株式会社昭芝製作所(本社:東京都練馬区)は、1946年創業の製造業。エアバッグケースやシートフレームといった自動車部品の金属プレス加工を手がけており、特にエアバッグ向け部品に強みを持っています。
エアバッグといえば、自動車事故が発生した際には人命を守るために絶対に動作しなければならない装置だけに、それを構成する部品への品質要求は非常に高いことが特徴です。実際、同社が手がけるエアバッグ部品における納品時の品質要求水準は「不良率0.1PPM(Parts Per Million)」。これは、1000万個を納品した場合に許容される不良品が1個という意味です。
一般的な金属部品に対する要求水準は不良率5PPMといわれており、エアバッグ向け部品では実に50倍もの品質が要求されているわけです。さらに同社では、この要求を満たすだけでなく、まったく不良品を出さない「ゼロディフェクト」を最終的な目標として掲げています。
こうした取り組みを支えているのが、早い段階から進めてきた工場へのロボット設備導入やデジタルシフトへの取り組みです。
1980年頃には電算化に着手し、1985年にCAD/CAMシステムを導入したことを契機に、工場間や得意先受注のオンライン化、生産管理システムの導入や発注・手配の自動化などを実現。2010年代後半以降、静脈認証による勤怠管理システムの導入、出荷用タブレットシステムや製造進捗管理タブレット、RFIDベースの金型管理システムの開発など、矢継ぎ早にデジタルシフトを推進してきました。
現在、従業員ひとりあたり1.5台以上の多関節ロボットなどを活用した生産ラインの自動化による完全内製体制を確立し、生産の安定化と効率化を実現すると共に、デジタル技術を駆使したさまざまな管理システムにより顧客からのハイレベルな品質要求を担保しています。
ロボティクスやデジタルシフトによる省人化や効率化の効果も大きく、製造現場と間接業務を合わせた工数削減効果は人員換算で41名(2009年比)。例えば、一人あたりの年間給与を500万円だとすると、年間で約2億円のコスト削減につながっていることになります。
デジタルシフトやDXの推進は自前主義
驚くのは、こうしたシステムの導入や開発をすべて自社内で行っていることです。もともと、同社では「創業の頃より内製の企業文化があり、自分達で作れるものは自社でという考え方が醸成されてきた」(三原寛人代表取締役社長)とのこと。この流れから、DX推進においても社内プロジェクトを立ち上げて自社主導で取り組んでいます。
DX推進の端緒となったのは、2016年に米国のホワイトハウスが発表したシンギュラリティ(AIが人の知能を超える技術的特異点)などに言及したAI関連のレポートでした。
このレポートを見た三原社長は、「いずれシンギュラリティは必ず来る」と判断し、同社の若手社員を中心としたAI活用とIoT化推進のプロジェクトをスタート。さらに、2021年には「DX委員会」を発足させました。
若手を中心にプロジェクトを組んだのには、理由があります。シンギュラリティや完全スマートファクトリー化といったデジタルによるビジネスの大変革が到来する頃には、今の20代や30代が同社の中軸として活躍しているはず。若手に危機意識を持たせ将来を見据えてもらい、昭芝製作所の担い手として活躍してほしいとの思いからです。
一連のプロジェクトを進める中で、まずはデジタイゼーションとデジタライゼーション(*1)に取り組み、業務のデジタル化やデータを用いた業務を推進しました。このチャレンジでは、さまざまな技術を活用したいくつものシステムを開発しています。 (*1)DX推進は、アナログをデジタルに転換する「デジタイゼーション」から業務プロセスなどのデジタル化である「デジタライゼーション」、そしてDXという3つのステップで進むとされる
例えば、タブレットを活用して生産の進捗状況などを見える化したシステムでは、リアルタイムの進捗状況やラインの負荷状況などを工場内外から把握することを可能としました。時間単位でデータを収集することで、生産性向上にも役立っています。
また、RFID(電波を用いてタグのデータを非接触で読み書きする技術)ベースの金型管理システム、3Dビジョンを活用した自動ピッキングによる部品供給や画像認識による工程内不良の確認なども実現しました。
特に、製造業では金型管理の手間や労力の負担はかなりのもので、多くの同業者にとって課題となっています。昭芝製作所も例外ではなかったことから、このシステムを開発。金型の所在を把握しやすくなり、ピックアップや棚卸しの作業効率を劇的に高めています。
内製化でジャストフィットのシステム開発を可能に
