デジタル変革(DX)を学ぶ

2023.12.04 17:30

建設業DX◎建設キャリアアップシステム(CCUS)
職人の就業履歴を横断的に活用し「新3K」実現を推進

 さまざまな業界で人手不足が懸念される状況下、「業界ウォッチ◎建設業DXの最前線」でも言及した通り、建設業界においても将来の担い手確保は喫緊の課題の一つです。

 特に、技能労働者の技能を体系的に評価して労働者の処遇改善につなげていくことは解決すべき重要な案件となっています。

 この実現に向けて注目されている仕組みが「建設キャリアアップシステム(CCUS:Construction Career Up System)」です。CCUSは技能者の就業履歴や保有資格などをIDカードに登録して管理するもので、社会保険加入対策の一面を併せ持ち、業界横断的なシステムとして着実に普及しつつあります。

 このCCUSを用いて工事現場を下支えする職人の待遇改善と地位向上を図り、将来的な“新3K(給与・休暇・希望)”の実現・定着に向けた取り組みが推進されています。

 建設業者らが工事を請け負う際には、小規模な工事を除いて建設業法に基づき、工事の種類(業種別、約30業種)ごとに国土交通大臣、または都道府県知事の許可を受けなければなりません。このうち27業種を専門工事業といい、主に下請け業者が専門分野の施工を担っており、多種多様な業種・業態が存在しています。

 工事現場ではその内容に応じて、とび職や鉄筋工、ブロック塀・タイル張工、舗装工、溶接工、コンクリート工、大工や左官、配管工など、さまざまな種類の技能労働者が作業に取り組んでいるわけです。彼らは、一般的には職人と呼ばれています。

現場の職人の待遇改善は製造業における大きな課題(写真はイメージです)

 職人たちは、事業者が異なる建設現場で日々働いています。このため、彼らの能力を客観的に評価するための業界横断的な仕組みが存在せず、本人のスキル向上が給与アップなどに結びつかないという構造的な問題を抱えています。

 また、日当による日雇い労働者というケースも多く、雇用の安定や退職金支給、社会保険加入促進といった処遇改善大きな課題となっていました。

 特に、自分自身と家族・親族等だけで事業を行っている事業主、いわゆる一人親方も、仕事を請け負いつつ、実態としては日雇いの職人と同等のケースも多々あり、社会保険未加入など労務管理の面でさまざまな問題を抱えています。

 建設業界に対する政府の社会保険加入対策が強化される状況にあって、“(偽装請負としての)一人親方”も問題視されています。ここでいう一人親方問題とは、元請けら企業側が法定福利費などの費用削減を狙い、技能者を独立させ、請負契約を結びつつも実際には労働者と同じ待遇で仕事をさせることです。こうした面でも、技能者の待遇改善は大きな問題となっています。

そうした課題を解決するため、2016年に官民コンソーシアムが立ち上げられCCUSの検討がスタートしました。

 一般財団法人建設業振興基金が運営主体となり、国土交通省などの関係省庁や業界団体も参画してCCUS運営協議会を2017年に設置し、2018年から本格的に運用をスタートさせています。

 CCUSは、技能者の適正な評価や処遇改善などに加え、若い入職者が将来のキャリアパスを描ける形で提示できるような基盤と位置付けられ、着実に登録人数を増やしています。

 この仕組みを通じて、技能者の人材育成に努め、優秀な技能者を多く抱える専門工事業者の施工能力を可視化することで、そのような企業を評価し、若い世代が安心して働き続けられる業界にしていくことが目的です。

また、建設業界の監督官庁である国土交通省では、“適正な一人親方の目安”という判断基準を設けて、CCUSの登録情報などを基に技能者や一人親方を判断することで、彼らの待遇改善や客観的な評価に努めています。

IDカードを用いたCCUSの概要

 技能労働者がCCUSを使うには、技能者登録が必要です。登録が完了するとCCUSカード(IDカード)が届くので、IDが付与されたCCUSカードの交付を受けて、そこに就業履歴や資格取得などの情報をインプットします。

 さらに、現場に設置されたカードリーダーにカードをタッチして就業履歴を蓄積することで、いつ、どの現場で、職制面でどの立場で働いたのかといった情報を、パソコンから確認することができるようになります。

 元請け事業者は、事業者IDを取得したのち、現場を開設する際に現場・契約情報を登録し、現場にカードリーダーを設置します。元請け業者、下請け業者は建設現場の施工体制や、その際の技能者の体制などを登録したのち、工事が始まれば、技能者はIDカードを使って現場の入退場管理ができ、就業履歴も蓄積されていく仕組みとなっています。

建設キャリアアップシステム(CCUS)の概要と利用手順

 この他、独立行政法人勤労者退職金共済機構(勤退共)が取り扱っている建設業退職金共済(建退共)制度において、建退共の電子申請方式の導入により、CCUSに蓄積された就業履歴を掛け金の充当に活用するといった連携を図り、事務の効率化や退職金給付の徹底に結び付けるなどしてCCUSの活用を促進しています。

なお、CCUSの詳細については建設業振興基金が公開している専用ホームページ「建設キャリアアップシステム」や、国土交通省の「建設キャリアアップシステムポータル」を参照してください。

全国の技能者の3人に1人超が利用

CCUSは、IDカードを通じた建設業界全体の共通基盤を構築したという点で画期的といえます。業界をあげて推進されている建設業DXの一翼を担っていることは確かでしょう。

 実際、CCUSへ登録する技能者は年々増えています。2019年度の約20万3000人に対して、2022年秋には100万人に達し、2023年9月末時点で130万人近くまで増加。これは全国の技能者の3人に1人が利用している水準とのことです。

 また、一人親方を除く事業者の登録数は、工事実績のある許可事業者の半数にあたる16万社以上で、現場での利用数(就業履歴数)も直近では月に460万件を超えて推移しており、着々と増えているようです。

 建設業界ではこれらの取り組みを通じて、従来からの3Kのイメージを払拭し、「新3K(給与・休暇・希望)」の定着を目指して仕事や働き方の変革を進め、若手入職者の確保に結び付けていこうとしています。そのために、CCUSのさらなる普及促進と登録者数の拡大に向け、業界全体で注力しています。

 また、国土交通省もCCUS登録行政書士の育成・活用や、認定アドバイザー制度の設置など、特に地方における業界団体などに属さない小規模事業者の登録を増やすための対策を講じるなど、さまざまな取り組みを進めています。

 ここまで見てきたようにCCUSはデジタル技術の面からはDX推進に向けたデジタル化の取り組みの第一歩とでもいうべき内容で、将来的に業界全体でDXを推進する上で活用されるツールの一つとなることが期待されています。

 
ここがポイント!
●建設業界では技能労働者(職人)を中心に、将来の担い手確保が喫緊の課題であり、技能者の待遇改善は待ったなしの状況。
●2018年度から、技能者の保有資格や社会保険加入状況、現場の就業履歴などをIDカードに登録・蓄積できるCCUSの本格運用が始まった。
●CCUSを通じて、技能者は能力や経験などに応じた適正な処遇改善に結び付けられるようになり登録人数は着実に増加。
●将来的に、CCUSは業界全体でのDX推進におけるデジタル基盤の一つとしての活用が期待される。

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業界ウォッチ◎建設業DXの最前線

外部リンク

建設キャリアアップシステム公式サイト 国土交通省の「建設キャリアアップシステムポータル」
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