デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)やデジタルシフトを推進するキーテクノロジーとして最も注目されている技術といえば人工知能(AI)でしょう。
現在のAI技術を支える重要な役割を担っているのは、人間が自然に行うタスクをコンピューターに学習させるための機械学習です。
機械学習の一つであるディープラーニング(深層学習)は、脳神経回路をモデル化したニューラルネットワークを利用し、複雑で多層的な処理が行える手法です。特に「ChatGPT」などの生成AIで使われているような「大規模言語モデル(以下、LLM:Large Language Models)」の本格的な活用により、生成AIの性能(学習・推論能力)は大幅に向上しました。
こうした膨大なデータ量から学習し推論する生成AIの計算処理に最も使われている半導体が「GPU(Graphic Processing Unit/画像演算処理装置)」です。
GPUとは、画像処理に特化した演算処理を行う専用の半導体チップです。大規模な並列演算処理に適した回路構成を備えており、高精細な画像などを高速に描写するタスクに向いています。そのパフォーマンスが高いほど、映像や画像の優れた描写力が実現されますし、比較的単純な数値計算を繰り返し行うような場合にも威力を発揮します。
最近、GPUが画像処理以外の分野でも用いられるようになりました。この考え方は、「GPGPU(General-Purpose Computing on GPUs:GPUによる汎用コンピューティング)」といわれています。あるいは画像処理以外の用途で使われるGPU自体を、こう呼ぶことも。
特に、科学技術計算やAIなどの分野でGPUの採用が拡大しています。ここで湧く疑問が、計算処理ならパソコンなどに使われているCPU(Central Processing Unit/中央演算処理装置)ではダメなのかということ。実は、コンピューターの全般的な処理を逐次的に行う半導体チップであるCPUは複雑な命令に強いですが、GPUと比べて大規模で単純な数値計算には時間がかかるという課題が指摘されていました。
こうしたことから、LLMを用いて膨大なデータ量の学習を行う生成AI分野では、高速で大規模な並列処理を得意とするGPUが適しており、生成AI市場の拡大により旺盛な需要が続いているというわけです。
そして、このGPU分野において圧倒的な存在感を示している半導体メーカーが、同チップをベースにさまざまなハードウェア/ソフトウェアプラットフォームを提供している米国のNVIDIA(エヌヴィディア)です。
幅広い分野で採用されるNVIDIAのGPU
1993年に設立されたNVIDIAは、ゲームとマルチメディア市場に3Dグラフィックスをもたらすというビジョンを掲げて事業に取り組んできました。
コンピューターゲーミング市場向けでは「GeForce」により高画質な高性能ゲームを実現し、3Dモデルの製作や3Dグラフィックのレンダリング、動画編集などといったクリエイティブ分野では「NVIDIA RTX」や「NVIDIA T」などのプロフェッショナル向けシリーズを投入し、今やコンピューターグラフィックス分野のトップランナーとして市場をけん引しています。
2006年以降は、GPUの持つ並列計算能力をいかした汎用コンピューティング技術によりデータセンターや膨大な量のビッグデータを超高速で処理するHPC(High Performance Computing)分野へと乗り出しました。
そして、「ChatGPT」の登場で一気に身近なものとなってきた生成AIシステムでも同社のGPUが活躍しており、DXの次に来るであろう “AI Transformation”時代の一端を担う存在として、大きな注目を浴びているのです。
NVIDIAは、自動車をはじめとしてさまざまな産業向けの製品も手掛けています。自律走行型ロボットやAI搭載機器など各種の組込みシステム(Embedded System/*1)向けの「NVIDIA Jetson」プラットフォーム、産業用のデジタルツイン(*2)やメタバース(*3)アプリケーションの開発を支援するためのソフトウェアプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」などもラインアップしています。
(*1)家電製品や産業機器などに組み込まれたコンピューターシステム。パソコンやサーバーといったコンピューティングシステム以外の幅広い分野を指すことが多い
