2026年7月23日、「日本DX大賞2026サミット&アワード(日本DX大賞実行委員会主催)」の2日目(Day 2)が開催されました。
行政関係を中心とする“公共DX”の好事例が相次いだ初日(関連記事:イベントレポート◎日本DX大賞2026/Day 1(内部リンク:※Day1のURLにリンク)に続くDay2は、主に民間企業におけるDX(民間DX)への取り組みを対象に、評価・表彰を通じて実践知を共有する場です。
メインの表彰式に加え、個人表彰や日本ノーコード大賞といった同時開催のアワード、ポスターセッションなど、Day 2も単なる授賞式の枠を超えたDX推進のためのサミット&アワードとして大いに盛り上がりました。


本稿では、Day 2のメイン表彰部門となる「サステナビリティ部門」「価値創造部門」「業務変革部門」の受賞企業の取り組みや評価ポイントを中心に、同時に開催されたアワードなどの模様をレポートします。
サステナビリティ部門:大賞はもりやま園
「サステナビリティ部門」は、環境・社会的課題の解決や持続可能な事業・地域づくりにデジタル技術を活用する取り組みを対象としたもの。今年は、100年以上続くりんご農家のもりやま園株式会社(青森県弘前市)が大賞に選出されました。

もりやま園は、「捨てる作業を作る作業に変える」という理念のもと、農業の持続可能性と収益性を両立する事業モデルの構築に取り組んでおり、このプロジェクトがサステナビリティとDXを融合した先進事例として評価されました。
例えば、りんご栽培では農作業の75%以上が剪定や摘果、葉取りといった“捨てるための時間”に費やされます。そこで同園では、自社開発の果樹農業向け生産管理システムを用いて全作業をデータ化し、この廃棄されていた摘果りんごを、サイダーやソーダなどの商品へと転換してきました。
審査員の正能茉優氏(株式会社ハピキラFACTORY代表取締役)は、「DXにおいては、どれだけ真摯に向き合って物事を成し遂げたかが重要」と強調。「個としての取り組みにとどまらず、業界を盛り上げ、次世代につなげていくという強い思いを高く評価した。我われも心から応援したい」と述べました。
受賞したもりやま園の代表取締役である森山聡彦氏は、「りんごという第1次産業を、若者にとって魅力ある産業に変えていくために、これからも挑戦を続けていきたい」と語っています。
サステナビリティ部門の優秀賞:株式会社クラダシ

サステナビリティ部門で、大賞に続く優秀賞に選ばれたのは、株式会社クラダシ(東京都品川区)です。同社は、余剰在庫が生じてしまう食品メーカーの構造的な課題を、AIで解消する原因療法型プロジェクトに注力。“余ったものを買い取る”から“余らせない設計”へと、食品業界の構造転換を目指したフードロス削減に取り組んでいます。
もともと同社は、食品メーカーの消費期限に近い商品を買い取り、同社の運営するソーシャルグッドマーケット(*1)である「Kuradashi」を通じて、買い取った商品を販売していました。
(*1)社会や環境に良い活動や商品を提供する市場
この状況から、さらに踏み込んで食品メーカーや卸売・小売の在庫滞留を事前に予測する「滞留予測AI」を開発しました。これをメーカーの在庫・販売管理データと連携させ、滞留リスクの高い「SKU(在庫・販売管理における最小管理単位)」を早期に判定するフードロス削減サービスの提供を始めています。
食品業界の構造自体をデジタル技術により“ロスが出ない仕組み”へと変革していく、こうしたアプローチが高く評価されました。
クラダシのマーケティング部長の吉田柾長氏は、「従来の“余ったものを買い取る”という対処療法型アプローチから、フードロスを発生させない原因療法型のアプローチに取り組んだ。今後もフードロス削減をどんどん進めて頑張っていきたい」と今後の展望を語っています。
サステナビリティ部門の優秀賞:会津若松市上下水道局

同じくサステナビリティ部門の優秀賞に選ばれたのが、会津若松市上下水道局(福島県会津若松市)です。
これまで紙と経験頼みだった水道工事(年間4,500か所に及ぶ水道管の継手工事)の施工管理を、IoT技術を活用したデータ駆動型の施工情報システムへと転換し、業務効率を向上させました。2020年の実証実験から段階的にシステム導入を進め、2025年には本格的にシステム運用を拡大させています。そのプロセスにおいて、地域の水道工事業者やシステム開発メーカーなどと連携して試行錯誤を重ねた官民共創の取り組みが評価されました。
サステナビリティ部門の奨励賞:松江土建株式会社/株式会社フォーラムエイト

