デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.02.02 18:30

注目テクノロジー解説◎IoT
あらゆるモノを“つなぐ”仕組みがビジネスを大変革

 2010年代後半から多方面で本格的に活用が進んだIoT(Internet of Things:モノのインターネット)は、今やデジタルシフトやデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進を支える基盤技術の一つとして不可欠な存在といってもいいでしょう。

 それだけに、その導入・活用に向けた取り組みを進める中小企業は少なくありません。少なくともIoTという言葉自体は認識していることでしょう。

 本稿では、このようなIoTについて、その定義や背景、要素技術、産業界での活用状況や課題などについて改めて基礎から解説していきます。

 IoTを端的に説明するならば、さまざまな「モノ」がインターネットにつながることです。この仕組みにより、あらゆるモノやプロセスの自動化や効率化、見える化、遠隔操作などが可能となり、産業や生活が大きく変化することが期待されています。

 これまでインターネット接続により情報・通信を処理できたのはパソコンやサーバーといったコンピューターだけでした。それが、コンピューターの小型化や低コスト化、センサー技術やネットワーク技術などの進化によりネットワーク化できる機器や設備が広がりました。

 例えば、冷蔵庫やエアコン、照明器具のような電化製品の他、自動車や住宅、ビジネス機器、建設・工作機械といった産業機械やロボット、工場の装置・設備など、それこそありとあらゆるモノをインターネットにつなげることが可能です。

 インターネットとつながることで、遠隔からモノを制御・管理できるようになるだけでなく、自動化により業務を効率化することもできます。

 さらに、さまざまな情報をモノから収集して蓄積することが可能となります。この膨大な情報はいわゆるビッグデータと呼ばれ、その分析から新しい付加価値やサービスを生み出せるためビジネスでもIoTは大いに注目されているわけです。

IoTテクノロジーは、あらゆる「モノ」がインターネットにつながった世界を実現する

IoTという言葉が最初に登場したのは1999年

 世にIoTという言葉が登場したのは1999年のことです。英国の技術者でマサチューセッツ工科大学(MIT)のAuto-IDラボの共同設立者であるケビン・アシュトン(Kevin Ashton)氏が、RFIDの研究の中で当時のRFIDによる商品管理システムをインターネットに例えて用いたのが最初とされています。

 しかし、その後に機械同士を相互に接続して通信を行う「M2M(Machine to Machine)」の実用化が進んだことで、2000年代はM2Mが一般的に使われました。このため、IoTは長らく概念的な存在にとどまっていました。

 
M2Mとセンサーネットワーク
IoTに類似した技術として、「M2M(Machine to Machine)」や「センサーネットワーク」という言葉が挙げられます。M2Mは「機械同士を接続して情報をやり取り」し、センサーネットワークは文字通り「センサーで収集した情報をネットワーク上でやり取り」する技術や仕組みです。

 IoTはインターネット接続を前提としていますが、M2Mやセンサーネットワークは必ずしもそうではありません。専用のネットワークや独自の通信プロトコル(*1)を用いて機器や機械同士でダイレクトに情報を収集し、これらを制御することで処理が完結するクローズド環境で使われることが多いという特徴があります。
(*1)異なるシステムやソフトウェアなどが相互に通信できるように定められた手順・規約

 とはいえ、M2Mやセンサーネットワークも通信技術を用いて機械や機器同士で情報をやり取りする点ではIoTと同じであり、通信技術としてインターネットが用いられれば、これらもIoTという見方ができるでしょう。
 

 状況が変わったのは2010年代前半のこと。ドイツが国内の製造業を守っていくための国家戦略として、サプライチェーン全体でデータを活用した効率的な製造の実現を目指したことです。いわゆる「Industry 4.0(第4次産業革命)」が提唱され、データ活用のために工場にIoT導入を促す取り組みを推進する姿勢が打ち出されたことが、その普及への転換期になったとされています。

 スマートファクトリーの分野で先行したIoTですが、要素技術の急速な進化と共に応用範囲は急拡大し、今ではインターネットとは縁遠かった電化製品や住宅設備、自動車などがインターネットとつながるようになったことは前述した通りです。

 今後もIoTの需要のすそ野はさらに拡大していくと予想されています。IT調査会社のIDC Japan株式会社が2023年11月に発表したプレスリリースによると、国内のIoT市場規模(ユーザー支出額)は2022年の6兆818億円に対して2027年には9兆1877億円に達し、2027年まで年平均8.6%で成長していくと予測。特に農業や物流、医療などの分野で成長性が高いとしています。

産業界などにおけるIoT活用シーンは多種多様

 IoTの活用シーンは大きく広がっており、技術の進化と共に活用例も高度化しています。いくつか例を見てみましょう。

 導入が最も進んでいる製造業では、センサーや通信機能を備えた設備や機器、部品の稼働状況や故障個所の情報をリアルタイムで把握し管理・分析するシステムが構築されています。

 これにより、工場のプロセス自動化・可視化や生産ラインの効率化、高度なメンテナンスの予防保全を実現。加えて、ビジネスでの応用が進む生成AIを活用することで、工場設備の故障に対する予測の精度を格段に高めて、歩留まり向上や高効率な工場の稼働・運営を可能とします。

