2025年3月4日から7日にかけて、流通・小売業界向けITソリューションの展示会「リテールテックJAPAN(第41回流通情報システム総合展/主催:日本経済新聞社)が東京ビッグサイトで開催されました
リテールテックJAPANは、これからの日本の街づくり、店づくりを支えるさまざまな製品・サービスやソリューションが一堂に会する「日経メッセ 街づくり・店づくり総合展」を構成する8つの展示会のうちの一つです。
深刻な現場の労働力不足、採用のための人件費の増加、物流や配送面における燃料費の高騰、消費者ニーズの多様化、デジタル技術を活用した買い物スタイルの変化への対応など、業界が抱える多くの課題を解決するべく270以上の企業や団体が出展。
各ブースには、省力化・省人化や作業効率の向上だけでなく、業務変革や新たな事業モデルの構築といったデジタル・トランスフォーメーション(DX)の実現に向けた機器やシステム、関連サービスなどが並びました。
データや生成AIを活用したソリューションやデモも多くみられ、近未来的な店舗や流通のあり方が一段と身近に感じられるなど、会場は大勢の来場者で賑わいました。以下、注目度の高かった展示にフォーカスして紹介します。
データと生成AIのフル活用で新たな購買体験を実現
さまざまなソリューションが紹介されている中で、目を引いたのはデータと生成AIの利活用に関するもの。展示会のメインテーマとして、来場者からも注目を集めました。
特に、ビッグテック(*1)のアマゾンからは、8年ぶりにアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)ジャパン合同会社が出展しました。
(*1)ワールドワイドで支配的な影響力を持つ巨大IT企業
同社のテーマは、「The Future of Retail ― クラウドと生成AIが実現する新たな顧客体験」です。来店前から購入後のカスタマーサービスまで、デジタルとリアルの両面から顧客の購買体験を向上するサービスやソリューションを各パートナー企業と共に多数展示するなど、一連のカスタマージャーニーのプロセスを疑似的に体験できるようになっていました。生成AIをあらゆる展示で取り込んだのが大きな特徴といえるでしょう。
同ブースで展開された多様なソリューションの中でも、Amazon.comが開発した「Amazon Beyond」が目を引きました。Amazon Beyondは、仮想店舗を容易に構築できる没入型の3Dショッピングサービス技術で、自宅に居ながら実店舗でのショッピングを楽しむような、デジタルツイン(*2)の没入型仮想ショールームを体験できるようにしたものです。
(*2)現実世界で収集したデータを元にサイバー空間上でリアル空間を再現する技術
Amazon.comでは、2024年11月から12月にかけて8週間ほど、同ツールを用いた仮想ショッピングモールを実験的に公開したところ、1万2000時間を超えるアクセス数があったなどの高い効果がみられたとしています。
また、近未来的なショッピングシーンとして、生成AIを使って仮想的にさまざまな商品を試せる「AWS Virtual Try-All(仮想試着)」や、生成AIによるインテリアコーディネートの「AWS Room Makeover(部屋の模様替え)」などのデモを実施しました。
これらの他にも、カスタマー・エクスペリエンス(CX)の向上、生成AIを活用した商品開発、物流支援サービスなど多くの先進的なソリューションを紹介していました。
『「データ」と「AI」を活用した顧客・生活者体験の向上』を大きな出展コンセプトに掲げていたのが、富士通グループです。消費行動とサプライチェーンのデータを用いてAIによる解析を行うことで、顧客ごとにパーソナライズされた購買体験と、取引先などとの取引・物流データをリアルタイムで共有・最適化するシームレスなサプライチェーンとを具現化するソリューションを多数展示しました。
各ソリューションは、3つのゾーンから構成されていました。「Customer Experience(マーケティングの高度化)」のゾーンでは、グループ会社で小売業界向けソフトウェアを手掛け、欧州を中心に多くの実績があるドイツのGK Softwareのシステム活用を提案。
例えば、過去の販売実績から戦略に基づいた最適な価格をAIで算出する同社の「GK AIR Dynamic Pricing」を用いることで、小売店の利益率の最大化を実現するソリューションを紹介しています。
また、「GK AIR Personalization」は、POSなどの購買データに基づいて顧客の消費行動をAIが分析し、個人の嗜好に合わせて最適な商品をAIが推奨することにより、購買意欲を向上させることが可能です。
ブースではそのプロセスを体験できるデモを実施。データとAIによるパーソナライズマーケティングを実現すると共に、販売側も販促用コンテンツ作成作業の省力化、外注費の削減が図れるとしました。