サステナビリティ部門の奨励賞に選ばれたのは、松江土建株式会社(島根県松江市)/株式会社フォーラムエイト(東京都港区)。受賞対象は、除雪現場を熟知する建設会社の松江土建と、デジタルツインシミュレーション技術を有するフォーラムエイトの共同プロジェクトです。
道路や積雪の状況、障害物の位置などを熟知したオペレーターの経験に大きく依存している除雪作業に対し、高精度な測位技術(RTK GNSS)とフォーラムエイトの3DリアルタイムVRソフトウェア技術を連携。除雪時に支障となる障害物などを3D/VR空間に重ねて、大型除雪車両のモニタに表示する仕組みを構築しました。
これにより、オペレーターが慣れていない現場を担当する場合でも、その作業負担を軽減できると共に、属人化を解消する持続的な維持管理体制を実現したことが評価されました。
価値創造部門:追手門学院が大賞
新たな製品・サービスや事業モデルの創出など、デジタル技術を活用して新しい価値を生み出す取り組みを対象としたものが「価値創造部門」です。学生の体験価値(CX)を中心に据え、部署を横断して全学的な「OIDAI DXプロジェクト」を推進した学校法人追手門学院(大阪府茨木市)が、同部門の大賞に選ばれました。

追手門学院のOIDAI DXプロジェクトとは、「大学が何を教えるか」ではなく、「学生が何を得るのか」という学生の体験価値(CX)の向上を軸に据えた“教育DX”への取り組みをいいます。この視点転換に伴い開発されたのが、大学公式アプリケーションの「OIDAIアプリ」です。
OIDAIアプリは、大学からの通知や時間割、休講情報、電子学生証や施設予約機能など、学生が日常的に利用する情報をスマートフォンのアプリケーションに集約したものです。情報への即時アクセスが実現されたことにより、窓口受付のたらい回しなどを解消。事務的なわずらわしさが取り除かれたことで、学生生活の本来の目的である学びや挑戦に集中できる時間を創出できるようにしました。アプリケーションの満足度に関する調査でも、圧倒的な支持が得られているといいます。
さらに、学生生活にかかわる相談に対し、AIが状況に応じて助言する学生向けAIアドバイザー「OIDAI+」をOIDAIアプリに搭載。この取り組みが、CXを高めるAI実装の成功事例として審査員から高く評価されました。
審査にあたったディアワンダー株式会社代表取締役CEO&CWOの前刀禎明氏は、「今回の取り組みは、教職員のためのDXではなく、学生の価値を高めることを目的としている点が重要」といい、「これこそが学校や教育機関が行うべき本質的な価値の訴求だろう。学生は、教職員が試行錯誤しながら、部署をまたいで取り組む姿を目の当たりにしている。まさに学校が学びの場になっている点が素晴らしい」と評しました。
追手門学院CXデザイン部システム企画推進課の岡野圭一郎氏は、「DX推進の過程でぶつかった課題や壁を乗り越えていくプロセス、これこそが我われの最大の財産である」と述べています。
価値創造部門の優秀賞:株式会社ヒューマングループ

優秀賞に選ばれたのは、長崎県佐世保市で自動車学校の運営などを手掛けている株式会社ヒューマングループ(長崎県佐世保市)。日本DX大賞2025では業務変革部門で優秀賞に選出されており、2年連続の受賞となるなど、積極的なDXへの取り組みがうかがえます。
同社ではチャットを中心に、各種の申請や報告、稟議、情報共有などの業務機能を集約した中小企業向けDXモデル「One-Chat DX」を開発。専任のITエンジニアなしにノーコードツールを用いて開発されたもので、だれもが使いやすく大幅な業務効率化を実現したことが評価され、前年の日本DX大賞受賞企業となりました。
今回、この社内システムをパッケージ化により事業化し、外部にも公開。専門のエンジニアがいない中小企業でも、運用・定着できるようにしました。導入企業は13社に達しており、その成果は3か月で管理コストを4分の1に抑え、作業時間を半減するといった実績が上がっているとのこと。審査では、自社の取り組みを新たな事業として展開し、効果をあげている点が評価されました。
「前回の応募時点で、DXは右肩下がりの業界の中で当社が生き残るためのツールだった」と同社代表取締役の内海利恵子氏。「その後、多くの企業経営者との対話を通じて、我われにできることは地域の中小企業の生産性向上や価値を高めるお手伝いをすることではないかと思うようになった」と、エントリー部門変更の理由を語っています。
価値創造部門の優秀賞:アート引越センター株式会社

