デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.08.09 11:00

オフィスDX◎フリーアドレスの始め方/実践編
導入効果を最大化するために必要な“5つのステップ”

 企業や組織などのオフィスにおけるDX推進の端緒としてフリーアドレスが有効であることは、「オフィスDX◎フリーアドレスの始め方/理論編」で解説しました。本稿では、実際にオフィスをフリーアドレス化するうえでのポイントについて見ていくことにしましょう。

導入後も運用を維持できる仕組みが不可欠

 オフィスのフリーアドレス化には業務効率化や創造性の育成といったメリットがある一方、ワークスタイルやコミュニケーションに変化をもたらすことからデメリット(課題)が生じる可能性もあります。

 この課題を解消しなければ、せっかくフリーアドレスを導入しても効果は期待できません。それどころか、逆に生産性が落ちるといったプロジェクトの失敗につながりかねません。

 そこで、オフィスのフリーアドレス化を成功させるためには、下図のような手順を踏まえて着実にプロジェクトを推進していくことが大事なポイントです。

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 この手順は、大きく5つのステップから構成されています。個々の内容を見ていきましょう。

 まず、①目的の明確化/在席率の調査は、導入の可否を判断する重要なステップといえます。大事な点は、フリーアドレス化の目的を明らかにすること。社内コミュニケーションの強化なのか、ハイブリッドワーク実現に向けた施策なのかなど、「なぜフリーアドレスを導入するのか」を定義しましょう。これにより、何となくのフリーアドレス化といった事態を避けることができ、導入後の具体的な効果を検証しやすくなります。

 勤務時間帯にどのくらいの従業員がオフィスにいるかを示す在席率の調査は、適正な席数設定やフリーアドレス導入の判断材料として欠かせません。席数の設定を誤ると、従業員のオフィスへの集中時に座席不足や狭いといった状況に陥るリスクが高まります。

 オフィスコストの削減が目的の場合には、在籍率調査を怠り余剰座席が発生すると十分なコスト削減効果が得られません。

 そもそも、このステップではフリーアドレス化が適さないケースがあることにも留意しておくべきです。例えば、さまざまな手続きで社員が出入りする機会が多い総務部門、膨大な資料や制作物を扱うデザインや設計、製作部門などは固定席の方が利便性は高いといえます。

 また、前述した在籍率調査でビジネスタイムの在籍率が7割を超えるような場合も、一般的にはフリーアドレス化が向いていないとされています。

 こうしたポイントも踏まえ、いきなり全社規模でフリーアドレス化を始めるのではなく、事業部やワークグループといった組織単位から導入するスモールスタートが現実的といえるでしょう。

 次に、①で明確にしたフリーアドレス化の目的を従業員へ浸透させるステップが、②社員への周知・合意形成です。リモートワークの広がりを背景に自由なワークスタイルには慣れたとはいえ、オフィスに自席がなくなることに抵抗や既得権の喪失を感じる従業員は意外に多く、その不安感の払しょくが求められます。

 このステップで、もう一つ取り組むべきことが運用ルール作りです。席の割り当て方法や占有時間、離席時の対応、スケジュールの共有やIT機器の管理など、決めておくべきことは多々あります。

 そして、このルールを従業員に周知徹底することは欠かせないステップです。運用ルール作りも含めて、導入プロジェクトへ従業員にも参加してもらいながらフリーアドレス化を進めるのも効果的な方法といえるでしょう。

フリーアドレスの種類を理解してレイアウト設計

 ここまでがフリーアドレス化に向けた意識変革だとすると、③レイアウト設計と④IT機器などの手配・導入は物理的なアプローチといえるステップです。

 フリーアドレスの③レイアウト設計にはデスク形態や運用の視点により、いくつかの種類があります(*1)。これらを理解したうえで目的に合わせて、どのようなスタイルを実現するかを考えていきます。 (*1)ここで取り上げるフリーアドレスの種類は、文具メーカーのコクヨの定義による

 デスク形態とはデスクタイプに基づいた分類であり、具体的なものとしては「作業面共有型」と「スペース共有型」などが挙げられます。

 作業面共有型とは、一般的なフリーアドレスに見られるスタイルであり、足元に仕切りがないロングタイプのデスクを用いて机上(作業面)を出社した社員により共有するものです。

 人数の増減に柔軟に対応できることが特徴で、例えば利用する従業員が少ない時間帯ならデスク面を広く利用できることから、固定アドレスよりもゆったりと業務を行うことができ作業の効率アップなどが期待できます。

