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2024.06.27 15:05

イベントレポート◎日本DX大賞2024
DX推進の好事例が多数集結、熱気に包まれた表彰式会場

 2024年6月17日から21日の5日間、自治体や民間企業などが取り組んだデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進プロジェクトを評価し表彰する「日本DX大賞2024」(同大会実行委員会主催)の決勝大会がオンラインで開催されました。

 表彰式などが行われた最終日の21日は、リアル会場とオンラインのハイブリッド形式となり、会場となった渋谷ストリームホール(東京都渋谷区)は足を運んだ関係者の熱気に包まれました。

 日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、さまざまなプロジェクトの事例を発掘して共有するためのコンテスト。大会実行委員会の構成は一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX)と一般社団法人ノーコード推進協会(NCPA)、Re-Innovate Japanの3団体です。

 コンテストでは、DX推進プロジェクトごとに「行政機関・公的機関」「ビジネストランスフォーメーション(BX)」「マネジメントトランスフォーメーション(MX)」「サステナビリティトランスフォーメーション(SX)」「カスタマーエクスペリエンス(CX)」の5部門が設定されています

 今回の応募総数は132件(前回大会は110件)で、部門ごとに4社・団体がファイナリストとして選出されました。決勝大会では、ファイナリストがそれぞれの取り組み事例をプレゼンテーション形式で発表。プロジェクトの戦略性や革新性、成果、組織などの観点から審査を行い、各部門の大賞や優秀賞、特別賞などが決まりました。

 以下では、大賞受賞者を中心に取り組み内容や審査の評価ポイントなどについて紹介していきます。

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表彰式では受賞者にトロフィーとパネルを贈呈。画像は、特別賞受賞者。左からJDX・森戸裕一代表理事、特別賞を受賞したアフラック生命保険株式会社、佐賀県、株式会社IACEトラベル、日本電気株式会社、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社

行政機関・公的機関部門:都城市が2年連続の大賞

 まず、行政機関・公的機関部門では3年連続の決勝大会進出となった都城市が前回に続き大賞を受賞しました。

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都城市は自治体専用生成AIプラットフォームを開発した(審査員の谷畑氏と都城市の佐藤氏)

 都城市は、民間企業との共創による全国初の自治体専用生成AIプラットフォーム「zevo(ゼヴォ)」の事例を紹介しました。“使われるDX、結果を出すDX”をコンセプトに、無償トライアルで約300の自治体に同プラットフォームを使ってもらったとのこと。このうち、約50の自治体が本格的に導入したそうです。

 「我われ行政も変わらなければいけない時代であり、大賞を受賞して終わりではありません。次々と新しいデジタルを進めていく必要があります」(都城市・デジタル統括課・主幹の佐藤泰格氏)。

 審査員の谷畑英吾氏(滋賀県湖南市・元市長)は講評で、都城市が3回目の決勝進出、2年連続の大賞受賞となることに対して非常に悩んだと明かしました。

 それでも大賞に選出した理由は、クローズドな自治体専用ネットワーク(LGWAN:Local Government Wide Area Network/*1)であっても生成AIを使って作業できることを示した点や、各自治体の共通課題を浮き彫りにできるプラットフォームを作成した点を評価したとのこと。自治体での導入状況にも言及し、「開発した技術を囲い込まず、皆で共有していく、そこにこそDXの醍醐味があるのではないか」(谷畑氏)と強調しました。
(*1)総合行政ネットワークとも。自治体間を相互につなげる行政専用のネットワーク網で、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が運営

BX部門:Slackの事業モデルを参考に設備保全でDX化

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設備点検のDX化を推進しているバルカー(審査員の小野塚氏/左とバルカーの川上氏/右)

 BX(ビジネストランスフォーメーション)部門の大賞受賞者は、産業用シール材メーカーの株式会社バルカー(東京都品川区)です。

 バルカーは、設備点検プラットフォーム「MONiPLAT(モニプラット)」を通じて、アナログ業務が多く残っている設備点検の現場のDX化を目指す取り組みを発表しました。

