建設業界といえば、3K(キツイ・汚い・危険)のイメージが依然強く、職人不足、道路や橋といった社会インフラの老朽化対策などの課題が山積しています。
そのような中で近年、デジタル技術を活用して省人化や無人施工による建設現場の生産性向上を目指すと共に、働き方やプロセスなどを変革していくDXを推進する取り組みが活発になりつつあります。待遇改善に加えて魅力ややりがいを醸成することで、入職者の増加と定着を促し現場の担い手確保や業界の成長を目指していくことが狙いです。
建設業界といえば、左官、とび・土工、大工、配管工、鉄筋工、コンクリート圧送、コンクリート工、板金、浚渫(*1)などさまざまな職種の職人(専門工事業者といわれています)が工事現場で作業に没頭する風景が思い浮かぶのではないでしょうか。
(*1)しゅんせつ。港湾や河川などの底面に堆積した土砂をすくい取る土木工事
全般的に人力の作業が多いイメージですが、この業界でもここ数年で、作業・業務のデジタル化やデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進に向け、着実に変化の波が押し寄せてきています。
建設産業は災害復旧などには欠かせない産業ですが、自然災害の激甚化の一方で、道路や橋、堤防など全国各地にある社会インフラの老朽化が進行しており、その維持管理・更新は待ったなしの状況にあります。
しかも、労働人口が減少している中で、職人の高齢化や3K(キツイ・汚い・危険)の業界イメージによる若者の入職率低下・離職に伴う職人および建設業の担い手不足、技術継承の問題も年々深刻になっており、建設現場の生産性や品質の低下も大きな懸念材料となっています。
簡単ではない建設業でのデジタル技術の普及拡大
さまざまな課題の解決が求められる中、デジタル技術の活用は生産性や現場の安全性の向上、作業の効率化などを実現するためにも欠かせませんが、そう簡単ではないという状況です。
というのも、建設業は生産プロセス面からみると、屋外の現場作業による「一品産業」、つまり、戸建て住宅やマンション、ビル、道路・橋のような、ニーズや環境によってそれぞれ要求される仕様の異なる個々の構造物を、多くの協力会社・下請け会社や職人たちの力で一つずつ受注して作り上げていく産業です。
もちろん複数棟の施設を建設するケースもありますが、工場に多数の製造・検査装置を設置してデジタル技術で一元管理し、歩留まりや品質向上を実現するようなやり方は難しいのです。例えば、世界中で2億台以上、国内でも1500万台を超える規模で出荷・販売される「iPhone」を工場で大量生産するような感覚で効率や大幅なコストダウン効果を追求することは難しいということです。
加えて、年々進化するデジタル技術になじみが薄い年配の作業者が多いことも相まって、現場作業へのデジタル技術の普及拡大がなかなか進まない状況が続いていました。
社会インフラ分野で生産性向上やDXを推進
そうした中、2016年以降になって建設業法を管轄する監督官庁である国土交通省では労働人口の減少を上回る生産性向上を実現し経済成長を目指す生産性革命プロジェクトに着手。デジタル技術の活用をはじめとする、建設現場の生産性向上やインフラの点検・保守の強化などに取り組んできました。
さらに、国のデジタル政策と連動し、そうした取り組みを発展させる形で2020年に「インフラ分野のDX推進本部」を設置。データとデジタル技術を活用して、社会インフラや公共サービスに加えて、業務や組織、プロセス、業界や国交省の文化・風土、働き方を変革していくことを打ち出したのです。
そのための具体的な施策と2025年度までの工程表を盛り込んだ行動計画を2022年春に公表。その見直しを図った第2版を2023年夏に公表し、施策ごとにデジタル技術の活用状況を可視化しています。大手ゼネコンをはじめ、民間企業もそれぞれ、中期経営計画にDX推進を盛り込んで取り組みを強化しています。
現場の省人化・無人施工を目指す
インフラ分野のDX実現に向けた建設現場の生産性向上を目指す取り組みの一つが、現場作業の遠隔化・自動化・自律化で、施工現場にいなくても建設機械が自動・自律施工を行い、品質検査なども自動化、遠隔化を可能にすることで、現場作業者らの負担軽減、省人化や作業時間の短縮につなげ、作業や工事の効率化を実現していく狙いです。
5G高速通信技術をはじめ、さまざまなデジタル技術を取り入れた建設機械を遠隔操作し、部材を所定の場所に設置するためにスマホやタブレットでその位置を管理しながら建機を操作するなど、デジタル技術を活用した実証実験や試行工事も行われており、国交省でも順次、直轄工事で、そうしたデジタル技術や新技術を用いた施工を原則として導入しつつあります。
また、部材の寸法や鉄筋の配置など工事にかかわる様々な図面情報を3次元モデルとしてデータ化し、共通のプラットフォーム上で活用できるよう環境整備が進められており、2023年度までに小規模工事を除くすべての公共工事で、これらが活用される計画となっています。
老朽化が進む道路や高架橋などのインフラの点検・保守作業においても、ドローンを活用した3次元データの収集・分析、非接触式の検査技術の研究開発、採用が進みつつあります。
この分野では高性能なセンシング、画像解析、高精度位置測位などの技術が不可欠となっており、関連メーカーやITサービス会社、ソフトウェア開発会社らが既存技術の活用、新技術の開発、あるいは協業を通じて、取り組みを強化しており、国交省でもそうした新技術を用いた試行工事や実証実験で技術公募を多数実施しています。
こうしたIT/IoT、ロボット・AI(人工知能)の活用で作業効率を高め、AIに学習させて職人技や技術・ノウハウを次世代に継承していくなど、省人化・無人施工を実現し、現場作業の負担軽減を図っていく取り組みが進められています。
国や大手ゼネコンと協業し中小企業もDX強化へ
建設業界では上記ようなの取り組みを通じて、従来からの3Kのイメージを払拭し、「新3K(給与・休暇・希望)」の定着を目指して仕事や働き方の変革を進め、若手入職者の確保に結び付けていく考えであり、DXによる変革を促す努力を重ねているのが現状です。
このような業界の流れを受け、下請け業者、特に中小規模の建設会社や建設資材メーカー、原材料メーカーなども、それぞれDXあるいはデジタル化の推進を経営課題の一つに挙げるようになってきています。
しかし、リソースが限られる中小企業が自社単独でDXを推進することは容易ではありません。国交省が中心になって整備を進めているさまざまな基盤を活用したり、ゼネコンと共同で技術の開発や適用に取り組んでいるのが現状であり、行政や元請け業者の取り組みに参画したり協力しつつ、各社でできるところから着手しているようです。
国交省でも2022年度以降、中小企業を対象に、同省の地方整備局や所管事務所が主催する形で現場施工見学会を開いて建設DXの普及認知に努めています。DXやデジタル化の潮流は建設業界にも確実に押し寄せており、中小の事業者も今後の動向を注視しながら取り組みを進めていく必要がありそうです。
ここがポイント! |
●建設業では働き手不足や職人の待遇改善、自然災害激甚化の中で道路や橋梁といった社会インフラの老朽化対策など課題が山積。 |
●早期の課題解決に向けて、行政などの発注者や大手ゼネコンなどの元請け業者を中心に、デジタル技術を活用した「建設業DX」の実現に向けた取り組みが活発になっている。 |
●中小企業が多くを占める下請け業者や建設資材・原材料メーカーなども建設業DXへの対応は不可欠。 |
●先行する中小企業は国土交通省やゼネコンらの取り組みに参加して、協業や共同開発を通じてDX推進に取り組む。 |
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