「すべての開発者やユーザーが安心してAI(人工知能)を使っていける技術と、単独の企業やアーキテクチャにとらわれず、豊富な選択肢の中で自由に開発できる環境を提供していく」
2024年6月1日付で米Intel(以下、インテル)の日本法人代表取締役社長に就任した大野誠氏は、このように語り、同社のビジョンである“AI Everywhere(あらゆる場所でのAI活用)”の実現を加速させていく方針を強調しました。
これは、6月に都内で開催されたインテル主催のプレス向けセミナー「“新”AI時代:日本のAI利活用について」での発言です。では、AI Everywhereとは何でしょうか。
現在、AI処理の多くはクラウド側で行われています。ただ、今後は、利用者の端末側(エッジ)でAI処理を行う場面が増えていくと予想されており、従来からのクラウドとエッジをシームレスにつなぎ、ハードウェアやソフトウェアなどあらゆるプラットフォームにおいてAIを実現していく考え方がAI Everywhereです。
つまり、クラウドでのAI処理(クラウドAI)と利用者側に近いローカルでのAI処理(エッジAI)が組み合わさったハイブリッドAIへと移行し、さらに両者がシームレスにつながっていくというわけです。今後のAI活用はどうなるのか、同セミナーの内容に将来展望を探ってみました。
リアルタイム処理が必要な分野でエッジ化が進む
AIは、デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)やデジタルシフトを支える技術として、ビジネスや日常生活において広く浸透しつつあり、技術の進化とともに幅広い場面で変革を後押ししています。
そうした中、同セミナーで講演した市場調査会社IDC Japanは製造業やヘルスケアといったリアルタイム性が重視される分野でAIのエッジ処理が進むとのこと。通信環境などに起因するデータ交換の遅延(レイテンシー)をできるだけ避けるため、時期的には2028年にかけてエッジでのAI処理が徐々に増加していくと指摘しました。
IDC Japanの調査によると、生成される情報データは2025年までにデータセンターやクラウド以外の場所から作られる他、アジア太平洋地域では75%の企業がエッジへの投資を加速させ、同じく50%の企業がIT関連への支出のうちエッジ向けが少なくとも16%を占めると予測しています。
もちろん、エッジAIが台頭しつつあるとはいえ、「すべてのAI処理がエッジに移行するのではなく、リアルタイム処理が必要な分野でエッジAIになっていく」(Group Vice President and Senior Research Analystの寄藤幸治氏)と述べ、従来からのデータセンターやクラウドでの処理とエッジ処理の“ハイブリッドAI”時代が到来することを予測しました。
メーカー各社から続々と登場するAI PC
エッジAIを実現する代表的な端末が、「AI PC」です。AI PC の定義はさまざまですが、一般的にはパソコンのCPU(Central Processing Unit/中央演算処理装置)に人間の脳神経系を模したNPU(Neural Processing Unit/AI専用の演算処理装置)を組み込んでAI処理を高速化したパソコンの総称です。
このNPUの性能を高めることにより、パソコン側でAI処理をより高速に行うことができるようになります。
AI PCのメリットには前述したようにリアルタイム処理でのニーズに加え、プライバシーデータが格納されたパソコンをクラウドにつないでAI処理したくないという利用者でも、エッジ処理により情報の秘匿性を持たせやすくなるといった点が挙げられます。
インテルの大野社長は、「必ずしも(あらゆる場所で)大規模な学習・推論処理が必要というわけではなく、今後は特に推論の分散処理が進むだろう。この分野ではパーソナルデバイスにどんどん移行し、ユーザーに近い領域で推論処理が進むとみている」と指摘しました。
インテルでは、ハイブリッドAI時代に備えクラウドとエッジの両領域へ製品を提供しています。クラウドAI環境向けには膨大な計算能力が必要なAIの学習と推論の高速処理を実現するAIアクセラレータ「Gaudi 3」、データセンター向けCPU「Xeon 6プロセッサー」などを投入しています。
AI PC向けでは、最新プロセッサー「Core Ultra」でエッジ処理の性能を高めていくとのこと。インテルによると、Core Ultraを搭載したAI PCの累計出荷台数は800万台以上に達しており、2024年末までに4000万台が出荷される見通しとしています。
特に2024年第3四半期から出荷を開始する予定の次世代AI PC向けフラッグシップSoCの「Lunar Lake(開発コード名)」は、CPUやGPU(Graphic Processing Unit/画像処理装置)の他、前世代モデルの「Meteor Lake(同前)」からAI処理機能を大幅に強化したNPUを内蔵し、20社を超えるPCメーカーの80機種以上に採用される見通しとのことです。
また、顧客が生成AIの開発に取り組みやすいよう、関連のソフトウェアや開発環境を用意し、その充実化を図っています。(関連記事:DXよもやま話◎AI技術を支える半導体「GPU」。)
さらに、セミナーでは日本市場における生成AIの認知度と利活用を広げるため、子供や学生、社会人に対するデジタル教育のプログラム「インテル・デジタルラボ構想」を紹介。大野社長は「AIを知る一つのきっかけを作っていくことが重要。そうした取り組みを通じてデジタル人材の育成に取り組んでいきたい」と語りました。
AI普及拡大を阻害する日本的組織や風習
プレスセミナーの後半は、講演者であるインテルの大野社長とIDC Japanの寄藤氏が、日本におけるAI普及の課題や将来展望などについて対談形式により意見を交わしました。以下、その一部を抜粋・要約しておきます。
大野 (IDC Japanによる今回のAI成熟度調査で、シンガポールが最も成熟度が進んでいるとの結果を受け)日本が後れを取っているのが意外でした。
寄藤 シンガポールでは、DXへの取り組み全般という視点で見ても、新たな市場が出てきています。(これを含めて)英語圏であることで新しい技術の導入・活用がしやすい環境にあること、日本と比べて(過去の風習やしがらみにとらわれない)レガシーシステムの部分があまり多くないことが挙げられるでしょう。 一方、日本においては「日本でしか通用しない」製品が使われていることが、AIの普及認知が進まない理由の一つかもしれません。
大野 AIは、ほぼ試行錯誤を繰り返して開発・発展してきたという歴史があります。(そういう歴史がありながら)昨今は、日本企業がAIを導入するにあたり、経営者には、それでROA(総資産利益率)はどうなのか、とまずいわれるといった話を耳にします。これについて、どう思われますか。
寄藤 (そういった経営指標も大事かもしれませんが)ただ、日本企業は、歴史的に試行錯誤を重ねて発展してきたのではないでしょうか。現場では、試行錯誤の中で必ず失敗があり、それを許容するリーダーシップが必ずあります。AIに限らず、(試行錯誤を重ねていくうえでは)こうしたリーダーシップが必要でしょう。
大野 そのような姿勢は正しく、企業が取り組んでいるDXの実現で求められていることではないでしょうか。そうやって前進しようとしている企業が少しずつ出てきており、今後に期待できると思います。
ここがポイント! |
●今後、利用者に近い端末側でAI処理を行うエッジAIが徐々に拡大する見通し。 |
●クラウドとエッジが組み合わさったハイブリッドAI時代の到来を予測。 |
●インテルは “AI Everywhere”を加速させる考え。 |
●エッジAIの広がりに伴いAI PCが増えるため、インテルはAI PC向けSoC「Core Ultra」を強化していく。 |
外部リンク
Intelのホームページ(日本語版) IDC Japanプレスリリース「2024年国内AIシステム市場予測を発表」(2024年4月15日付)
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