 この取り組みは中小企業の設備点検のDX化を促進するもの。プロジェクトでは同社が開発したMONiPLATを無償提供し、評価がよければ本格導入に向けて有料化に移行してもらう事業モデルを展開しました。

 2023年4月のリリースから、顧客数は累計700社以上に達しているとしています。導入先は、当初見込んでいた製造業や石油化学産業に加え、建設・運輸業など多様な業界・業種からの引き合いや採用が増えているとのことです。

 デジタル戦略本部長兼執行役員の川上孝弘氏は、「創業96年の会社であり、今は全社一丸で新規事業を作っている状況です。半導体向けのシール材を海外に販売していますが、デジタル系の製品も頑張っていけば世界で戦えるのではないか。さらに、よいプロダクトを作って会社を変えていきたい」と語りました。

 審査員の小野塚征志氏(株式会社ローランド・ベルガー パートナー)は、創業96年のシール材メーカーが設備保全のデジタルプラットフォームを作った点や、SNSのSlackを参考にしたというビジネスモデルを構築した点などを選考理由として挙げたうえで、次のように述べました。

 「(ツールを)使ってもらった会社にシール材を販売できるかもしれないとなれば、一石三鳥だ。価値創造型のビジネスを作り、それが会社の新たな成長につながるだけではなく、設備保全という業界やビジネス自体を変革する点を評価した」。

MX部門:中小建設会社が「全員DX」推進

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中小建設会社によるDXプロジェクトを紹介した後藤組(中央:後藤社長/右:笹原氏)。左は審査員の志水氏

 MX(マネジメントトランスフォーメーション)部門では、ノーコードの活用と“全員DX”をキーワードに取り組んだ「中小建設業が挑むデータドリブン経営」の事例を紹介した株式会社後藤組(山形県米沢市)が大賞を受賞。サイボウズ賞(*2)にも選出され、ダブル受賞となりました。
(*2)協賛会社の一社で、ノーコードツール「kintone(キントーン)」などを展開するサイボウズ株式会社の社名を冠した特別賞の一つ。

 後藤組は、新卒の採用に力を入れてきたこともあり平均年齢38歳と若い社員が多い企業です。建設業では勘と経験と度胸という仕事がまだまだ主流ですが、同社ではデータを基に判断する経営スタイルにシフトし、若手でも力を発揮できる体制の構築を目指したとのことです。

 ただ、「当初は一人でアプリ開発を行っていたことから空回りしてしまい、失敗した経験があります」と経営管理部・部長の笹原尚貴氏。そこで、「社長の方針転換のもと、現場の全員で取り組むボトムアップ型に切り替えました」(同前)。

 全員DXを実現するため、さまざまな工夫を凝らし、サイボウズのノーコードツール「kintone(キントーン)」を用いて作成したアプリが5年間で2000件に達したとしています。

 代表取締役の後藤茂之氏は「社員に無茶ぶりをしてきた」と、これまでを振り返りつつ、「中小企業の建設業のDXは本当に遅れています。建設業全体の生産性を上げるように舵を切り、当社が貢献できるようになっていきたい」と述べました。

 審査員の志水静香氏(株式会社ファンリーシュ代表取締役兼CEO)は、「建設業界で地方の企業が、ここまでDX推進を実現できていることに感動した」とのこと。

 具体的な評価ポイントとしては、経営スタイルの転換と再現性に着目したとのこと。DX推進に一度失敗し、社長の方針転換で取り組み方法を切り替えたという話を引き合いに出し、「(社長の)リーダーシップや、社長と社員の関係も素晴らしいと思ったし、そういった再現性も高く評価した」(志水氏)と述べました。

SX部門:DXで持続可能な農業を実現へ

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果実堂は、“休める・稼げる農業DX”で実績を上げている。写真右端が果実堂の高瀬社長、中央は塚口氏。左は審査員の吉高氏