NECグループのブースでは、「業務変革」と「顧客体験変革」の2つのゾーンで製品・サービスが紹介された他、同社の強みである顔認証の体験コーナーも設けられていました。
顧客体験変革のゾーンでは、自販機向けのQRマーケティングやサブスクリプション型POSシステム、イマーシブな(没入感のある)購買体験の提案、リアルとデジタルを融合したシームレスな購買体験を可能にするEC・統合顧客管理ソリューション「NeoSarf/DM」、顔認証決済サービスなどを紹介しました。
イマーシブな購買体験に関しては、東日本旅客鉄道(JR)や長野県と共同で実証実験を行っており、「例えば、駅構内における自治体のイベントなどで、家族連れで気軽に立ち寄って楽しめる体験の場として活用可能ではないか」(説明員)とのことです。
データ重視の取り組みが加速
生成AIと共に注目されたデータ活用では、ソフトバンク株式会社が「データ利活用の総合支援」を出展テーマに掲げ、出店候補地の売り上げ予測を可能とするGIS(地理情報システム)ソリューション「出店ポテンシャルマップ(仮称)」を4社共同で紹介しました。
同ソリューションは、2025年2月に発表した企業の出店戦略の支援における協業に基づき展開されているもの。出店戦略(店舗開発)のコンサルティングを行う株式会社ディー・アイ・コンサルタンツの売り上げ予測モデル、株式会社AgoopのGPSを活用した高精細な人流データ、直感的な操作が可能な株式会社ゴーガのUI(GISツール)を組み合わせて実現されています。
店舗開発に必要なデータを連携・統合、可視化するなどして出店候補地の売り上げ予測を行う他、出店余地分析により現地調査を行わずに出店候補地を抽出可能となっています。
ソフトバンクは同ソリューションをワンストップで販売しており、小売・飲食業界向けを中心に採用拡大を目指すとのことです。
また、TOPPANグループは、店舗運営を効率化し、新たな顧客接点を創出する“攻めのDX”を打ち出していました。
このコンセプトのもと、販促・商品情報を一元管理する商品情報管理・販促支援システム「PROMO CORE」や、同システムと電子棚札やチラシとのデジタル連携サービス、様々な電子棚札ソリューション、Webページ形式のデジタルチラシ「未来のチラシ」、クーポンのデジタル認証サービス「マルチスタンプ・クーポン」など、多様な取り組みやソリューションを出展しました。
さらに、グループ傘下の株式会社ONE COMPATHが、独自の電子チラシサービス「Shufoo!」をベースに、日本全国のチラシと効果をAIが分析し、販促企画を支援する独自の次世代販促支援AIツールを紹介しました。月20万枚のチラシデータと、全国1100万人の顧客データを活用することで、来店分析で響いた要因を分析するなど、従来の経験則に頼る販促からデータ重視の販促活動への転換を目指すもので、2025年夏からのリリースを予定しています。
この他、店舗運営のDXを実現するためのインフラの提供に注力しているスタートアップ企業の株式会社カンリー(2018年設立)も、興味深いソリューションを展示していました。
注目したのは、店舗や事業などの情報をGoogleマップ、Google検索などに表示・管理するためのGoogleビジネスプロフィールのほか、ホームページ、SNSの店舗アカウントを一括で管理・運用・分析できるSaaSサービスです。
昨今はGoogle検索などを通じて利用者が来店するケースがかなり増えており、各店舗のアカウント管理の重要性が非常に高まっているものの、店舗側としては、複数の店舗情報の更新やSNSの投稿が手間であるほか、来客関連のデータ分析が煩雑になりやすい、ネガティブな口コミへの対応に追われかねないなどの課題があります。
そうした中、特に複数の店舗情報や口コミを一括管理・分析する「カンリー店舗集客」は、こうした課題解決が図れる簡単・便利なツールとして評価され、スーパーやドラッグストアをはじめ、国内外で8万を超える店舗に導入が進んでいるとのこと。これを含め、同社の各種サービス事業は好調で、業績も急拡大中としています。
高機能なセルフレジで省人化・省力化を推進
展示会のもう一つのテーマは、やはり省人化・省力化という印象を受けました。この社会的な課題は、スーパーマーケットをはじめ、小売店などの現場においても例外ではありません。これを解決するためのソリューション、特にレジ関連の展示が目立ちました。
例えば、イオン株式会社とユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社(U.S.M.Holdings)のブースでは、顧客の声を反映させた自社開発の小売業向けフルセルフPOSを展示しました。
U.S.M.Holdingsは首都圏で展開しているマルエツやいなげやなど4社のスーパーマーケットの共同持ち株会社です。独自のデジタルブランドであり拡張性の高いプラットフォーム「ignica」をベースに、自社開発のスマホ決済サービス「Scan&Go」やオンラインデリバリーなど様々な機能やサービスを紹介していました。
