デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.07.10 15:00

オフィスDX◎フリーアドレスの始め方/理論編
座席ルールの自由化がコスト削減や創造性向上などを実現

 ビジネスにおけるトレンドは時代ごとにさまざまですが、古くて新しいキーワードの一つが“フリーアドレス”ではないでしょうか。

 今や、すっかりビジネスも平常を取り戻しましたが、新型コロナのパンデミックを契機としてホワイトワーカー(*1)を中心にリモートワークが広がりました。その収束後もリモートワークは定着し、ワークスタイルは多様化しています。これに伴い、働く場所は自宅や外出先、移動中の車内、さらには旅行先(ワーケーション/*2)などオフィスの外へと広がっています。
(*1)オフィスで事務系などの業務を行う労働者のこと。ホワイトカラーともいい、ここでいうカラーとはワイシャツの襟に由来
(*2)ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語で、リモートワークによりオフィスなどとは異なる旅行先などで仕事を行うワークスタイル

 周知のようにオフィス勤務とリモートワークが混在する働き方はハイブリットワークといい、そのコンセプトは業務内容や気分などに応じて働く場所や時間を選ぶというアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW/囲み参照)に基づいています。

 このABWを場所の視点で具現化する取り組みがハイブリッドワークであり、こうしたワークスタイルの多様化はオフィスが果たすべき役割を変えつつあります。例えば、オフィスは労働集約的に従業員が集まって業務を行う場所から、コミュニケーションを深める場所へとシフトしています。

 ハイブリッドワークを深化させるには、オフィスの変革は欠かせません。その第一歩がフリーアドレスなのです。

 フリーアドレスは、端的にいえばオフィスにおける座席ルールですが、その導入は従業員の働き方や意識を変革します。それゆえオフィスのフリーアドレス化はハイブリッドワークを進めている事業者だけでなく、従前と変わらぬ働き方から脱却し、斬新なアイデアの創出や業務の生産性アップを実現したい企業も取り組むべきプロジェクトといえます。

 そこで、オフィスDXの第一歩ともいえるフリーアドレスについて、「理論編」と「実践編」の二回に分けて解説。本稿では、理論編として改めてその概要、メリットやデメリットなどを見ていくことにしましょう。

日本に端を発するフリーアドレスの歴史

 フリーアドレスとは、どう座席を使うかを決めたオフィスの座席ルールのこと。決まった自席が用意された固定アドレスに対し、デスクを共用し従業員が働き方に合わせて座る席を自由に選ぶ利用スタイルがフリーアドレスです。

 かつてはIT企業やベンチャー企業といった自由度の高い先進的な業種、外資系のカンパニーなどのスタイルだと思われていた時代もありましたが、今では中小企業も含めて幅広く採用されるようになってきました。

 意外にも、フリーアドレスの発祥は日本(*3)だといわれています。当初、デスクを共有しオフィススペースを縮小することで、賃料などのコストを削減することが主な目的でした。
(*3)1987年に清水建設の技術研究所における試験導入が最初の取り組みとされている

 1980年代後半に登場したフリーアドレスの認知は徐々に広まりましたが、以前は固定電話とデスクトップPCを机上に置いて紙書類を見ながら働くスタイルが標準的であったことなどから、導入は一部にとどまっていました。

 その後、IT機器や通信環境が飛躍的に進化したことで自席に縛られるという物理的なハードルは下がりました。さらに、働き方の多様化に対するニーズ拡大や新型コロナを契機とした社会情勢の大きな変化などを背景に、フリーアドレスの導入は一気に現実的な選択肢となってきたわけです。

オフィスをフリーアドレス化するメリット

 では、オフィスをフリーアドレス化することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。主な利点を、下記の「表1 オフィスにフリーアドレスを導入することのメリット」に示しました。

 まず、オフィスコストの削減は大きなメリットでしょう。リモートワークとオフィス勤務が混在するハイブリッドワークではオフィスの全社員分の座席は不要です。

 その分、オフィスのスペースを縮小できるので、余剰スペースを有効活用したり、移転により賃料を削減したりといったことが検討できます。実例としては、前述したようにコミュニケーションの活発化や深化を目的に、会議室の増設やオンライン会議向けブースの設置、雑談スペースやハドルミーティング用スペースなどを設ける企業が増えています。

 そもそもフリーアドレスそのものに、コミュニケーションを活性化させる利点があるとされています。座席の流動性が高まりオフィスの顔ぶれは日々変わるため、事業部やワークグループの枠を超えてさまざまな従業員との会話がしやすくなります。