 SX(サステナビリティトランスフォーメーション)部門では、ベビーリーフの大規模な有機栽培を手掛ける研究開発型の農業法人である株式会社果実堂(熊本県上益城郡益城町)が大賞を受賞しました。

 果実堂は、「サイエンス農業」と「改善」を組み合わせた“休める・稼げる農業”を目指した取り組みを紹介。土壌・栽培・工場の管理などにDXを活用し、横展開を重視しながら他の農業法人と一緒になって効率化や業務改善に取り組みました。

 この実現に向け、社内デジタル人材の育成を推進。その際に属人化させないように取り組んだことで、「みながノーコード・ローコードツールでアプリを作れるようになりました」(工場管理部 業務推進センター チーフの塚口世名氏)とのことです。

 代表取締役社長の高瀬貴文氏は、「社員一同の努力です。農業者でもDXをできるということで一歩踏み込めたと思っています。これからも取り組みをコツコツと積み上げ、DXで農業者全体を変えていきたい」と述べました。

 審査員の吉高まり氏(一般社団法人バーチュデザイン代表理事、東京大学教養学部客員教授)は、「日本の農業の危機的状況をチャンスととらえ、いかに農業を変えていくかという熱意が伝わったことと、高齢の農業従事者が多い中で世代を超えて一生懸命やっていることに感動した。ぜひ、日本の農業復活を支えていってほしい」と講評しました。

CX部門:組織変革で最良の顧客体験を実現

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三井住友カードは顧客視点での横展開の組織づくりを進めた。右から三井住友カードの伊藤氏と審査員の鈴木氏
 

 CX(カスタマーエクスペリエンス)部門で大賞を受賞した三井住友カード株式会社は、同社と三井住友銀行で開発したモバイル総合金融サービス「Olive(オリーブ)」の商品化にかかわる取り組みを紹介しました。

 異業種参入やコロナ禍の影響で顧客のデジタル志向が強まり、将来への強い危機感があったとしました。従来の縦割り組織では、顧客向けのよいサービスを提供できないと考え、顧客にとって最良な体験の実現をミッションとする、顧客視点の横断型の組織を作ってプロジェクトを進めました。

 このプロジェクトでは、「関連会社を含めて延べ1000人程度がかかわっていると思います」(マーケティング本部長補佐の伊藤亮祐氏)とのこと。縦割り型から横断型への組織変革と、最良の顧客体験(UX)の提供を実現しています。

 また、支店の役割をこれまでの“手続きをする場所”から“Oliveサービスを提供する場”へと変革していく考えで、2024年5月にカフェとシェアラウンジを併設した基幹店を渋谷に開設したことを紹介ました。

 審査員の鈴木康弘氏(株式会社デジタルシフトウェーブ代表取締役社長)は、「銀行や証券など、金融業界という縦割りの世界を打ち破って挑戦し、Oliveを作り上げたことは非常に価値がある」と述べています。

優秀賞:大賞逃した企業にも興味深い事例

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SX部門で優秀賞を受賞した株式会社誠和の大出浩睦代表取締役

 大賞に選出された企業や団体以外にもDX推進の優れたプロジェクトが多数あり、いくつか優秀賞として表彰されました。優秀賞の受賞者は以下の通りです。

 ・行政機関・公的機関部門:福島市/佐賀市
 ・BX部門:資生堂インタラクティブビューティー株式会社/株式会社クレディセゾン
 ・MX部門:松本興産株式会社/日清食品ホールディングス株式会社
 ・SX部門:株式会社天地人/株式会社誠和
 ・CX部門:株式会社ヤマップ/株式会社エアークローゼット

 このうち、自動車部品を製造・販売している創業60年の松本興産株式会社(埼玉県秩父郡小鹿野町)は、社内の雰囲気がかなり悪く社員の心がつながっていない時期を経験した過去があったとのこと。

 こうした中、「7年前に管理会計ソフトを導入した時もうまくいかず、従業員にDXへの嫌悪感を醸成してしまった」と同社取締役の松本めぐみ氏。「3年前にDXを始めるに際しては、何よりも社員全員の心のつながりが大切だということを強く実感していた」と語りました。