価値創造部門ではもう1社、アート引越センター株式会社(大阪府大阪市)が優秀賞に選ばれています。
アート引越センターのプロジェクトは、“物流DXのスタンダードになりつつあるRFID技術を、(手作業がメインの)引越事業へ融合させる、ゼロからの挑戦”でした。
物流倉庫と異なり、引越現場では顧客の家財の素材や形状が千差万別のため事前のタグ付けができません。そこで同社は、独自の“ART RFID Evolution”システムを導入しました。これまで個々の家財に貼っていた紛失防止用シールにRFIDタグを埋め込むことで、作業効率を高めました。同時に、引越作業のプロセス全体を根本から見直し、積み下ろし作業を効率化し、アナログな現場オペレーションを変革したことが評価されての受賞です。
価値創造部門の奨励賞:株式会社Seibii

価値創造部門の奨励賞には、株式会社Seibii(東京都港区)が選出されています。深刻な自動車整備士不足の中、「整備士専用アプリ」を自社開発。これを活用して、本部の品質管理チーム8名が、全国のパートナー整備士1,300名超の現場品質を支える体制を構築した点が評価されました。
業務変革部門:大賞は大成建設が獲得
業務プロセス、組織構造、働き方を変革し、生産性と競争力を高める取り組みを取り上げる「業務変革部門」では、建築分野のDXを推進するための共通基盤となる「T-BasisX」を開発した大成建設株式会社(東京都新宿区)が大賞を受賞しました。

T-BasisXは、メッシュWi-Fiや位置把握などの“IoT見える化”を実現する技術を標準装備し、人や重機、資機材の位置情報、環境データ、映像をリアルタイムに統合できるプラットフォームです。
このプラットフォームにより、作業現場の巡視・確認・報告に伴う移動時間を削減でき、年間約50万時間にも及ぶ業務時間の創出を可能としました。さらにAI活用による生産性向上と安全・環境対応を同時に進め、国内すべての現場で運用できるようになっています。
審査員の小柳はじめ氏(株式会社Augmentation Bridge代表取締役)は、「以前からの3K(きつい・汚い・危険)のイメージを引きずったままでは、若者が入職・定着せず、将来的に業界が立ち行かなくなる。そういった強い危機意識で変革に取り組み、成果を出している点を高く評価した」と述べました。
受賞した大成建設は、次のように語っています。「DX推進により、次世代の若者が憧れる建設業界に変えていきたい。そのDXを全国の現場で推進するためのインフラがT-BasisXだ。建設業界のすべての企業にT-BasisXの意義や重要性を理解、あるいは参考にしてもらいたいと思っている。このようなDX共通基盤を業界全体に普及させて、夢のある建築現場を実現していきたい」(建設総本部DX統括推進部長の中谷晃治氏)。
業務変革部門の優秀賞:三共電機株式会社

業務変革部門で、大賞に続く優秀賞に選出されたのは制御盤メーカーの三共電機株式会社(愛知県稲沢市)です。
社長自ら独学でノーコード&ローコード開発プラットフォームやAIを活用して業務アプリケーションを開発するというトップダウンで、製造・労務管理・経営の3本柱を軸とするDXに取り組みました。
開発した業務アプリケーションの導入により、間接業務の約90%を自動化しました。棚卸業務は従来の1週間から半日へと短縮、残業時間は62%削減、有給取得率3年連続80%以上で離職率2年連続ゼロなど、大きな変革を実現しました。こうした効率化の一方、売上は1.7倍、利益は3.8倍を達成しており、こうした実績が評価されての選出です。
審査員の志水静香氏(株式会社ファンリーシュ代表取締役兼CEO)は、「業務変革による成果に加え、社長が自ら現場に出向いてデジタル化に反対の立場だった管理職を巻き込んで一緒に変革を成し遂げたプロセスを高く評価した」と語っています。
業務変革部門の奨励賞:東京ガスネットワーク株式会社

業務変革部門の奨励賞は、東京ガスネットワーク株式会社(東京都港区)となりました。
同社管轄のガス管が埋設されている場所の近傍で他のインフラ事業者などが工事する際には、その埋設されたガス管が損傷しないように各現場を巡回する保安業務(他工事巡回)が欠かせません。
巡回の優先順位付けをはじめとして巡回計画の策定では、ベテランの経験やノウハウに依存していましたが、この業務にデータとAIを活用することで、だれでも短時間で適切な巡回計画を作れるようにしました。これにより、年間で約6万6,000時間の業務削減効果を上げたことなどが評価されました。
業務変革部門の奨励賞:大阪ガス