(*2)デジタルツインは、現実世界の対象物や環境から収集したデータを用い、仮想空間上に全く同じ環境を(双子のように)再現する技術。現実世界を仮想空間でモデル化して分析やシミュレーション、予測などを行い、これを現実にフィードバックする
(*3)インターネットを利用した3次元の仮想空間・サービス。現実を超えた、もう一つの世界
データセンター向けAIで急拡大
NVIDIAの業績面に目を向けると、2023年1月期(2022.2~2023.1)の売上高は前年比横ばいの269億7400万ドルにとどまったものの、主な市場別の売上高ではデータセンター向けが41.1%増の150億500万ドルと好調に推移しています。
2024年1月期(2023.2~2024.1)の売上高は、第3四半期までの9か月累計(2023.2~10)で前年同期比85.5%増の388億1900万ドル、純利益は5.9倍の174億7500万ドルと急伸。特にデータセンター向けが前年同期比2.6倍の291億2100万ドルとなり全体の75%を占めるまでに成長しました。
同社のデータセンター向け事業が大幅に伸びている背景には、生成AIの世界的な普及拡大があります。特に2022年秋に出荷を開始したAIやHPC、データ分析向けのプラットフォームと位置付けている「H100 TensorコアGPU」が同事業をけん引しています。
H100はLLMを使うトレーニングにおいて前世代チップと比べて最大9倍、推論の速度を最大30倍へとそれぞれ大幅な高速処理を実現可能とし、HPCまで含めたさまざまな規模のデータセンターであらゆるワークロードを安全に高速化できるとしています。
ロジック半導体市場でIntelを急追
前述の通り、生成AIの爆発的な普及とともにNVIDIAの業績も急拡大しています。CPUを中心とするロジック半導体の分野では、パソコンやサーバー向けプロセッサー市場の巨人である米国のIntelが長らくトップに君臨していましたが、ここ数年はパソコン需要の減退や競合メーカーの追い上げなどもあり苦戦しています。
Intelの2023年度第3四半期までの9か月累計売上高(2023.1~9)は前年同期比20.8%減の388億2200万ドルと低迷。第4四半期は150億ドル程度を予想しており、通期の売上高は540億ドル前後となりそうです。
一方で、NVIDIAは、第3四半期までの9か月累計売上高でIntelとほぼ肩を並べました。第4四半期は200億ドル程度を予想しており、通期の売上高は前年比で2倍以上となる590億ドル前後になるとみられ、単純比較をした場合ですが、Intelを抜いてロジック半導体分野でトップに立つものと予想されます。
もっとも、GPUはAI処理の専用のプロセッサーではないため、効率面ではまだ改善の余地があります。LLMの規模が巨大化するほど、データセンターにおける計算量が増え、GPUを用いた処理の電力消費量も増加の一途をたどることになるため、この問題が今後、もっとクローズアップされることになりそうです。
AI処理用の半導体としては、IntelやAMDといったCPUメーカーの他、米GoogleやAmazon.com、Meta Platforms(旧Facebook)などもそれぞれ専用チップの開発に取り組んでおり、多くのベンチャー企業も含めて、各社がNVIDIAのGPUに追いつこうと開発にしのぎを削っています。こうした競争が、AIの進化を飛躍的に後押しすることが期待されます。
ただし市場競争の視点で見た場合、NVIDIAのGPUはAI分野で先行してきたこと、これまでも多くの開発者に支持されていることもあり、当面は生成AI需要を支える半導体のトップメーカーとしてリーダーシップを発揮し続けるものと予想されます。
ここがポイント! |
●生成AIの計算処理に最も使われている半導体は、高速で大規模な並列処理を得意とする「GPU(Graphic Processing Unit/画像演算処理装置)」。 |
●GPUで圧倒的なシェアを占めるのが米国のNVIDIAであり、コンピューターグラフィックスやゲーミング分野からAIまでカバー。 |
●需要が急伸しているデータセンター向けが好調で、NVIDIAの業績も拡大。 |
●2023年度の売上高はIntelを上回り、ロジック半導体の分野で首位に立つ見通し。 |
外部リンク
NVIDIAのホームページ(日本語版)
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