デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.11.22 11:00

連載◎Copilot in Windowsから始める“生成AI”入門/第7回
生成AIを使おうとして挫折してしまった人は何が悪かったのか?

 これまで本連載では、Copilot in Windows(*1/以下、Copilotアプリ)を例に、長い文章の要約や新規事業の企画といった作業を、生成AIを使って実現するプロセスを紹介してきました。 (*1)大型アップデートにより従来のCopilot in Windowsは、「Copilotアプリ」へと移行した。その詳細は連載第6回(内部リンク:https://chusho-dx.bcnretail.com/dx_learn/detail/20241114_178439.html)を参照

 第7回では、これまでの復習を兼ねて、過去に生成AIを使おうとして挫折してしまった人は「何が悪かったのか」について解説します。この点を、しっかりと理解することにより、生成AIを使いこなすための考え方が身に付くはずです。

 今回の内容は、Copilotアプリに限らず、あらゆる生成AIに共通するものとなっています。それでは、「使う前の心構え」と「使い方の技術」の2つポイントから、生成AIとの賢い付き合い方を見ていきましょう。

※)本連載における検証環境のOSは、2024年9月時点での最新バージョンであるWindows 11 23H2を使用。連載中にアップデートがあった場合、適宜最新のバージョンに更新しています。本稿の執筆は、編集部では2024年10月に確認された大型アップデート後の環境で行っています。

生成AIの正体や特性を理解して適切な指示を出す

 生成AIを使用して挫折してしまうケースの多くは、ユーザーが生成AIの正体や特性を理解していないことが要因です。生成AIは人間ではなく機械のようなものですから、それに向けて最適化された指示を出さなければ、理想の成果物を得ることはできません。

 連載の初回で解説したように、生成AIの正体は「巨大なパターン認識・出力装置」です。彼らは深層学習(*2)による巨大な知識、回答のパターンこそ持っていますが、人間のような人格や意思、感情などを持ちません。 (*2)Deep-Learningとも。データの背景にあるルールやパターンを学習するために、人間の神経細胞の仕組みを再現したニューラルネットワークを用いて多層的に考える機械学習の手法

 生成AIを使ううえでユーザーが特に認識しなければならない特性が、「生成AIは自身に与えられた指示の“文脈”を知らない」ことです。ここでいう文脈とは、ユーザーの思惑や属性、置かれた状況といった指示の背景にある情報のことを指します。以下に例を出して説明しましょう。

 ある玩具メーカーの会社員が、新たな商品企画を考え、それを会社の上層部に提案するための資料を作るよう、上司から命じられたとします。なお、この会社員はすでに同社で3年以上働いており、上司とも勤続年数と同等期間の付き合いがあるものとします。

 資料を作成するにあたって、部下は「いま鉄道がブームだから、鉄道関係の玩具が売れやすいだろう」、「会社の上層部は原価率や損益分岐点といった数字を特に気にするから、そこを入念に作ろう」、あるいは「上司は、ちょっと派手な商品デザインが好きだろう」といった思考を巡らします。こういった思考ができるのは、自身の会社員としての経験に裏打ちされた文脈があるからです。

 一方、生成AIには、この会社への勤務歴もなければ、上司や会社の上層部がどのような人かといった知識もありません。また、世間のニュースについて学習していますが、最新の情報を常に学んでいるわけではないので、現時点での市場の動向についても無知である可能性があります。つまり、こうした情報をもとにした思考は、生成AIには不可能です。

 このため、「玩具の新規企画を考えて、会社に提案するための資料を作ってください」とだけ生成AIに指示しても、妙案が出てくる可能性は限りなく低いといえます。具体的な情報が少ないまま玩具の商品企画を考えさせても、生成AIは「膨大なおもちゃのパターンは知っているけれど、ユーザーがどのようなものをほしがっているか分からない」という、一種の混乱状態になってしまうのです。

具体的な情報のないシンプルなプロンプトで、玩具の新規商品企画を考えるよう、Copilotアプリに指示した結果。6つの案を提示してくれたが、どれも具体性がなく、企画として使えるレベルにはなっていない

