デジタル変革(DX)を学ぶ

2023.12.28 18:00

中小企業のためのDX基礎講座◎第3回:DXは本当に必要か?
推進方法を間違えなければビジネス変革の武器に

 中小企業や小規模事業者には、「デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)は大手企業が取り組むものであり、自分たちには関係ない」と考える経営者や担当者が少なくありません。

 確かに、DXに関わる報道、展示会やセミナーなどを見ても大企業や中堅企業を対象とした内容が多く、中小企業や小規模事業者がDXを推進するための環境は整っていません。

 さらに、大企業や中堅企業といえどもすべての企業でDXが進んでいるわけでもなく、温度差が激しいのが実状です。

 とはいえ、DXを含めたデジタルシフトの流れは待ったなしという状況であり、この波に乗っていくことが業務効率化や生産性向上をはじめとした企業の抱える多くの課題解決につながることも、また事実なのです。

 DX基礎講座の第3回では、「そもそも中小企業にもDXが本当に必要なのか」という疑問について解説していきます。

企業文化やビジネスモデルの変革、働き方の多様化、従業員のスキルアップなど幅広い領域でDX推進が推奨されている

DXに対する中小企業の誤解

 中小企業のためのDX基礎講座の第1回でも解説したように、DXとは「データやデジタル技術を活用して新たな価値を生み出していくことであり、それにより人々の暮らしが一層よくなること」です。

 もう少しいえば、「デジタル技術を活用して事業モデルや業務プロセス、企業文化・風土、組織の変革により、社内的には従業員の満足度を向上させ、対外的には競争上の優位性を確立すること」といえます。

 そもそも日本でDXが注目されたきっかけは、経済産業省が2018年に公開した「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」です。

 そのレポートの中では、レガシーシステム、いわゆる複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、IT人材の引退やサポート終了などによるリスクが高まり、2025年以降の経済損失は年間で最大12兆円に達する可能性があると論じられました。

 さらに、同レポートにおいてDX推進がこの問題の解決策になると言及されたことから、当時は「DXとは2025年の崖を回避するためにレガシーシステムを刷新すること」と誤解されることとなり、企業文化やビジネスモデルなどの変革というDXの本質が広まりませんでした。

レガシーシステムが残存していると将来的に大きな負債となり、攻めのIT投資ともいえるDXの足枷になることは確か。この意味でレガシー刷新は、DX推進の一部といえる

 実際、「DXはレガシーシステムから新しいテクノロジーへ移行すること」と喧伝されたため、基幹システムや業務システムをオンプレミス(*1)に抱えていた大手企業や中堅企業によるシステム環境のクラウド移行の流れが加速しました。
(*1)システムやインフラの構築に必要なサーバーやネットワーク機器、あるいはソフトウェアなどを自社で保有し運用するシステムの利用形態。

 その一方、全社レベルでのシステム化が進んでいない中小企業や小規模事業者の間では、「DXは関係のない」との認識からDX推進が浸透しなかった背景があります。

 その後、経済産業省は同レポートによるDXへの誤解を解くためレポートのバージョンアップ(*2)を図り、産業界全体で推進していくべきものとしてDX推進の周知に取り組んでいます。社会全体としてデジタルシフトは当然との時代の流れを鑑みれば、企業の規模に関係なくDX推進が求められていることを認識する必要があるでしょう。
(*2)「DXレポート2(中間とりまとめ)」や「2.1(2追補版)」や「DXレポート2.2(概要)」などが公開されている

中小企業がDXに取り組むことのメリット

 では、中小企業や小規模事業者がDXに取り組むことのメリットについて改めて確認してみましょう。いくつかありますが、大きくは「業務効率化」「法制度改正への対応」「ビジネスデータの集約」「ビジネス機会の増加」などが挙げられます。

 DX推進の本来の目的は、「新しい事業モデルや価値の創出により企業の競争力を向上させて市場の変化に柔軟かつ迅速に対応できるようにする」ことですが、その取り組みにおいては必然的にビジネスプロセスの見直しが求められるため、業務効率化や生産性アップも実現されることとなります。

 改正電子帳簿保存法やインボイスなど、最近の法制度改正はデジタルシフトと密接に関連しているものが少なくありません。DX推進ではビジネスの業務プロセスも含めて見直すため、こうした法制度改正による義務化への対応はもちろん、その周辺業務も含めて一気にデジタルシフトを実現させることも可能です。

 特に、最近のDX実現を訴求するデジタルツールやソリューションは法制度改正への対応を視野に入れた機能を標準で実装したものが多く、それらをうまく業務に取り入れることでDXを進めながら法制度改正への対応もできるわけです。

 厳しい市場競争下、顧客ニーズに素早く対応し競合企業とわたりあうには迅速な経営判断が重要です。従来通りの手作業でデータ収集や分析を行うこともできなくはありませんが、時間や手間がかかるだけでなく計算ミスなどが発生するリスクもあります。

 DXに取り組んでいくと、さまざまなビジネス情報がデジタルデータ化されることとなります。レベルが進むほど企業内の経営数値や情報などは自然と蓄積・集約されます。

 この大量のデータを収集・分析することが、スピーディな現状把握や多様化する顧客ニーズの変化への柔軟な対応などを可能とし迅速な経営判断へとつながっていくのです。

 また、取引先の大企業や中堅企業でDXが推進されていく状況下にあって、中小企業だけがデジタルシフトを進めないというわけにはいかないでしょう。逆の見方をすれば、いち早くDXに取り組むことでビジネス機会の増加も期待できるのではないでしょうか。

「中小企業にDXは不要」の真意とは!?