 自動車業界では既存のエンジンから電動化へというエポックメイキングな技術シフトが進んでいます。そうした中、運転自動化の実現も注目されており、車両の運転支援や安全性向上にIoTは不可欠です。さらに、MaaS(Mobility-as-a-Service)への取り組みは、自動車製造だけでなく自動車を活用したサービスを提供することとなり、自動車メーカーのビジネスを大きく変えることとなります。

 物流分野では、倉庫内の作業(棚卸や棚入れ、ピッキング作業など)はロボットが行い、配送業務では配送管理システムを通じて支店や営業所が配送状況をリアルタイムで管理できます。

 職人不足が深刻な建設業界であれば、IT機器を組み込んだ建設機械の遠隔操作やAIの活用などによる無人・自律施工や、土砂災害や高所など作業者にとって危険な場所でのドローンを活用した点検・検査が可能です。

 また、農業分野においてもIoTによる自動化が進んでいます。ビニールハウス栽培などでは温度や湿度、生育状況のモニタリングなどがセンサーを用いたIoT環境により遠隔から管理され、問題発生時にはスマートフォンなどにアラートが飛ぶ仕組みが構築されています。収穫にもロボットが導入されるといった具合に、農業従事者の人手不足の課題をIoTを用いたDXにより解決することができます。

 この他、小売業ならば顧客分析、店舗運営や在庫管理の効率化、無人決済店舗による人材リソース不足の課題解決、医療分野では患者の健康状態のモニタリングや医療機器の遠隔操作、金融業界ではキャッシュレス化など、IoTの影響を受けない分野はないといっても過言ではないでしょう。

 
IoTを支える要素技術とは
 IoTを実現するには、いくつかの要素技術が必要です。最も代表的なものとして「IoTデバイス」が挙げられます。いわゆるIoTにおけるモノに相当する機器や端末のことで、スマートフォンやパソコン、タブレットのように直接インターネットに接続する情報端末などが好例です。

 ダイレクトにインターネットにつながるモノだけでなく、情報端末に対して無線などを介して接続するスマートウォッチのようなウェアラブル機器なども広い意味でIoTデバイスといえます。

 産業用途では、例えば工場のファクトリー・オートメーション(FA)機器に設置されたセンサーや高精度カメラ、変位計などのIoTデバイスではやり取りするデータの種類や容量が多くサーバー側に負担がかかるため、これを軽減する目的でデータをモノに近い場所で処理する「中継機器(IoTゲートウェイ/エッジコンピューティング/フォグコンピューティング機器など)」を介してインターネットに接続するのが一般的です。

 Wi-Fi、Bluetoothや4G/5Gなど、これらIoTデバイスをインターネットに接続するための通信ネットワーク技術、データを活用するためのソフトウェア技術も欠かせません。

 また、クラウドコンピューティングも要素技術として大事な役割を果たしています。クラウドの大容量化や高速化、低コスト化が進んだことで、IoTデバイスから取得したデータをクラウドに保存し、リアルタイム処理や必要な時にデータ解析を行うなど、比較的低コストで大規模なデータの収集・分析・活用が可能になりました。

 そして、これらの要素技術を下支えしているのがセンサーチップ/モジュール、マイコンやメモリ、CPU、無線通信用のRF(高周波)デバイスといった半導体や電子部品であり、IoTデバイスの小型化や省電力化、性能向上に大きく貢献しています。
 

IoT導入・活用における留意点や課題

 企業がIoTを導入・活用するうえでの課題は何でしょうか。特に重要な課題として挙げられるのが、「サイバーセキュリティ対策」です。これまでインターネットに接続されていなかったモノが新たにつながり、サイバー犯罪者にとっては攻撃ポイントが増えることとなります。

 しかも、パソコンやスマートフォンのような高度なセキュリティ対策を講じにくいため、サイバー攻撃の標的となりやすいのです。IoTセキュリティでは、「監視が難しい」「長期間の活用で対策が不十分となる」「機器の性能が低い」「サイバー被害の影響が広範囲に及ぶ可能性がある」といった特徴が挙げられます。常にセキュリティを念頭に置いて導入や運用に取り組むことが必要でしょう。

 セキュリティ以外にも、中小企業ではIoTの導入・運用を担うデジタル人材の確保などが課題視されています。こうしたリソース不足に対しては、ITベンダーをはじめ、さまざまな支援機関や組織と相談しながら進めていきたいものです。 

 また、見落としがちですが、IoT導入においては法律を意識することも必要でしょう。例えば、電波法です。基本的に電波を利用したIoT環境を構築する場合、原則として免許が必要です。ただし、無線LANのアクセスポイントやBluetoothといった特定小電力無線局では免許が不要。こうした法律に関わる知識も把握しながら、IoTを導入することが大事です。

 
ここがポイント!
●IoTは、さまざまな「モノ」がインターネットにつながる仕組みのことである。
●1999年に初めてIoTの概念が登場。ドイツのIndustry 4.0を契機に広がり、2010年代後半から本格的に普及し始めた。
●製造業はもちろん、建築、小売や物流、医療、農業、金融など幅広い業界においてIoTの活用が進む。
●サイバーセキュリティ対策やIoTの導入・運用を担うデジタル人材の確保などが、中小企業では課題視されている。

外部リンク

一般社団法人AI・IoT普及推進協会 IDC Japan「国内IoT市場予測」
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