大阪ガス株式会社(大阪市中央区)は、業務変革部門において奨励賞を獲得しました。同社は、経営陣のトップダウンと、AIを活用した現場の成功事例を競う社内グランプリを通じて、生成AIを日常的に活用する従業員を全体の7割超に拡大させました。
さらに、独自のAI開発基盤を構築・活用し、新規ビジネスの創出でも成果を上げています。こうしたAI-Ready(AIを安全・迅速・継続的に活用できるリテラシーが整っている状態)な先進性が評価されての受賞です。
同時開催のアワードにも注目
日本DX大賞では、メインの6部門に加えて、さまざまな取り組みを表彰するアワードがあります。今年は、新たに創設された「個人表彰」や恒例の「日本ノーコード大賞」などが開催されました。
個人表彰:初開催!4部門で6人が受賞
今回、新しく設けられたのが「個人表彰」です。組織の変革や知見の発信などを通じてDX推進に貢献した“人”をたたえ、さらなる変革を誘発することを目的としたものです。
「DXリーダー賞(旗振り・巻き込み・推進体制づくり)」「DXエキスパート賞(外部の専門家として他社のDX推進を支援)」「エバンジェリスト賞(社内外への発信・共有・育成)」「AIインパクト賞(AI活用で顕著な成果)」の4部門が設けられています。今年の受賞者は、以下の通りです。
DXリーダー賞
・岡田俊樹氏(愛知県豊田市上下水道局企画課)
・坪内知佳氏(株式会社GHIBLI代表/SENDANMARU代表)
DXエキスパート賞
・奥田正浩氏(同志社大学 理工学部 教授)
エバンジェリスト賞
・平山秀樹氏(平山建設株式会社 代表取締役)
AIインパクト賞
・山口比奈子氏(タキヒヨー株式会社)
・まじん氏(Google Workspace×AI研究家)
4部門の中でも、“AI”の名を冠したAIインパクト賞は注目度も高かったようです。老舗の繊維専門商社タキヒヨー株式会社(愛知県名古屋市)のマーケティングチーム兼DX推進チームに所属する山口氏は、ITに苦手意識のある典型的なアナログ人間だったとのこと。それがECサイトの運営をきっかけに、独学とリスキリングで生成AIを使いこなせるようになったといいます。
山口氏は現在、社内のシステム開発を担当しており、データ分析基盤を内製化し、全社で月450時間の工数削減などを実現しています。AIにより個人の能力が大きく拡張できることを自身で実証し、社内に“学びと挑戦”の連鎖を生み出したことが高く評価されました。

また、Google Workspace×AI研究家のまじん氏も専門職のエンジニアではありませんが、生成AIを使いこなす「まじん式プロンプト」を考案。AIやITに詳しくない人でも無理なく業務に取り入れることができるよう、だれでも使える形で無償公開・発信を続けている活動が評価されました。
日本ノーコード大賞:設楽町、三共電機が大賞受賞
Day 2では、恒例となった「日本ノーコード大賞(主催:一般社団法人ノーコード推進協会)」も開催されました。同大賞は、日本DX大賞にエントリーした企業・団体から、ノーコード/ローコードを活用して変革に取り組んだ優れた事例を表彰するものです。

第4回となる今年は、自治体部門で愛知県設楽町が、一般企業部門で三共電機株式会社が大賞に選ばれました。
愛知県設楽町は、人手不足が大きな課題である公的ストック(自治体等が所有または利用する町道や農林道、公営住宅、河川など)の維持管理業務をノーコードツールで開発した仕組みにより、1つの管理業務あたり平均50分の時間短縮を実現できたことが評価されました。
一方、日本DX大賞の業務変革部門優秀賞とのダブル選出となった三共電機の取り組みは前述したとおり。ノーコード/ローコード開発プラットフォームと生成AIを活用したDXの推進が評価されました。
日本ノーコード大賞の審査委員長を務めた中山五輪男代表理事は、全般的にAI関連のエントリーが増えていると総括。生成AIでもアプリケーションを作成できる現状に言及し、「当協会としては生成AIもノーコードツールの一つという認識のもと、さまざまな活動を進めている」と述べました。AIを活用したアプリケーションなどの開発事例は、ますます広がると見られます。
閉会:表彰は出発点、受賞者はさらなる活躍を

2日間にわたって開催された日本DX大賞2026サミット&アワードは、例年以上の盛り上がりのなか表彰式が終了。閉会のあいさつには、主催者であるJDXの森戸裕一代表理事が登壇しました。
イベントも回を重ね、複数回の受賞企業や団体、自治体が出てくる中、森戸代表は「受賞はあくまでも出発点であり、その後のDXへの継続的な取り組みが重要である」ことを強調。前年に業務変革部門で優秀賞となり、そこで培った知見を新たな価値創造へと展開して、今年は価値創造部門で優秀賞に選ばれたヒューマングループの例を挙げました。
「日本DX大賞は、こうした流れがどんどん生まれる場でありたい。表彰してそれで終わりではなく、ここがスタート地点。受賞者のみなさんには、さらに活動の場を広げていってほしい」と森戸氏。これからの活躍に期待を寄せました。
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