 そこで、3年前にDXプロジェクトをスタートさせた際、社内主導のボトムアップで取り組めるよう社員自身によるアプリ開発や経営者視点の共有など、自主的に動いてもらえるようなさまざまな工夫を紹介しました。

株式会社天地人(東京都中央区)は、地球約4周分に相当する老朽化した水道管の漏水や道路陥没事故を未然に防止する取り組みを紹介しました。

 COOの百束泰俊氏は、地球観測衛星の開発に携わってきた経験を活かし、主な顧客となる自治体向けに“宇宙ビッグデータ×AI分析=水道DX”を展開しています。具体的には、漏水リスク箇所の可視化と業務支援サービスの提供による“宇宙水道局”を目指し、持続可能性の維持向上につなげていくとしています。

 農業用機器・システムを手掛ける株式会社誠和(栃木県下野市)は、廃棄物をバイオマス資源に変換する農工連携型のエネルギーデザインシステムを紹介しました。

 同社は、農工連携型による佐賀県の脱炭素化の取り組み事例をもとに、佐賀県および佐賀市と連携し、だれもが使いやすいシミュレーションソフトウェアを開発。二酸化炭素(CO2)削減量、植物によるCO2吸収量、エネルギーコスト削減額など、資源循環による経済・環境価値を可視化しています。

第2回日本ノーコード大賞も併催、LIMNOが受賞
 ノーコード推進協会(NCPA)が主催する第2回日本ノーコード大賞の最終選考会も、日本DX大賞2024と同時開催。6月17~18日にオンラインでプレゼンテーションが実施され、21日に渋谷ストリームホールで結果発表と表彰式が行われました。

 エントリーした32社・団体のうち6社・団体がファイナリストとして選出されました。審査結果は以下の通りです。

・大賞:株式会社LIMNO
・優秀賞:茨城県下妻市/大日本印刷株式会社
・特別賞:株式会社エネコープ/株式会社ALLCONNECT/写真甲子園実行委員会
・日本デジタルアダプション協会賞(新設):株式会社東急コミュニティー

 表彰式では、各賞の受賞者にそれぞれ賞状とトロフィーが壇上にて手渡されました。

 大賞を受賞したLIMNO(鳥取県鳥取市)は、旧鳥取三洋電機を前身とし、ODM(相手先による設計・製造)製品の受託開発・製造がメインでしたが、現在は自社ブランドによるハードウェアやソフトウェアサービスの提供へと転換しつつあります。

 LIMNOは、このような“会社を丸ごと変えていく取り組み”に注力、現場主導でノーコードアプリ開発ツールを用いてDXを推進し、大きな成果を上げた事例を紹介。同社の代表取締役社長の木村裕一氏は、「1年半であっというまに約70種のアプリが完成し、うち40種ほどが稼働しています。DX推進の起爆剤・促進剤になったのが、ノーコードアプリ開発ツールです」と、その成果について語りました。

 大会審査委員長を務めた中山代表理事は、「トップ自らがDX人材となって企業風土を変えたという好事例だ」と講評しました。
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大賞を受賞したLIMNOの木村社長(中央)と大会推進委員長の中山NCPA代表理事(右)

 表彰式の終了後、JDXの森戸裕一代表理事が閉会のあいさつに立ち、次のように語り締めくくりました。

 「最近は受賞者が講演などを通じて普及啓蒙活動をしており、当アワードの狙いや趣旨が浸透してきたと実感している。参加者一人ひとりがこれからのビジネスやさまざまな活動を行ううえで、一つのきっかけとして今回のアワードが生かされればと思っている。また、参加者同士のネットワーキングや連携を通じ、新たな付加価値を創造してほしい」。

外部リンク

日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX)のホームページ=https://jdxa.org/ ノーコード推進協会(NCPA)のホームページ=https://ncpa.info/
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