 もちろん会話を促す仕組みなどは必要ですが、自席が決められた固定アドレスのオフィスに比べて新たな情報や発想が得られる可能性が高まることは間違いありません。

 また、フリーアドレスはリモートワークとの親和性が高いことも注目すべきポイントといえるでしょう。

 リモートワークでは、ノートPCや周辺機器、ガジェット(電子機器小物)などの限定された機器を駆使して仕事を進めていかねばなりません。

 オフィス内とはいえ座る席が固定されていないフリーアドレスは、いわば社内モバイルワークです。自宅や移動中の車内、カフェ、サテライトオフィスなどと同じように最低限必要なビジネスツールを持ち歩いて、業務を行う必要があります。

 つまり、フリーアドレスの導入により、在宅勤務からシェアオフィスやモバイルワーク、オフィスワークまで多様なワークスタイルをすべてシームレスにつなげることが可能となるわけです。

 別の見方をすれば、従業員はオフィス内にいながら効果的なリモートワークの方法に慣れることができます。また、フリーアドレスでは資料などは可能な限り電子化した方が利便性が高いため、ペーパーレスの推進にもつながります。

ハイブリッドワークの基本コンセプト、「ABW」とは
 オランダ発祥のアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)とは、パーソナル・プロダクティビティ(個人の生産性)を向上させるため、「業務内容や気分に合わせて働く時間や場所を自由に選ぶ」こと。例えば、邪魔されずに業務に集中したい場合には在宅勤務、リラックスしながら議論を交わすにはオフィスのソファ席、気分を変えたいのでカフェでモバイルワークといったイメージです。

 つまり、ABWを基本コンセプトとしたハイブリッドワークとは自宅やカフェなどオフィス内外を含めて、場所と時を柔軟に選択する究極の働き方。フリーアドレスとは、特に働く場所(ワークプレイス)に焦点を当てた取り組みといえます。

 とはいえ、すぐに、このフェーズへ到達することは難しいものがあります。そこでフリーアドレス化を手始めに、オフィス内にカフェスペースやソファ席、個人用の集中ブースなどを設けて、オフィスを次世代化し徐々に新しい働き方に慣れていくのが現実的です。
 

フリーアドレスのデメリットと導入失敗の要因

 多様化する働き方の実現を後押しするオフィスのフリーアドレス化ですが、もちろんデメリット(「表2 オフィスにフリーアドレスを導入することのデメリット」参照)はありますし、導入すればスムーズにハイブリッドワークを実現できるというわけでもありません。

 固定アドレスからフリーアドレスへの移行は、従来からのワークスタイルを大きく変化させます。基本的に顔を合わせるメンバーは日々変わりますし、作業環境も大きく異なります。このため、変化に対応できず業務に集中できないという従業員が出てくる可能性があります。

 自分のワークスタイルに合わせてデスク周りの環境をアレンジできることが固定アドレスのメリットであるだけに、その自席がなくなるという不安感は想像以上に大きいものです。

 他の事業部門やワークグループとの接点拡大により新たな発想創出が期待されるフリーアドレスですが、裏を返せば同じ事業部門やチームとのコミュニケーションは取りにくくなります。自由に座れるということは居場所が把握しづらく、在籍確認などは難しくなる可能性もあります。

 加えて、固定電話の取次なども従来のようには対応できなくなるため、その扱いを検討することが必要でしょう。

 こうしたデメリットや、当初の目的意識が薄れたり目新しさがなくなったりといった理由から、座る位置が固定化してしまい最終的にはいつも同じメンバーで集まるようになり、固定アドレスと変わらなくなる、つまりフリーアドレスが形骸化する懸念も指摘されています。

 また、留意しなければならないデメリットが、セキュリティリスクの増大です。座席が決まっていないフリーアドレスでは、業務に必要な機器や資料を持ち歩く必要があります。デスク上に放置するなど管理がおそろかになると、機器や重要資料などの紛失や盗難リスクが起きやすくなります。

 クラウドサービスやSaaSなどの活用が進めば、サイバー攻撃のリスクも高まります。例えば、サイバー攻撃の対象となるアタックサーフェス(*4)などが広がるため、データ侵害や情報漏えいのリスクに備えた管理や対策は欠かせません。
(*4)サイバー攻撃の対象となる可能性があるIT資産や攻撃経路のことで、攻撃対象領域ともいう。

 オフィスのフリーアドレス化を成功させるには、こうしたデメリットや導入失敗につながる要因を回避することが求められます。後編では、その対策についてフリーアドレスの実践方法を通して解説していきましょう。

ここがポイント!
●座席を固定せずに業務内容に応じてデスクを自由に選べるオフィスの座席ルールがフリーアドレス。
●フリーアドレスの歴史は日本から始まった。
●メリットは、オフィスコスト削減やスペースの効果的な活用、アイデア創出の活性化、リモートワークとの親和性など。
●導入の取り組みを形骸化させるデメリットや要因には注意。
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