これまで本連載では、Copilot in Windowsを例に、生成AIの効果的な使い方について解説してきました。文章の要約や新規企画の立案の流れを見ていくなかで、現時点における生成AIの実力や、ビジネスへの活用の可能性を感じていただけたかと思います。
今回は趣向を変え、2024年10月以降に行われたCopilot in Windowsの大型アップデートについて解説します。というのも、これまで「プレビュー版」として公開されてきたCopilot in Windowsでしたが、今回のアップデートでついにアプリとしてリリースされたからです。
Copilot in Windowsは、アップデートによって何がどう変わったのか? 当編集部で実際に検証してみた結果をお伝えしていきましょう。
※)本連載における検証環境のOSは、2024年9月時点での最新バージョンであるWindows 11 23H2を使用。連載中にアップデートがあった場合、適宜最新のバージョンに更新しており、今回の大型アップデートにも対応しました。
最大のアップデートはCopilot in Windowsの“アプリ”化
Copilot in Windowsの大型アップデートは、2024年5月に発表されていたもので、その後段階的に実施されているようです(※1)。その目玉は、Copilot in Windowsのアプリ化にあります。
(※1)Microsoftは、「EEAやCopilotが利用可能なその他の市場に出荷される新しいWindows 11搭載PCと新しいCopilot PCでは、Copilotアプリが Windowsタスクバーにピン留めされます。既存のWindows 11搭載PC の場合、入手可能になる時期と配信方法は異なります」と発表しています。当編集部の環境でアップデートを確認できた時期は10月中旬以降がでしたが、個々のデバイスによって時期にズレが生じている可能性があります。
従来のCopilot in Windowsでは、起動をタスクバーの右端にあるボタンから行い、ポップアップウインドウではなくサイドバーとして表示される形態でした。「プレビュー版」との表記もあったため、まだ開発の途上であったことが見てとれました。
それが今回のアップデートにより、Copilot in Windowsの起動ボタンはタスクバーにピン留めされ、他のアプリと並んで表示されるようになりました。つまり、ブラウザなどの一般的なアプリケーションと同列になったわけです。「プレビュー版」の表記もなくなったことから、正式リリースといってよいでしょう。
これまで本連載では、このWindows OSに組み込まれた生成AIをCopilot in Windowsと呼称してきました。しかし、今回のアプリ化に伴いこの呼び方は公式的に使われなくなったようです。実際、本稿執筆時点(11月上旬)、公式ページ「WindowsのCopilotへようこそ」においてCopilot in Windowsという表記は一切登場しません。
公式ページでは、この生成AIを単にCopilotと呼んでいます。Windows 11というOSに紐づく存在であったCopilot in Windowsは、アプリ化されたことによってOSの縛りから脱したといえそうです。そこで、これにならい本連載でもアップデートされたCopilot in Windowsを「Copilot」、または「Copilotアプリ」と記載を統一することにします(※2)。 (※2)なお、本連載のタイトルでは従来通りCopilot in Windowsの名称を便宜的に残します。
ユーザーインターフェイスの操作感は従来通り
アプリ化されたCopilotの起動方法は、タスクバーに配置されたボタンを押すだけです。ある意味、ボタンの位置が変わっただけともいえます。なお、Copilotアプリは、他のアプリと同じくスタートメニューから開くこともできます。
また、Copilotアプリを使わないのであれば、タスクバーのピン留めを解除(ボタンを消去)できる他、アンインストールも可能です。従来のCopilot in Windowsでは、個人用設定画面からタスクバー右端の起動ボタンを消去することはできましたが、アンインストールまではできませんでした。
なお、一度アンインストールしても、Microsoft Storeから再度ダウンロードしてインストールすることができます。
以下の画像は、新たなCopilotアプリの起動画面です。サイドバースタイルではなく、ウインドウ形式で展開されています。加えて、従来のCopilot in Windowsにあった「より厳密に」「よりバランスよく」「より創造的に」という会話のスタイルを選ぶボタンがなくなっています。このような機能は他の主要な生成AIには備わっておらず、Copilot in Windowsの大きな特徴となっていました。それが、なくなった形となります。
とはいえ、会話のスタイルを指定できないことが不便かというと、そういうわけではありません。そもそも会話のスタイルというボタンの使い分けによる生成AIの回答の違いは、気にするほど大きいといえるものではありませんでした。
具体的には、「より創造的に」を使うと文頭に「こんにちは!」などの挨拶を多用してくる、あるいは「より厳密に」を選ぶと回答が簡潔になりやすいといった感じです。文頭の挨拶はなくても問題ありませんし、回答を短めにしてほしければ、プロンプト(指示)で文字数を指定すればよいので、さほど大きな影響はないといってよいでしょう。
目に見える形では、会話のスタイルのボタン削除が大きな変化ですが、全体の操作感はあまり変わっていません。Copilot in Windowsを使っていたユーザーが、新たなCopilotアプリを操作するうえで戸惑うことはほぼないといってよいでしょう。
OSとの紐付けがなくなったことで失われた機能
では、アプリ化によって何が大きく変わったのか、それは機能面です。今回の検証では、Copilot in Windowsがアプリ化される過程で複数の機能が失われていることを確認しました。ここからは、それを紹介していきます。