 実は、「中小企業や小規模事業者はDXなんてやる必要ないよ」と断じる専門家の声も少なくないのです。当然、ここまでの本稿のロジックでいえば中小企業や小規模事業者もDXに取り組むべきだという結論に落ち着くはずです。

 それだけに、この指摘に少なからず違和感を覚えるのではないでしょうか。あるいは「我が意を得たり」と膝を叩いた読者もいるかもしれません。

 しかし、この言葉を文字通りに受け取るのは早計です。中小企業がDXに取り組まなくてよいというのは逆説なのです。第2回基礎講座のDXとデジタル化の「DXの構造」と「DX推進に向けた3つのステップ」を思い出してください。

DXの構造(中小企業のためのDX基礎講座◎第2回:DXとデジタル化より再掲)
DX推進に向けた3つのステップ(中小企業のためのDX基礎講座◎第2回:DXとデジタル化より再掲)

 デジタル化には3つの進化のプロセス(デジタイゼーション→デジタライゼーション→DX)があると解説しました。当然、企業によってアプローチの方法はさまざまであり、各社で考えて取り組んでいかなければなりません。

 ただ共通認識として指摘できることは、デジタイゼーションやデジタライゼーションの基盤を整えずに、いきなりDXを目指してもうまくいかないということです。DXとはデジタルを活用してビジネス全体を「変革」すること。そのため、事業戦略や経営方針にも関わってくる取り組みであり、組織単位や全社レベルで推進すべきものなのです。

 単に流行っているからと、いきなり「DXだ!」と息巻いて短絡的な思考でDXに取り組んでも、結局は時間やコストをムダに消費するだけになりかねません。

 まず、DX推進による最終的な目的や目標を明確にしたうえで、デジタイゼーションやデジタライゼーションなどから着実に取り組むこと。その結果、段階的にデジタル活用のレベルが引き上げられて企業や組織はDXへ向けて前進していけるわけです。

 こうしたDX推進の実践方法を理解せず、一足飛びにDXに飛びつくケースも少なくないことから、「中小企業はDXに取り組まなくてもよい」といった強目の表現が使われることも多いのです。

 ビッグデータやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、クラウドコンピューティング、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)などのデジタル技術が広まり、それらテクノロジーを用いてビジネスを変革していこうという時代の流れに逆らうことはできないでしょう。

 現在は、まだ過渡期です。しかし、この先もDXを含めたビジネスのデジタルシフトに取り組まない中小企業は企業間デジタルデバイド(*3)の底辺にとどまることとなり、いずれ市場から撤退せざるを得ないリスクを抱えることにもなりかねません。
(*3)ITスキルなどデジタルを活用できる人とできない人の間に生じる格差のこと

 逆にいえば、正しくDXを実践していくことで中小企業も前述したようなメリットを享受し、経営課題を解決できると共に経営基盤の強化や市場競争力を向上させることが可能となります。

 もはや、中小企業にとってもDXは避けて通れないものです。その推進のハードルは決して高過ぎるものではありません。きちんと理解し実践していくことで、市場や社会環境の変化の波間で勝ち残るために自社を変革する強い武器として、中小企業DXは役立つ取り組みとなることでしょう。

 
ここがポイント!
●DXは、大企業や中堅企業だけでなく、規模などを問わず産業界全体で推進していくべき社会的な変革である。
●中小企業はDXに取り組むことで、「業務効率化」「法制度改正への対応」「ビジネスデータ集約」「ビジネス機会の増加」などが期待される。
●中小企業にDXは必要ないという言葉の真意は、デジタルシフトの正しいプロセスで推進していくための戒めである。
●DXを正しく理解して実践することにより、中小企業にとっても自社を変革する強力なツールとなり、メリットを享受できる。

関連記事

中小企業のためのDX基礎講座◎第1回:DXとは? 中小企業のためのDX基礎講座◎第2回:DXとデジタル化

外部リンク

経済産業省『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』 経済産業省「DXレポート2(中間とりまとめ)」 経済産業省「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」 経済産業省「DXレポート2.2(概要)」
一覧へもどる

BCN WEB会員は登録無料で情報満載!

無料会員のメリット

- Merit 1 -

企業向けIT活用事例情報のPDFデータをダウンロードし放題!

- Merit 2 -

本サイト「中小企業×DX」をはじめ、BCNのWEBメディア(「週刊BCN+」「BCN+R」など)の会員限定記事が読み放題!

- Merit 3 -

メールマガジンを毎日配信(土日祝を除く)※設定で変更可能

- Merit 4 -

イベント・セミナー情報の告知が可能!自社イベント・セミナーを無料でPRできる

- Merit 5 -

企業向けIT製品の活用事例の掲載が可能!自社製品の活用事例を無料でPRできる

登録時間 約1分
新規会員登録

無料会員登録で自社製品の事例をPR!

企業向けIT製品の活用(導入)事例情報を無料で登録可能!

「事例登録の流れ」はこちら

新規で会員登録される方は会員登録ページ、(すでに会員の方は、会員情報変更ページ)より、会員登録フォーム内の「ITベンダー登録」欄で「申請する」にチェックを入れてください。

未会員の方はこちら

登録時間 約1分
新規会員登録

会員特典 自社主催のセミナーをPRできる!

セミナー情報登録

デジタル活用・DX推進関連のセミナー・イベントを無料で告知することができます! 「中小企業×DX」が、貴社セミナー・イベントの集客をサポートします。

新規会員登録はこちら