デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.01.19 18:35

DX支援機関レポート◎東京商工会議所
「ぴったりDX」でIT活用のレベル向上を後押し!

 東京商工会議所(以下、東商)は、中小企業のデジタルシフトやデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)への取り組みに対する支援を強化し、2022年11月に「デジタルシフト推進サポート事業」をスタートさせました。

 それぞれの企業のデジタルシフトのレベルに応じた最適(ぴったり)なサポートを行うとの意味を込めて「ぴったりDX」という名称で支援メニューを提供しています。

 これまでも中小企業のIT導入・活用にかかわる支援事業を展開してきましたが、その取り組みをさらに進化させて豊富なメニューを揃えた支援策が「ぴったりDX」であり、2025年10月までの3年間で認知度向上に努め利用拡大を目指すとしています。

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東京商工会議所による中小企業のDX・デジタルシフト支援事業「ぴったりDX」

 東商はこれまで、主にIT未導入・未活用の中小企業や小規模事業者1万社を対象にIT活用を総合的に支援する「“はじめてIT活用”1万社プロジェクト」(2019年11月~2022年10月)を実施。1万5000社以上が同プロジェクトの支援を受けるなど、一定の成果を上げてきました。

 「ぴったりDX」が前回のプロジェクトと大きく異なるのは、ITの初歩的な導入ではなく、業務効率化や差別化、競争力強化などの活用に焦点を当てていることです。この背景には、中小企業のデジタルシフトのフェーズが進みつつあることがあります。

東商は2023年5月~6月、主に東京23区内の会員企業約1万社を対象に、会員企業(中小企業)のデジタルシフト・DXへの取り組み状況の実態調査を行い、2023年9月末に調査結果や事例を取りまとめた報告書「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」を公表しました。

実態調査では、各社のデジタルシフトの状況を、IT導入・活用段階に応じてレベル1~4の4段階に分類。各レベルの内容は以下の通りです。

 レベル1は「口頭連絡、電話、帳簿での業務が多い」(IT導入が進んでいない段階)、レベル2は「紙や口頭でのやり取りをITに置き換えている」(IT導入を進めている段階)、レベル3は「ITを活用して社内業務を効率化している」(ITの導入から活用へとシフトが進みつつある段階)、レベル4は「ITを差別化や競争力強化に積極的に活用している」(ITを積極的に活用し、成果に結び付けている段階)とされ、レベル4への到達でDXが実現されている状態として位置付けられています。
 
 今回の調査結果では、ITを導入している企業(レベル2~4)の割合は前回調査(「IT活用実態調査」、2021年2月公表)から増えて8割に達したものの、ITを業務効率化や差別化、競争力強化に活用できている企業(レベル3~4)の割合は前回調査から大きな変化はなく、全体の約半数にとどまりました。

 この調査結果を踏まえ、「ITの“導入”から“活用”へのシフト、“活用”のレベルアップ(=守りから攻めのIT活用へのシフト)」を目的にした支援に力を入れる方向へと舵を切ったわけです。

 新たな取り組みである「ぴったりDX」は、レベル2~4の中小企業、特にIT導入は実施したが活用がなかなか進まないレベル2~3の企業を中心に支援していくことで、レベル4の企業を増やしていく狙いです。加えて、中小企業との接点を広げたいITベンダーを対象としています。

 そのために東商では、東京23区の各支部と連携して全所的に取り組むと共に、行政・教育機関らとの連携を強化。さらに、多様なツールやサービス、ノウハウを持つITベンダーと中小企業との接点を創出していくこととしました。

 とりわけ、「ITユーザーである中小企業に加えてITベンダーや教育機関なども会員として参画している」ことは、商工会議所ならではの大きな特徴であり、この強みをいかして相互連携を図りつつ中小企業のデジタルシフトやDXを推し進めていく意向です。

デジタル人材育成などで豊富な支援メニューを用意

 「ぴったりDX」では、人材育成やIT活用・DX事例からイベント・セミナー情報、相談窓口まで多彩な支援メニューがサイト上に用意されています。

 特に、実態調査の結果から浮き彫りになったデジタルシフトの課題を踏まえて「デジタル人材育成」と「ツール・サービスの提供」を重点支援策と位置付け、これに「サイバーセキュリティ対策」を加えた3項目についてメニューを充実させています。