先に、Copilot in Windowsのアプリ化によってOSとの紐付けが解消されたと述べましたが、検証ではこれに起因するであろう変化を確認しました。Copilotを通してのOS操作ができなくなっているようなのです。
従来のCopilot in Windowsでは、生成AIに対して「ダークモードにしてください」と指示すれば設定画面を開くことができました。あるいは、「メモアプリを起動してください」と伝えれば、その通りにしてくれました。しかし、新しくなったCopilotアプリでは、こういった指示への返答に変化が見られます。
例えば、「Windowsをダークモードにしたいです」とCopilotアプリ上で入力すると、ダークモードにするための設定手順こそ教えてくれるものの、設定画面を開いてくれません。
さらに、当編集部での検証では、生成AIから誤った設定手順が提案されました。正しくは、「設定→個人用設定→色」と進むのですが、Copilotは「設定→システム→色」という順序を提示してきました。ダークモードの設定手順はWindows 10でも同様でしたので、今回の誤りはCopilotが持っている情報が古いゆえに起きたことではない事実を示しています。
ブラウジングに大幅な制限がかかった
アプリ化によって変化した機能は、OS操作のアシストだけではありませんでした。Copilot in Windowsの長所であった、生成AIによるブラウジング(インターネット検索)に大幅な制限がかかってしまったようなのです。
従来のCopilot in Windowsはブラウジングに対応していたので、サイトのURLを与えて「この記事を要約してください」と指示すれば、それを作成してくれました。本連載でもその様子を紹介しましたが、Copilotアプリではそれができないのです(テキストをコピー&ペーストしてCopilotに読ませ、その要約を作ってもらうことは可能)。
しかし、「ブラウジングがまったくできなくなった」というわけでもなさそうなのです。Copilotアプリに「あなたはブラウジングができますか?」と直接聞いてみると、下記のように回答が得られました。
「私はWeb検索機能を使って、インターネット上の情報を調べることができます。ただし、特定のWebページをブラウズして内容をそのままお伝えすることはできません。何か具体的な情報や質問があればぜひ教えてください。その情報を調べてお答えします」と。これを正しいとするなら、ブラウジングが完全にできなくなったわけではないのでしょう。
また、本連載の第4~5回目では、「中小企業×DX」サイトのURLをCopilot in Windowsに与え、新規連載企画を考えてもらう様子を紹介しました。Copilotアプリもこの指示には応じてくれます。
同じく連載の第4~5回で紹介した、思考のプロセスを可視化する手法についても、アプリ化されたCopilotで使用できることを確認しています。現時点で明確な条件は不明ですが、ブラウジングできる範囲に大きな制限がかかっている可能性があります。
ブラウジング機能の変化について、もうひとつ検証を行いました。それは、言葉の意味をCopilotアプリに聞いてみるというものです。以下の画像をご覧ください。
ブラウジング機能に大幅な制限がかかったのは間違いないでしょう。ブラウジングが働くにしても、どのようなプロンプトを送った際にブラウジングが行われるのか、今回の検証では分かりませんでした。
これらの他にも、一度に生成できる画像の枚数が減っていることも確認しました。Copilot in Windowsでの画像生成時には一度に4枚の画像を作成することができましたが、Copilotアプリでは1枚ずつになってしまいました。「4枚描いてください」と、具体的な数を提示しても、1枚しか生成してくれません。
アプリ化後はCopilotの返答が速くなった印象
上記以外にも、ネガティブな印象を抱く変更点がいくつか見受けられ、当編集部で検証した時点では全体的に不便になってしまった印象が強いです。アプリ化により新機能が追加されたというわけでもないので、ブラウジングの大幅制限などの退化が目立ちました。
進化した点があるとすれば、回答速度が向上したように感じられることくらいです。アップデートにより当編集部の環境ではアプリ化前のCopilot in Windowsが使えないため速度を比較できませんが、体感ではアプリになって速度が上がった印象です。
CopilotのAIエンジンには、ChatGPTが用いられています。Copilotでは仕様が公開されていないため推測ですが、AIエンジンのバージョンが新しくなったのかもしれません。ただ、回答の精度には大きな変化を感じられなかったことから、断言はできませんが。
いずれにしても、Copilotではアップデートが頻繁かつ段階的に行われています。当編集部の環境においてもアプリ化以降、短期間のうちに微細なアップデートが繰り返されていることを確認しています。
この先、さらなるアップデートにより前述したネガティブな部分が解消される、あるいは新機能が実装される可能性は十分にあります。今回は、ネガティブな要素が多い検証結果となったといわざるを得ませんが、近い将来に我われを驚かせてくれるような改善があることを期待したいところです。
ここがポイント! |
●Copilot in Windowsがアプリ化され、Copilotアプリになった。 |
●スタートメニューから起動し、表示はウインドウスタイルに。使わない場合にはアンインストールも可能に。 |
●アプリ化でOSから切り離されたことにより、Copilotを介したOSの操作ができなくなった。 |
●Copilotアプリでは、ブラウジングに大幅な制限がかかっているようだ。 |
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