今、“ヒューマノイドロボット(ヒト型ロボット)”が、デジタルシフトやDX推進における注目技術の一つであることは確かでしょう。従来、研究機関や一部の大企業に限定されてきた開発の裾野は広がり、米国や中国を中心に研究開発に留まらずビジネス化の動きが加速しつつあります。
2023年から2024年にかけて、主に製造業・物流の分野で試験導入や実証実験を通じた用途開発が活発化しており、AIの進化を背景に投資規模も拡大しています。まだまだ課題は山積状態ですが、社会実装に向け本格的に歩み出したことは間違いありません。

そうした中、「ヒューマノイドロボットEXPO【春】~人と共に働く次世代ロボットの実装展~」が2026年4月15日から17日にかけて、東京ビッグサイトで初めて開催されました。第1回ということで、出展企業やスペースなどの規模は小さかったものの、次世代ロボットへの期待感や昨今のAIブームもあってか、初日から多くの来場者が詰めかけて会場内は熱気に包まれました。
本記事では、同展示会の様子を通じてヒューマノイドロボットの現状と将来展望をレポートしていきます。
市場の勢力図が反映された会場風景
会場では、二足歩行型や車輪型(上半身はヒト型で車輪により移動するタイプのロボット)、四足歩行型など、多様な形態のロボットが実機展示されていました。特に、五体そろった物理的な身体にAIを搭載した「エンボディドAI(Embodied AI)ロボット」が注目を集めており、それらの自律動作を可能にするフィジカルAIや開発環境の紹介も相次ぎました。
とはいえ出展企業のデモンストレーションは、フィジカルAIを用いた自律動作ではなく、大半はプログラムされた動作を繰り返すものでした。ブースの説明員がノートパソコンで指示を出したりしていましたが、時折ロボットの動きにエラーが生じたり、停止したりする様子も見られました。この点については、おそらく会場の通信環境も影響していたように思われます。
また、成人男性と同等の高さがある二足歩行型は転倒リスクが高く、多くはリフトによりつり下げられた状態でした。実用化の面では安定性に優れる車輪型が中心となっており、移動デモも主にこのタイプが用いられていました。
“ビジネス現場で働くロボット”の社会実装という視点では、全体的に課題ばかりが目についた感もあります。それでも、ヒューマノイドロボットが動いている様子を日常あまり見かけることがないためか、多くの来場者が決してスムーズではないデモに対しても高い関心を寄せ、興味深く動きを見守っていました。


記者が個人的に感じたのは出展企業の顔ぶれであり、ロボットの実機を紹介している企業の多くは中国系メーカーであること。事前知識としてヒューマノイドロボット市場の現状を理解はしていました。展示会場においても機体の開発・製造の中心は中国系メーカーで、日本企業も出展してはいましたが、多くは中国系メーカーの日本法人や代理店、販売支援などで、一部でソフトウェア開発を手掛けている企業が見られた程度でした。
現状のヒューマノイドロボットの開発や市場をけん引しているのは中国と米国です。これまで中国はロボットの量産、米国はAI開発でそれぞれ先行してきましたが、最近は双方が互いの領域を強化し競争が激化している中、日本は出遅れています。そうした勢力図が、そのまま展示会にも反映された形となったともいえそうです。
注目を集めた各社のヒューマノイドロボット
ここでは、実機展示されたロボットから、特に注目を集めていたモデルをピックアップして紹介していきましょう。ヒューマノイドロボットの最終ゴールは汎用AIを搭載し、物理的な現場で自律的かつ人と同じように動いて作業が行えるようになること。まだまだ実現は遠いですが、その過程にある現在、さまざまなタイプが存在している点は、興味深いといえます。
「Galbot G1」/Beijing Galbot Co., Ltd.
Galbot G1は、中国のBeijing Galbot Co., Ltd.(以下、Galbot)が開発した大型ヒューマノイドロボットです。車輪型で0~2.4mの広い作業範囲を持つと共に、360度の全方向へ移動できます。幅65cmの狭い通路も通過できるといったことが特徴です。
Galbot社は2023年の設立。“エンボディドマルチモーダルビッグモデル汎用ロボット(大型ヒューマノイドロボット)”に特化した企業です。製造ラインや流通、医療分野を中心に同社開発のロボットは広く使われているとのことで、小売業界向けロボットの開発にも取り組んでいます。
G1も、身長173cm/本体重量は92.5kg、アーム長710mmという大型モデルです。昇降ストロークは650mmで、手首を中心として、操作範囲は水平190cm/垂直方向0~210cm。片腕5kg/両腕10kgの荷物を可搬できます。

