害対策などの分野で実装が進んでいます。 |
ドローンの仕組み~いかにして飛行するのか~
では、ドローンが飛行する仕組みはどうなっているのでしょうか。回転翼タイプを例に見てみましょう。
基本的な仕組みは、回転翼(ローター/またはプロペラ)を高速回転させることで揚力を発生させて飛行します。マルチローター型ドローンの場合は、個々のローターの回転速度や向きを変えて上昇・下降・ホバリング(空中停止)、前後左右の移動や水平回転を行うことは、すでに言及しました。
ローターを駆動させるために用いられる動力源は一般的にリチウムイオン充電池(*3)です。このバッテリーからの電力によりモーターを動かしローターを回転させるわけです。
(*3)ゲル状の電解質を用いたリチウムイオンポリマー充電池。ただし、実際には液体電解液を使用したリチウムイオン電池が一般的とされる
そして、ドローンをドローンたらしめる特徴が実にさまざまなセンサー類を搭載していること、これらセンサーからの情報を制御・処理するCPUなどの半導体が搭載されていることでしょう。実際、ドローンは「飛行するセンサー」や「空飛ぶプロセッシング」などとも呼ばれています。
例えば、飛行に関していえば、「フライトコントローラー」が大きく関係しています。ドローンには機体の傾きなどを制御する「ジャイロセンサー」や「加速度センサー」、「地磁気センサー(電子コンパス)」、「気圧センサー」といった慣性センサー(IMU:Inertial Measurement Unit)などが搭載されています。
さらに、現在位置を把握するためのGPSや、非GPS環境下で自己位置を知るために画像情報をもとに位置などを知るVisual SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)、障害物を検知するための測距用の「赤外線センサー」や「超音波センサー」などを備えています。
こうしたセンサーや装置からの情報やデータを統括管理しているのが、フライトコントローラーです。このコントローラーが、一元的に処理や判断してローターの回転数を調整することで、操縦者による安定した飛行や自律飛行、安定したホバリング、フェイルセーフ機能(*4)などが実現されているのです。
(*4)電波受信の不能やバッテリー切れといった不具合が発生した際、帰還や着陸など事前に設定した飛行モードを自動的に行う機能
3種類のドローン飛行方式
また、ドローンを飛行方式により分類した場合、3種類のオペレーションが挙げられます。具体的には、「直視型無線操縦」「FPV(First Person View)型無線操縦」「自律飛行」です。
直視型無線操縦は、従来のラジコン飛行機などと同じように操縦者が機体を目で確認しながらプロポ(無線操縦装置)で遠隔操作する方法です。操縦者が目視できる範囲が操縦の限界距離となりますが、その操作では機首の向きを把握することが求められます。
このため、対角ホイールベース(対角に位置するモーターの中心間の距離)が1m程度の大き目なドローンでも、操縦可能な範囲は見通しのよい場所で数百メートルとされています。実際の飛行では、技術的には無線通信の規格や飛行環境に左右されると共に、法制度(後述)にも規制されます。
ドローンの操縦でイメージされることの多い飛行方式がFPVでしょう。機体搭載カメラが撮影したライブ映像をプロポやゴーグルに搭載されたディスプレイや見ながら、遠隔操縦する方法です。飛行可能な範囲について、無線通信の規格や環境、法規制の影響を受けることは、直視型無線操縦と同じです。
自律飛行は、ドローンに搭載されたフライトコントローラーに事前設定された航路に従い自動航行する方法です。そのために必要となるのが、GPS衛星から送られる測位信号。この情報から機体の現在地(緯度/経度/高度)をリアルタイムに把握して飛行するわけです。
現在地の把握には4基以上のGPS衛星から信号を受信することが必要で、当然ながら測位信号を得る衛星数が多いほど誤差は軽減されます。
以上、前編ではドローンの種類や技術、仕組みなどについて解説しました。後編では、「法制度」や「各分野での活用同行」、「普及への課題」など、ドローンを取り巻く外部環境にフォーカスします。
なお、ドローンの最新動向については当メディアの記事「展示会レポート◎Japan Drone 2025」で取り上げています。
ここがポイント! |
●「空の産業革命」といわれるドローンは、幅広い分野でDXを実現するテクノロジーとして期待される。 |
●産業での活用は1980年代以降だが、開発の歴史は第二次世界大戦の時期までさかのぼる。 |
●空中ドローンには大きく4つのタイプがあり、さらに最近は用途特化やソリューション化が進んでいる。 |
●飛行方式は「直視型無線操縦」「FPV型無線操縦」「自律飛行」の3種類、さまざまなセンサーにより安定した運航を実現する。 |

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