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 スペース共有型は、キャスター付きタイプのデスクを設置することにより、業務用途に合わせてフレキシブルにレイアウトを変更するスタイルです。同一のエリア内でデスクを動かせるので、さまざまな使い方を可能とします。

 例えば、通常は複数台のデスクを隣接して並べて作業用デスクとして活用しつつ、必要に応じて切り離してミーティングテーブルなどに使うといったことができます。

 社員自身が速やかにレイアウトを変更して業務内容に応じた最適なデスクスタイルを短時間で実現できる点が、メリットといえます。

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 また、運用視点から見たフリーアドレスの種類には「完全フリーアドレス」「グループアドレス」「固定席・グループアドレス併用型」などがあります。

 完全フリーアドレスは文字通り、オフィス全体において自由に座席を選ぶことができるスタイル。在籍管理や形骸化などの課題に対処する必要はあるますが、社内全体のコミュニケーション活性化やオフィススペースの効率利用、自律性・創造性の育成といったフリーアドレス化のメリットを最大限に享受することができます。

 部門やワークグループなどの連携を保持したまま、コミュニケーション活性化や創造性の向上、部門間連携を促すスタイルがグループアドレスです。部門(グループ)単位ごとに一定期間でオフィス内の座席エリア(シマを移動しながら、グループ内でも座席を固定せず自由に席を選択する方法です。

 フリーアドレス化では事業部などの部門内での意思疎通が希薄になる可能性が課題の一つとされていますが、これを解消しつつフリーアドレスを導入できることがメリットでしょう。

 固定席・グループアドレス併用型は、オフィスの一部にグループアドレス方式を導入するものです。固定アドレスが向く部門やワークグループはそのままに、それ以外のチームやグループをフリーアドレス化するわけです。

 とはいえ、レイアウト設計に正解はありません。ここで紹介した種類を参考に、社内連携の強化や創造性の育成、スペース有効活用などのフリーアドレス化により実現したいメリットを最大化できる設計を、自社の状況に合わせて模索することが大切です。

これからのオフィスに欠かせないオンライン会議ブース
 今やビジネスにおいてオンラインによる会議や商談、打ち合わせは定常化しています。こうした背景から、フリーアドレス化でオフィススペースを有効活用できるようになった場合に検討したいのがオンライン会議ブースの常設です。

 従来の会議室ではWebカメラやスピーカーフォンなどの導入により、オンライン会議への対応は進んでいます。しかし、個人ベースでは自席や休憩スペースなどでオンライン会議をしている姿をよく見かけます。

 こうした光景に慣れたとはいえ、やはり隣席などで会議をされていると気になるという従業員もいるでしょうし、内容によっては落ち着いて話したいといったケースもあります。作業スペースとは別にオンライン会議用のパーソナルスペースを設けることで、オンライン化したビジネスコミュニケーションに適した快適な環境を整えられるのではないでしょうか。

最適な環境構築に向けIT機器の見直しと導入

 固定席からフリーアドレスへと移行することで、PCなどのビジネスツールの見直しや新たな機器の導入なども必要です。このステップが、④IT機器などの手配・導入にあたります。

 例えば、パソコン(以下、PC)は社内モバイルワークともいえるフリーアドレスではノートPCやモバイルPCが向いており、特にオフィスからリモートワークまで共有機としてフル活用する場合にはマストの選択肢となります。

 IT機器においてオーバースペックはコストのムダともいわれており、オフィスのPCもコスト削減の観点からスペックを抑えたモデルを導入しがちです。しかし、DX時代にあってはある程度の高スペックモデルが推奨されます。

 ハイブリッド化によるシームレスな働き方が常態化する中、オンライン会議やクラウドストレージ、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)などの利用機会は増え、PCにかかる負荷は増大。AIが恒常的にビジネスに活用されるようになれば、求められる性能はさらに高まります。こうした状況から、ノートPCのスペックには余裕を持たせることが生産性アップにつながるというわけです。

 ノートPCやモバイルPCによる業務効率化や生産性アップの実現では、外付けディスプレイを用いた画面拡張が有効であることはリモートワークを経験して学んだことではないでしょうか。ウインドウの切り替えが頻発する作業や表計算ソフトなどの細かな数字を扱う業務を、ノートPCの12型から15.6型ほどの画面で行うのは疲れるものです。