本体の頭脳や制御系システムには、米国の半導体メーカーであるNVIDIAの演算ユニット「AGX Orin 64GB(275TOPS)」や独自開発したロボット制御システム「EmbOSAr」、小売業界向けのフィジカル大規模モデル「GroceryVLA」などが採用されています。
バッテリー駆動型で稼働時間は約8時間、充電時間は約3.5時間。基本は有線充電ですが、オプションでワイヤレス充電ステーションや交換用バッテリーにも対応可能だそうです。


今回のヒューマノイドEXPOの目玉の一つに、「ロボットが注文を受けた飲み物を棚から取り出してカウンターに運ぶ」というドリンクサービスがあり、そのデモで働いていたのがG1です。動作中にエラーが発生したり、お客さんへの手渡しは人がサポートしたりと完成度はまだまだですが、精度の高いスムーズな動きが目を引きました。

「Galbot S1」/Beijing Galbot Co., Ltd.
Galbot S1も、Galbot社のモデルです。高負荷に対応するロボットで、操作空間は前述のG1とほぼ同じ0~2.3mですが、最大積載重量は50kgにもおよびます。展示ブースでは、複数のコンテナボックスから1個を取り出して持ち上げ、別の場所に移す作業をデモンストレーションしていました。

「Walker Tienkung」/UBTECH Robotics
Walker Tienkung(ウォーカー・ティエンクン)は、中国UBTECH Robotics Corp Ltd.(以下、UBTECH社)が開発した身長172cmのヒューマノイドロボットです。移動速度は時速7km、稼働時間は直立状態で8時間、連続動作3時間となっています。
日本国内でWalker Tienkungを取り扱うのは先端ロボティクス分野の販売代理・技術サポートや導入支援などを手掛ける株式会社GA Robotics。今回の展示会でも実機を展示したのは同社でした。
GA Roboticsは単なる販売代理店というわけではないそうです。先に言及したように、ヒューマノイドロボットでの日本の役割は販売や導入の支援が中心となっています。ロボットは簡単に実装できる類のものではなく、協働するための関連アプリケーションなどソフトウェア開発が必要です。
この開発で使われるのが「SDK(Software Development Kit)」と呼ばれる協働ロボットソフトウェア開発キットで、ツールとリソースのセットです。開発者やシステムインテグレーターは、SDKを用いてロボット制御やタスクオーケストレーション、センサー統合、他のデバイスやシステムとの連携などを実現していきます。
現状、SDKの多くはロボットを開発した国の言語のまま提供されるのが一般的です。まずは翻訳して内容を理解したうえで、指示書にもとづいて操作していくための環境を構築していかねばならず、これを支援するのがGA Roboticsのような支援企業というわけです。

「RealBOT」/RealMan Intelligent Technology Co., Ltd.
高品質なデータ収集を可能にする総合的なエンボディドAIの汎用開発プラットフォームと位置付けられたRealBOTは、中国のRealMan Intelligent Technology Co., Ltd.が開発。高度な全身運動制御や多次元データ認識、高精度な操作能力が統合されています。
今回の展示会では、同社の日本法人Realman Robotics株式会社(以下、Realman)と、フィジカルAI開発ベンダーであるFastLabel株式会社による共同出展となっていました。このあたりの事情は前述したとおりで、「ロボットを動かすには高いソフトウェア開発能力が必要。ロボットは製造しても、ソフトウェア開発は行っておらず、ビジネスとしては現地のパートナーや代理店、開発ベンダーとの連携が欠かせない」とRealmanの説明担当者。
Realmanとパートナー関係にあるFastLabel社の担当者は、「当社のプロジェクトでもRealBotを導入しているが、まだ研究開発の段階。ロボットを通じて収集したデータをもとに開発したAIをロボットの動きに反映させては修正するという作業を繰り返しながら、動作精度の向上に取り組んでいる」と話していました。

