デジタル変革(DX)を学ぶ

2023.12.21 17:00

建設業DX◎建設DX実験フィールド
中小企業にも門戸を開いた最新DXの実験場

「建設DX実験フィールド」とは、国土交通省国土技術政策総合研究所(以下、国総研/茨城県つくば市)が管轄するインフラ DX の推進に向けた研究施設です。

 国総研は住宅・社会資本(インフラ)分野における国の研究機関であり、インフラDX研究推進本部では国土交通省が進める「インフラ分野のDX」への取り組みと連動して、関連分野の研究開発や技術の普及推進などに努めています。そうしたDXを実現するための実証実験を行う研究施設が建設DX実験フィールドというわけです。

建設DX実験フィールドの全景(写真提供:国総研の社会資本マネジメント研究センター社会資本施工高度化研究室、以下同)

 もともと国土交通省では、2016年度からICTを全面的に活用するなどして建設現場の生産性向上を目指す「i-Construction(アイコンストラクション)」に取り組んでいました。

 その後、データとデジタル技術を活用して社会資本や公共サービス、さらには業務や組織、プロセス、建設業界や国土交通省の働き方などを含めて変革していく「インフラ分野のDX」(インフラDX)へと取り組みを拡大。2021年度から同省の地方整備局や国総研、国立研究開発法人の土木研究所(つくば市)、建築研究所(同)などと一体となって横断的な取り組みを進めています。

 特に国総研は、インフラDXの研究開発拠点と位置付けられ、構内に研究施設となる建設DX実験フィールドを整備、2021年4月に開設しました。

 DXを支える新技術の検証の場として、国土交通省や地方整備局などと連携しながら無人化施工や自動施工、建設機械の遠隔操作、3次元データによる構造物の出来形計測(*1)などの実証実験に取り組んでいます。
(*1)出来形(できがた)は、工事の目的物(構造物)の出来上がった部分、施工が完了した部分のことで、出来形計測はその模型(出来形模型)を活用した計測のこと

 従来、そうした技術の実験や検証作業は建設現場を利用して行われていたため、民家があるなど現場近隣の事情や安全性などを考慮し、さまざまな調整や許可申請などが必要でした。

 建設DX実験フィールドの開設により、そうした手間がなくなり技術開発のスピードアップが図れるようになりました。また、例えば出来形計測と並行して、遠隔操作で掘削作業を行うといったような別の工種と並行して実験を実施することも可能になりました。

 国土交通省では、ローカル5Gを使った遠隔操作や無人化施工などのデモを随時行うなど、インフラDX推進を積極的にPR。今後、小規模な工事を除くすべての公共工事でデジタルデータやデジタル技術を活用していくと共に、新技術によるさまざまな面での変革を達成させていきたい考えです。

 同時に、ゼネコンや中小企業、学究機関などにも同フィールドを貸し出して積極的に活用してもらい、活発な技術開発を促進させるべく努めています。

「出来形計測模型」や「土工フィールド」で構成

 建設DX実験フィールドは、3次元計測技術などを活用した構造物の施工管理や検査、点検に関する技術開発を行うための実物大の「出来形計測模型」、ローカル5Gなどのワイヤレス技術を活用した無人化施工や自動・自律施工に関する技術開発を行うための「土工フィールド」などで構成されています。

 このうち出来形計測模型は、函渠(箱型の水路)などの土工構造物のほか、橋梁(工学用語。いわゆる“橋”)、配筋(*2)、地下埋蔵物(下水管など)の4種類があり、実物大のこれらの模型を用いて計測精度の検証などが行えます。
(*2)コンクリート構造物で(適切な量の)鉄筋を、安全で安定した場所に配置し、組み立てること。あるいは、そのように配置、組み立てられた鉄筋のこと

3次元レーザースキャナーやドローンによる非接触での計測などに出来形模型を活用できる(写真提供:国総研)

 一方、土工フィールドの広さは約2万6000平米で、国総研に隣接する土木研究所の施設として活用されていた建設機械の屋外実験施設の敷地(約6000平米)を含んでおり、全エリアでローカル5Gなどが使用可能です。

 設備面では、大容量で遅延のないローカル5G通信施設(基地局2基、移動局4局)をはじめ、障害に強いメッシュWi-Fi基地局やカメラ、自律制御の管制室(エンジニアリングセンター)、実験用の建設機械、各種計測機器や、実験に使う土砂の保管場所(ストックヤード)などが整備されています。

実験用建設機械の一つ「油圧ショベル」。地面の掘削や整地作業などに用いられる掘削機で、特小無線による遠隔操縦やキャビン上部に3台の4Kカメラ(5G通信対応)設置が可能(写真提供:国総研)

また、同フィールド整備の一環で導入されたのが、急斜面や半水中(数メートル程度の水深)対応型の特殊な油圧ショベル「スパイダー」(スイスMenzi Muck社製)。土砂で崩壊した急傾斜地や河川災害時の土砂の撤去など、災害発生時に被害の拡大を防ぐため、一般の建設機械では入れないような現場での迅速な応急措置を行うようなケースを想定したものです。

災害復旧用途での活躍が想定されている実験用建設機械「スパイダー」。キャビン上部に3台の4Kカメラ(5G通信対応)設置が可能(写真提供:国総研)

中小企業も巻き込んだ産官学連携の強化を

国土交通省では、産官学連携によるインフラDXの研究開発を推し進めています。協調領域(非競争領域)を設定して関係者間の相互連携を取りやすくすることで技術の標準化や共通化を進め、開発コストの削減やスピードアップなどを図ろうとしています。

 「ChatGPT」に代表される生成AIの爆発的な普及拡大に伴い、AIを活用した無人化施工や自律施工の開発もさらに加速していくものと予想されます。これらにより建設業界の生産性向上だけでなく、さまざまな面での変革を実現し、あわせて建設産業の魅力度アップに結び付けていきたい考えです。

 2021年度から2022年度にかけて、建設DX実験フィールドの民間企業や学究機関への貸し出し件数は、土工フィールドと模型施設を含めて年間平均で月に1件以上という実績です。

 また、国土交通省では2022年秋に続き、2023年秋にも建設DX実験フィールドを用いて「遠隔施工等実演会(施工DXチャレンジ)」を開催しました。生産性向上や災害対応に加え、将来的な宇宙開発用途も視野に入れた革新的な施工技術の実演や展示を行っています。

 中小企業もゼネコンらと連携して建設DX実験フィールドを活用できれば、技術力を高められ、自社におけるDXの取り組みを加速させる一助にもなりそうです。

 
ここがポイント!
●国総研は国土交通省が進めるインフラDXの研究開発拠点として位置づけられ、建設DX実験フィールドが整備された。
●同フィールドは、実物大の「出来形模型」と、関連設備・機器を配置した「土工フィールド」で構成されている。
●利用者はローカル5G を使った遠隔操作や無人化施工、3次元計測などの研究開発、技術検証ができる。
●ゼネコンや中小企業、学究機関などにも広く同フィールドを貸し出して、DXを実現する新技術の開発活発化に取り組む。

外部リンク

建設DX実験フィールドの詳細カタログ 国土技術政策総合研究所(国総研)ホームページ
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