 ペーパーレス化が進めば画面に表示する必要のあるドキュメント数は増えるでしょうし、ウインドウやアプリケーションの切り替えも同様でしょう。とてもノートPCの画面だけで生産性を上げろといっても難しいものがあります。

 現在、モニターの画面サイズは実用性と導入コストのバランスのよさから23型が主流ですが、より生産性アップを求めるという視点では27型が推奨されます。

 27型ディスプレイは、15.6型ノートPCとの画面サイズ比で約1.7倍(23型は同約1.5倍)の作業スペースの確保が可能です。解像度のラインアップも広く、WQHD(2560×1440)や4K(3840×2160)も用意されています。

 WQHDは、同一画面サイズのフルHD(1920×1080)と比べ約1.8倍の情報表示量です。4Kほど表示が細かくないので汎用的なPC業務に使いやすいことがメリットといえるでしょう。

 すべてのデスクにスタンドアローンのモニターを用意する必要はありませんが、従業員が好みに応じて使えるようにディスプレイを設置したエリアの導入も検討したいところです。

 また、スペース共有型によるフリーアドレスの運用でデスクをさまざまな用途で使う、あるいは机上はスッキリさたいといった場合には、モバイルディスプレイの活用もお勧めです。

 モバイルディスプレイとは、持ち歩けるモニターのことで未使用時は収納できます。オフィスに常備して、従業員が必要に応じて活用できる環境を整えるとよいでしょう。画面サイズはノートPCと同じ12型~15.6型が主流でしたが、17型を超える大型モデルもラインアップが増えており、フリーアドレス環境にも活用しやすくなっています。

 この他にも、見直しや導入を検討すべきIT機器やサービスはいくつもあり、自社の業務スタイルや目指すフリーアドレスの形に合わせて考えることが必要です。

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 こうしたデスクのレイアウト設計や運用、IT機器の導入と共に検討しておくべきことは、業務支援設備の整備です。環境やルールを整えても、自席がないことによる課題は発生します。

 例えば、固定席がないためノートPCや書類、その他のビジネスツールなどの保管の問題です。この解決に、従業員ごとに個人ロッカーやキャビネットは必須でしょう。鍵のかかるタイプなら安全性も担保可能です。共有の文房具などは散逸しがちですが、キャビネットなどを用意して整理整頓すると共に、利用ルールを決めておくことで紛失を防ぐことができます。

 デスク周りに収納がないフリーアドレスでは机の上や床にバッグやファイルボックスを直置きしている光景が見受けられますが、移動式のサイドワゴンなどを活用するとスッキリとします。

 また、自席がないため郵便物の受け渡しもフリーアドレスでは課題となります。個人のロッカーやキャビネットへ投入する、あるいはメールボックスを用意するといった方法が考えられるでしょう。

効果検証と運用ルールなどの定期的な見直し

 ここまでフリーアドレス化を成功させるためのポイントをステップごとに見てきましたが、最も肝となるのが運用を維持できているかどうかです。そのためのステップが、⑤定期的な運用ルールの確認・見直しです。

 理論編でも解説しましたが、フリーアドレス化では導入後にその効果を阻害する要因が発生するものです。

 リスクの高さでいえば、座席の固定化は注視しておくべき課題でしょう。フリーアドレスの導入当初は目新しさから毎日の席を変えていても、気づけばだれもが同じ場所に座っており、固定席スタイルと何も変わらないといったケースは少なくありません。

 よく足を運ぶ図書館や喫茶店などで、空いていればほぼ同じ席に座るという人は多いのではないでしょうか。人は心理的に同じ環境の方が落ち着くため、意識しないと同じ席を選ぶ傾向があります。

 こうした失敗を回避するために、決めた運用ルールはきちんと守られているか、そのルールに不具合はないかなど、定期的な確認と見直しが必要となるわけです。

 フリーアドレスはオフィスにおける座席ルールですが、導入の目的はコスト削減や従業員の自律性育成、全社的なコミュニケーションの活性化など企業によりさまざまでしょう。最初に明確化した目的が達成できているかを指標に、効果確認と見直しを繰り返すことがフリーアドレス化を成功させるポイントといえます。

    
ここがポイント!
●オフィスへのフリーアドレス導入を成功させるためには5つのステップを意識。
●まずは導入目的の明確化、次いで従業員への周知と合意形成が重要。
●レイアウト設計とフリーアドレスに適したIT機器の見直しと導入により理想的な環境を構築
●定期的な導入効果の確認と運用ルールの見直しが不可欠。
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