「Booster K1」「Booster T1」/Booster Robotics Technology Co., Ltd.
教育・エンターテインメント用途を中心に小型軽量ロボットの開発・製造に取り組む中国のBooster Robotics Technology Co., Ltd.(以下、Booster社)は単独出展で、「Booster K1」と開発者向けの「Booster T1」を実機展示していました。
同社は部品点数を抑えたシンプルな構造による小型化に注力しており、いわゆるキッズサイズヒューマノイドと呼ばれる領域で展開しています。
実際、K1のサイズ感は95cm×40cm×18cmで重量約19.5kgと、ロボットとしては小型軽量です。説明担当者によると、「シンプル構造でソフトウェア部分もオープンにしているので、サードパーティーがカスタマイズして量産することも可能」とのことでした。ビジネスの市場性を考えてのことでしょうが、同分野では珍しいスタンスといえます。


Booster K1については、日本のトロン株式会社が自社ブースでサッカーボールを蹴るデモンストレーションを実施していました。K1に搭載されたカメラはボールを確実に捉えていたようですが、ブースエリアから飛び出したボールをどこまでも追いかけてしまうなど、動作制御に関してはまだまだという印象でした。

「ugo Pro & Forcesteed-LEIVOR」/リョーサン菱洋
ugo Proは、ugo株式会社が手掛ける日本発の業務DXロボットです。ロボットアーム型の高機能ロボットで、自律動作やボタン操作、カードタッチなどに対応。高さ180cm/重量約54kg、2本のアームは7軸構成となっています。巡回警備や設備点検など幅広い業務に活用できるとのことです。
展示会では、半導体・IT関連商社のリョーサン菱洋が、株式会社Forcesteed Roboticsの汎用ヒューマノイドコントローラー「Forcesteed-LEIVOR」と組み合わせて、人間の動作をロボットに模倣学習させる体験型デモンストレーションを実施。来場者は、人の動作を模してロボットが同じように動く姿を興味深く眺めていました。

Forcesteed-LEIVORは、産業用ロボット分野で広く用いられてきたティーチングによる動作設計にAIロボティクス技術(模倣学習+推論処理)を統合したフレームワークです。
その利用により、ロボットの学習や動作生成、実行制御などを一体的に扱えるようになり、従来のロボットシステムインテグレーターが持つ開発ノウハウをいかしながら、ヒューマノイドロボットの導入・運用を推進できるそうです。
ヒューマノイドロボットの開発・導入が進まない理由の一つとして、ソフトウェア開発スタイルの変化が挙げられます。従来の産業用ロボット開発では、ロボットの動作をプログラミング設計により人が教えるティーチングによる手法が一般的でした。
しかし、AIロボティクスでは模倣学習や推論によってロボットの行動を生成する手法が主流であり、従来の開発ノウハウをヒューマノイドロボットの開発にそのまま適用することは難しい状況です。
そこでForcesteed社では、現場がヒューマノイドロボットのPoC(概念実証)を進めやすいように、従来の開発手法とAIロボティクスの模倣学習・推論による手法の両者をスムーズに扱えるソフトウェアとしてForcesteed-LEIVORを開発。特定のロボットに限定されない、共通の開発基盤として活用されることを目指したわけです。
その他、展示会場をにぎわせたロボット
展示会場には、上記以外にもさまざまなヒューマノイドロボットの実機が並び、来場者からの注目を集めていました。