前述したように、これらシステムはすべて社内開発されています。この点、昭芝製作所では自社の業務内容や課題を十二分に理解している人がDX推進に取り組んでいることがポイントといえるでしょう。
ソフトウェアやアプリケーションなどのシステム開発において中心的な役割を果たしているのは、同社で情報システム部門的な役割を担う「IT戦略室」です。旗振り役の阿部洋人室長は、「自前主義というだけでなく、できるだけコストをかけない開発を意識している」といい、「今の時代はWEBや書籍など参考になる情報は多く、システムのベースとなるソフトウェアなども手に入れられる」と、さまざまなリソースを駆使しながら内製化しているといいます。
阿部室長が指摘するように、システム内製化の大きなメリットはコストを抑えられること。市販システムや既存ベンダー提案のシステムなどは中小企業にとってオーバースペックであることが少なくありません。当然、余剰スペックはコストに反映されるため高くつきますし、下手をするとシステムが自社業務に合わず使えないといったリスクを抱えることとなります。
内製化による自社にジャストフィットしたシステムの導入は、適正コストでのDX実現を可能とします。同社では、適材適所の考え方のもと、さらにコストを抑える努力をしているのです。
例えば、バーコードリーダーを用いる場合、多機能な専用モデルは導入コストも高価になりがちです。しかし、バーコードを読み取るだけであれば、付加機能は無用の長物にしかなりません。「今はスマートフォン向けに性能のよいバーコードリーダーアプリが用意されており、ハードも含めて仕事に使ううえでの耐性も十分」と阿部室長。読み取るだけであれば、スマートフォンを利用することで高価な端末は要らないというわけです。
ソリューションプロバイダー事業に参入
効果的にデジタルシフトを進めている昭芝製作所ですが、ビジネスを変革するというDX本来の視点で見れば、上記の取り組みはデジタライゼーション止まり。DXのためには、もうワンステップが必要でしょう。
そこで、三原社長が参考としたのは米国アマゾンによるワシントンポストのDX事例でした。これは、アマゾンが買収した新聞社のワシントポストをデジタルメディアへと変革し、内製によるデジタル化で培ったノウハウを盛り込んだシステムを、他のローカル新聞社へ販売するデジタルカンパニーへと大きく転換したというものです。
この事例から、「当社でも同じことができるのではないか」(三原社長)と、自社の無人化・省人化を進めるために自社開発したシステムやツールをアセットとしてノウハウと共に外販するソリューションプロバイダーへの転換を昭芝製作所としてのDXに位置付け、実現に向けた準備を進めています。
実際、現場を知り尽くした社員が日々の業務において本当に必要だと感じて内製したシステムは既存ベンダーのものとは一線を画します。
例えば、前述の生産進捗を見える化するシステムを提供しているベンダーは少なくありません。しかし、同社では管理・監督者とのコミュニケーションツールとしても利用するなど、業務に密着した知見が盛り込まれたカスタマイズが施されています。同じような課題を抱える製造業者も多いだけに、外販できる可能性は高そうです。
企業が勝ち残っていくには、自社が持っているアセットやノウハウを時代に合わせて変革(トランスフォーム)させて新たなビジネスを生み出していくことであり、その媒介としてデジタルを活用するということがDXの本質でしょう。
この意味で、DX推進では常に変わろうというマインドセットが重要です。同社では、社長を筆頭にDX委員会に参加する若手社員が中心となり全社一丸となってビジネス変革に取り組むことで、危機意識や変革の必要性といった考え方を共有しているわけです。
「先にビジョンを明確に描くことが大切だが、リソースの限られた中小企業は一気に到達することはできない。少しづ前進していくしかない」と三原社長。同社のDXへの挑戦は、これからも続いていきます。
ここがポイント! |
●デジタル化からデジタライゼーション、そしてDXへと3つのステップを踏んだ着実なDX化。 |
●社長と若手社員で構成される「DX委員会」を中心に、全社一丸となってプロジェクトを推進。 |
●内製化で自社業務にジャストフィットするシステムを低コストで開発。 |
●真のDX実現を目指し、自社開発のシステムと導入で培ったノウハウを組み合わせて外販するソリューションプロバイダー事業に参入へ。 |
外部リンク
株式会社昭芝製作所=https://www.shoshiba.co.jp/
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