 このうちデジタル人材育成では、民間企業のリスキリング(デジタル分野での学びなおし)支援サービスに会員優待の特典を付与した「東商リスキリング応援メニュー」や、中小企業・小規模事業者に適した社内デジタル人材育成を応援するサービスを紹介する「デジタル人材育成ナビ」、東商ビジネススクールのパッケージ型講座の一つとして短期集中型でデジタル人材やDX人材の育成講座を提供する「東商デジタルアカデミー」を揃えています。

 デジタルツール・サービスのうち、会員優待を付与した「デジタルサポートプレミアム」ではITベンダーと連携し、24種類のツール・サービスを提供可能にしている他、ツール・サービスの検索ナビなど、内容を充実させています。

 また、新たな重点項目として中小企業とITベンダーを対象としたIT商談・相談会「“ぴったり”マッチング」をスタートさせ、年に3回ほど実施。同時に、デジタルツールやITベンダーの選定について専門家からアドバイスを受けられる「デジタルツール・サービス導入相談」も始めました。

 こうした取り組みについて、中小企業部IT活用推進担当の松浦啓志主任は「中小企業へのアプローチをしたいが十分にできていないITベンダーから特に好評で、参画・登録に関する要望や問い合わせが連日のように当所に来ている」と手ごたえを口にしています。

サイト上では、自社の課題解決に適したデジタルサービスを検索できるメニューも用意されている

 サイバーセキュリティ対策に関しては、TOPPANデジタル株式会社、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)、東京海上日動火災保険株式会社など参画企業5社と連携し、中小企業向けの支援を行う「東商サイバーセキュリティコンソーシアム」を2021年7月に発足させ、セミナーや視察、相談会や展示会などを実施しています。

さらに東商では、企業のデジタルシフト・DX推進に役立つオンラインセミナーを3年間で240回開く予定で、業種別、活用レベル別、あるいは経営者やIT担当者といった受講対象を明確にしたセミナーも順次行っています。

 また、好事例の紹介、SNSやWebサイト、メールマガジンでの情報発信なども随時行っており、活発に取り組みを進めています。

 こうした多様な事業を行ううえで、東商以外の組織や支部との連携はもとより、ITベンダーや教育機関などとの連携は不可欠であり、特にITベンダーやデジタル人材育成のカリキュラムを実施する教育機関を中心に、それぞれ情報・意見交換会を実施しています。

より細やかなサービスの提供を

 一方、同事業を進めるうえでの課題は支援する側の支援サービスのあり方です。IT導入・活用が着実に進むにつれ、企業によって取り組み状況に格差が出てきたことが指摘されています。

 支援機関側も、「従来までのような、ひと通り揃えた総花的なサービスではなく、業種別や従業員の規模別など、対象を細分化して個々の事情にマッチした情報やサービスを提供するといった、もっと細やかな支援が求められているのではないか」(中小企業部でIT活用推進担当課長を兼ねる長嶋収一副部長)としています。

 ただ、都内の中小企業が経営相談で各支部を訪れても、IT導入・活用に関する相談はまだまだ少ないのが現実で、それは「中小企業にとって身近な存在である商工会議所とITが結びついていないイメージが強いからではないか」(長嶋副部長)と指摘します。

 それを踏まえ、東商では今後、「ぴったりDX」の認知度向上に努め、デジタルシフトに関する支援のレベルをさらに引き上げていく考えです。IT導入・活用に関する問い合わせなどに対し、支部を含む東商全体で対応力を引き上げ、スキルアップさせていくことにより、中小企業が困っている時にもっと頼ってもらえる組織にしていきたいとしています。

 
ここがポイント!
●東京商工会議所(東商)は中小企業のデジタルシフトやDXを推し進めるため、「デジタルシフト推進サポート事業(「ぴったりDX」)」をスタートさせた。
●IT導入は一定の成果が出ているものの、IT活用がなかなか進まない現状と課題が見て取れたことから、活用を促す施策を重視した。
●「デジタル人材育成」「デジタルツール・サービスの提供」を重点支援策とし、サービスの強化を図った。
●東商は中小企業の取り組み状況に応じて細やかな情報・サービスを提供し、IT活用でも頼ってもらえる組織を目指していく。

外部リンク

情報発信Webサイト「ぴったりDX」 「ぴったりDX」リーフレット
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