実機展示したフルセルフPOSシステムは、従量制による保守コストの大幅な削減や、既存POSとの店内混在が可能なことなどが特徴。「導入コストを抑えることができるので、小型店舗から順次導入してもらい、実績を拡大させていきたい」(ブースの説明員)としています。
さまざまなクラウドサービスを提供している株式会社スマレジは、iPadやiPhoneをレジに使用し簡単な操作で低コストなレジを実現する高機能なクラウドPOS「スマレジ」を展示していました。
スマレジでは、レジ端末で会計を行った後、取引情報はすぐにクラウドに保存され、リアルタイムで売り上げや取引を把握することが可能であり、複数の店舗でも商品や顧客情報をシームレスに一元管理できます。注文から精算までのセルフレジやマルチ決済サービス、セルフオーダーによる券売機や食券機、飲食店向けの高機能オーダーシステムなど、多彩な機能も用意しています。
セルフ店舗運営の支援に向け、コンパクトなサイズで操作性を追求したセルフつり銭機「S1000」シリーズを出展したのは、グローリー株式会社です。
S1000シリーズは、ユーザビリティが特徴的なツールです。ブース担当者が「当社のつり銭機の特徴はエラーが少ないこと。加えて、エラー解除の分かりやすさが好評だ」と説明していました。
具体的には、エラーが発生した時にはエラー解除の手順をアニメーションで分かりやすく表示するガイダンス機能などを搭載。店員がスムーズにエラー解除作業ができるようになっており、多数の来場者がデモの様子を熱心に見学していました。
電子はかりやPOS・仕分けシステムなどを手掛ける株式会社寺岡精工も、セルフオペレーションを実現する券売機やマルチセルフレジ、モバイル連携型の持ち帰りロッカーなどの高効率な非接触型ソリューションを紹介しました。
また、中国のロボットメーカーと組んで、スーパーマーケット向けを中心に展開している配膳・配送ロボットや床の清掃ロボットも実機展示しました。「人手不足への対応はもとより、特に重い品物を運んだり陳列したりする場合にも、作業者の負荷軽減、作業の効率化が図れる」(説明員)として、さらなるニーズの拡大に期待を寄せていました。
セルフレジが省人化・省力化の解決で大きな役割を担うことは間違いありませんが、新たな課題も生じます。セルフレジでの会計や操作の不正処理に伴うロスをどう削減するかという問題です。原因の多くは意図的ではない、顧客の操作ミスやスキャン漏れといったケースがほとんどといわれており、早期の対策が求められています。
これに関しては、前出の富士通グループが参考出展という形で、潜在的な不正を検知し売り上げ損失を削減するアプローチを紹介しました。カメラを設置してAI映像解析技術を用いて映像とPOS登録データを比較し、検知した商品点数の不一致を検出したり、映像と異なる商品をスキャンした場合の商品の不一致を検出したりする方法です。
現在、大手量販店で実証実験を行っており、店員による監視工数を削減できることに加えて、スキャン漏れや不正の防止につながるものと期待できるといいます。
デジタルサイネージや電子棚札などの展示も盛況
生成AIやデータ利活用、省人化・省力化といったキーワード以外ではデジタルサイネージや電子棚札などが目に留まりました。
ソニー株式会社は、店舗やショーウインドウ、ショールームなどに向け、拡張性が高く高画質なLEDディスプレイ「Crystal LED」や、リアルな3D空間映像を実現できる法人向け4K広色域空間再現ディスプレイ、デジタルサイネージソリューションなどを展示しました。
また、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社のエッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS(アイトリオス)」を活用し、ソニーマーケティング株式会社がSaaS型クラウドサービスとして提供する、店舗データ解析ソリューション(「AI解析ソリューションwith AITRIOS」)も紹介されていました。
AITRIOSは、独自のインテリジェントビジョンセンサ(AI処理回路を組み込んだ半導体イメージセンサ)を用いた開発プラットフォーム。このAITRIOSに対応したエッジデバイス(AIカメラ)を店舗に設置し、得られたデータを基に売れ筋商品や来店者数や属性などをAIが予測し、効果的な販促に結びつけるものです。
電子棚札の活用では、計量・包装機器関連メーカーの株式会社イシダが、2008年にいち早く電子ペーパーディスプレイ技術を採用した電子棚札を発売しており、今回の展示会でも、動画配信が可能な液晶型デジタルサイネージ、4色表示とLEDライトによる視認性の高い電子棚札を活用したDXソリューションなどを展示しました。
外部リンク
「リテールテックJAPAN」公式サイト

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