会場取材で見えた現在地と未来
取材当日、会場では多くの担当者から話を聞くことができました。そこから見えてきたことは、「社会実装への課題」と「ヒューマノイドロボット分野での日本の立ち位置」というトピックです。
まず、社会実装への課題については大きくハードウェアとソフトウェアに分けて考えられています。ヒューマノイドロボットを製造するというハードウェア面においては、かなりの性能向上が見てとれました。自由度はDoF(Degrees of Freedom)という指標で示されますが、ロボティクスでは物理的な動作の自由度として関節などの動作軸で表されることが多くなっています。
会場に実機展示されたロボットのDoFのスペックはそれなりに高く、物理的な動作の自由度は人に近づきつつあるといえます。もちろん、ハードウェアにも課題はあります。高出力モーターの発熱によるオーバーヒートは大きなボトルネックとなっており、冷却技術や素材の改良が求められているなど、耐久性と熱対策などは、その一つでしょう。
とはいえ、ハードウェア面はほぼ実用段階に入りつつあるといえます。しかし、大きな課題は動作を制御するソフトウェア開発です。ビジネスや社会の現場でヒューマノイドロボットが作業するには、人と同じように動くことが必要となります。必要な動作を正確に実行させるにはフィジカルAI(人工知能により実体のある機器を自律的に制御する技術)の性能アップは不可欠です。
自律的な動作制御をフィジカルAIが担うことで、ソフトウェア開発は従来のプログラム形式からAIやVLA(視覚・言語・行動)モデルを用いた学習ベースの手法への転換点にあります。複雑な環境での臨機応変な即時判断や人の手のような精密な動きの再現には膨大な実機動作データの収集が必要ですが、学習データは圧倒的に不足している状況とのことです。
会場レポートのところで、静止状態での転倒リスクを避けるために二足歩行型ヒューマノイドロボットはリフトによるつり下げ、あるいは座位展示がほとんどと紹介しました。ヒトであれば可能な、不安定な場所では足のスタンスを広げる、倒れそうになればとっさに足を出すといった動作を、今のヒト型ロボットは十分に行うことができません。
将来的には、介護分野などでの活躍が期待されているヒューマノイドロボットですが、今は人によるアシストが必要。あるメーカー関係者は、こうした現状を「人がロボットを介護している状況」と例えていました。

独自ポジションを模索する日本企業
一方、今回の展示会ではヒューマノイドロボット市場における勢力図を実感しました。冒頭でも言及したとおり、この市場をけん引しているのは中国と米国です。ハードウェア開発で先行する中国に対して、頭脳となるAI開発に強みを持つ米国という図式でしたが、米国はロボット本体の開発も強化しており、競争が激しくなると見込まれます。
とはいえ、ヒューマノイドロボットの開発で、かつて日本は先行していました。世界初の本格的なヒト型知能ロボットは1973年に早稲田大学により開発された「WABOT-1」といわれています。
さらに、現在のヒューマノイド型の原型となったのは、2000年に登場したHONDAの「ASIMO」であり、滑らかな自律歩行は非常に印象的でした。なぜ日本は中国や米国の後塵を拝することとなったのでしょうか。
そもそもヒューマノイドロボットの開発が活発になってきた背景には、性能の高いセンサーやモーター、AIの進化などヒューマノイドロボットに必要な技術要素が出そろい、大企業だけでなく中小企業やスタートアップ企業でも試作開発のハードルが下がったことが挙げられます。
こうしたエポックメイキングな変化に、うまくキャッチアップしたのが中国です。中国メーカーと日本の販売代理店の関係者は、「国家政策による政府主導の垂直統合型サプライチェーンを構築し、研究開発からネジ1本からモーターまですべての部品を供給、量産も見据えたエコシステムを整えていることが中国の強みである」と語っていました。
米国にしても、強みのAI開発をいかしながら世界的なAI企業やスタートアップ企業がロボット本体を開発して現場実装を進めています。
そうした中、日本企業のヒューマノイドロボット開発はハードウェアとソフトウェアの両分野で遅れを取っている現状ですが、中国製ロボットを活用した二次開発や、製造業の分野で蓄積された豊富なデータをいかしたフィジカルAIの開発、データ収集用ソフトウェアの提供といった領域で独自のポジションを模索しています。
社会実装に向けては、ロボットが現場で稼働するための安全基準やルールの策定などの環境整備も急務ですが、多くの関係者は、数年以内に一部の現場で実用化すると予測していました。確かに、自律動作にこだわらず、遠隔操作による活用も視野に入れれば、早期の活用も期待できるでしょう。
いずれにしても、ヒューマノイドロボットは、単なる“ヒトに似た動く機械”から、AIと身体性が融合した“ヒトにとっての真のパートナー”へと進化を続けている――この事実を今回の展示会から感じ取ることができました。
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