 この場合、玩具のジャンルや対象年齢、価格帯など、的を絞るための情報がある程度必要になるでしょう。さらに、上司や会社上層部の特性や市場の現況、あるいは自身の会社がどのような状況で何を強みにしているのかといった情報も伝えるとよいかもしれません。

 高いレベルの回答を作ってもらいたいのなら、自身の持ち得る情報を、可能な限り多く生成AIに与える必要があります。

 生成AIは「人間離れした膨大な知識は持っているけれど、会社や業界のことはまったく知らない新入社員」に例えられることもあります。このような新入社員に実力を発揮させるには、丁寧な教育や指示が必要であり、生成AIにも同じようなことがいえます。

生成AIに高望みをしてはいけない

 生成AI初心者の中には、高いクオリティの回答を簡単に得られる、すぐにビジネスにいかせるといったイメージをお持ちの方もいます。世間では、生成AIは「すごい」と持ち上げられがちなので、こうしたイメージを持たれるのも当然かと思います。

 しかし、前述したようなこと細かな情報を与えたとしても、ユーザーが求めるような回答を一発で得られるケースは決して多くありません。

 本連載の第4~5回で紹介した、生成AIの思考を可視化するプロンプト(指示)では、「次に進んでください」の指示を待ってから、次の項目の回答へ進むように指定していました。この意図は、生成AIがユーザーの望むような回答を一発で出してこないことを前提にして、不十分あるいは間違った回答が出てきた時に軌道修正する余地を残すためです。

第4~5回で掲載した、生成AIの思考を可視化するプロンプト。指示を5つの段階に分け、一つひとつ回答するように指定している。また、次の項目に進む前に、「次に進んでください」の指示を待つよう書いた。

 「望んだ成果物をすぐに得られないのか」と思うと、残念な気持ちにもなるでしょう。ですが、生成AIを使ううえでは、それが当たり前のことなのです。生成AIに対する最初の指示では、60点程度の回答を得られれば十分。対話を繰り返しながら、それを100点に近づけていくという意識を持ちましょう。

 また、ビジネスにいかせるレベルまで生成AIの使い方を洗練するには、ある程度の慣れが必要です。筆者は原稿の推敲にChatGPTを活用していますが、有効なプロンプトを練るには時間がかかりました。

 今では、ChatGPTをカスタマイズできる有料版のサービスを使い、文章推敲用の生成AIを作るまでに至りましたが、これができたのは過去の試行錯誤のおかげです。少なくとも、生成AIに触りたての頃では、こういったものは作れませんでしたし、プロンプトの精度も不十分でした。

 生成AIにまず触ってみることは重要ですが、すぐに効果的な活用をするのは困難です。さまざまなプロンプトを試したり、他の活用事例を参考にしたりしながら、経験値を積んでいきましょう。この連載ではCopilotアプリを取り上げていますが、経験値を蓄積していくうえでは、他の生成AIツールに触れてみるこのもおすすめです。

生成AIへの指示は意外に面倒だが、使いこなせれば面白い

 ここまで書いてきたように、生成AIを使いこなすには、ユーザー側に一定のリテラシーが求められることに加えて、練り上げられたプロンプトを与えなければなりません。長文のプロンプトを書くのは大変なので、それを面倒に感じてしまう方も少なくないかと思います。

 しかし、生成AIを使っていくうちに、生成AIの性格がなんとなく分かるようになってきます。プロンプトの細かな違いによって生成AIの回答が変化する様子を見ていると、どのような指示を与えれば理想の成果物を得られるのか、感覚的に理解できるのです。そのレベルに達したなら、生成AIとの対話に楽しみを見い出せるでしょう。

 高望みすることなく、ポテンシャル十分な新入社員を地道に教育するような気持ちで、生成AIと付き合ってみてはいかがでしょうか。

ここがポイント!
●生成AIは人間ではなく機械のようなものなので、それに合わせてプロンプトを最適化する必要がある。
●高いレベルの回答を得るには、指示の背景にある文脈を生成AIに詳しく伝えることが必要。
●生成AIに対して、「簡単に理想的な回答を得られる」「すぐにビジネスにいかせる」といった高望みは禁物だ。
●一定のリテラシーや経験が、生成AIを使いこなすためには求められる。
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