デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.02.01 18:00

調査レポート◎中小企業のデジタルシフト・DX実態調査
IT活用は道半ば、デジタル人材の育成やコストが課題

 企業や組織がデジタルシフトやデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)を推進するうえで参考となるのが、他社の取り組み状況、例えば「どのような課題を抱えているのか」「どの程度の予算を割いているのか」といったことではないでしょうか。

 そこで本稿では、東京商工会議所(以下、東商)が会員企業(中小企業)のIT導入・活用を含むデジタルシフト・DXへの取り組み状況の実態調査を行い、2023年9月末にその内容や事例を取りまとめた報告書である「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」に注目しました。

 中小企業のデジタルシフト・DX実態調査は、2023年5月から6月にかけて主に東京23区内の会員企業約1万社を対象に行われたものです。前回調査(「IT活用実態調査」、2021年2月公表)の結果と比較しながら、デジタル人材などの新たな項目を追加し、調査・分析しています。

 以下では、同調査報告書の集計結果をひも解きながら、中小企業や小規模事業者がデジタルシフトやDXを進めるうえでのポイントを見ていくことにしましょう。

一定数のIT導入は進んだが、活用は停滞

 まず、中小企業のデジタルシフトはどの程度進んでいるのでしょうか。これについては、「デジタルシフトの状況(導入・活用レベル)」により調査されました。

 この調査では、中小企業におけるデジタルシフトの進捗状況を下記のように4段階に分類したうえで、調査対象の企業がどの段階にあるかを質問しています。

 レベル1:口頭連絡、電話、帳簿での業務が多い
 レベル2:紙や口頭でのやり取りをITに置き換えている
 レベル3:ITを活用して社内業務を効率化している
 レベル4:ITを差別化や競争力強化に積極的に活用している

今回の調査において、アナログ業務が中心のレベル1の割合は18.8%と前回調査から3.9ポイント減少しました。何かしらのデジタル化に取り組んだ企業は増えていることが見て取れます。

 デジタル化に取り組む中小企業の割合(レベル2からレベル4の合計)は8割を上回る結果となりました。レポートでは、コロナウイルス感染症への対策に伴う在宅勤務の増加や非接触への対応といった社会的なデジタル化の推進、国や東京都による支援などが導入を後押ししたと分析しています。

 とはいえ、本格的にITを活用しているレベル3とレベル4の中小企業はおよそ半数と、前回調査と比べ横ばいにとどまっており、今後はITの導入から活用へのシフト、および活用のレベルアップが課題になるとしました。

 また、デジタルシフトの状況を業種別にみると、レベル1と回答した企業が最も多かったのは小売業で、逆に最も少なかったのはサービス業となっています。

 従業員の規模別では規模の大きな企業ほど、また従業員の平均年齢別では平均年齢が若い企業ほど、それぞれデジタルシフトが進んでいる傾向が見られました。人材リソースやITリテラシーなどが、デジタルシフトへの取り組み状況に影響しているものと推察されます。

 直近の3年間の利益の傾向別では、利益が増加傾向にあると回答した企業においてデジタルシフトが進んでいることが示されています。デジタル化には初期投資が必要なだけに、この結果は当然ともいえそうです。

課題は人材不足やコストなどのリソース不足

 では、デジタルシフトやDXを進めるうえで、どのような課題を抱えているのでしょうか。「デジタルシフト・DXの課題」で明らかにされています。

 この質問で最も多かった回答は「旗振り役が務まるような人材がいない(33.8%)」、「従業員がITを使いこなせない(29.5%)」といったデジタル人材の不足に関するものとなりました。特に、レベル1やレベル2のデジタル化やその活用があまり進んでいない中小企業で課題視されています。

 次いで、「コストが負担できない(27.0%)」とコスト面の課題が挙がった他、「業務内容に合ったデジタルツール・サービスが見つからない(24.5%)」、「導入の効果が分からない、評価できない(23.0%)」と続きました。

IT導入の主目的と成果は「業務効率化」

 これ以降は、何かしらデジタル化に取り組んでいるレベル2からレベル4の中小企業を対象とした調査(*1)をもとに、状況を見ていきましょう。
(*1)レベル1と回答した企業は調査対象外

 「デジタルシフトの計画・目的」に関する調査で、計画の策定状況について「策定している(21.2%)」、もしくは「策定を検討している(46.3%)」と回答した企業は7割近くに達しており、さらにデジタルシフトを進める意向であることが見て取れます。

 目的については「業務効率化」が圧倒的で全体の94.1%を占めました。以下、「コスト削減(53.1%)」や「企業文化、働き方の改革(48.7%)」、「顧客満足度の向上(32.7%)」などが続いています。

 レベル4の企業では、「企業文化、働き方の改革」と「顧客満足度の向上」がそれぞれ6割を占めており、DX本来の目的であるビジネスモデルやプロセス、企業風土などの変革を目指すには、ある程度のデジタルシフトの段階が進んでいる必要があることがうかがえます。

 また、実態調査では「デジタルシフトの成果・効果」についても示されており、8割弱の企業で何かしらの成果が上がっていることが分かります(下図「デジタルシフトの成果」参照)。

 具体的な効果としては「業務効率化」が81.4%で圧倒的に多くなっており、前述したデジタルシフトの主目的となった業務効率化が狙い通りに実現されている結果といえそうです。

 業務効率化に次いで、「業務の見える化(48.7%)」、「従業員の働きやすさ向上(36.9%)」、「標準化(脱・属人化)(35.1%)」、「社内コミュニケーション促進(32.3%)」、「テレワークの導入・定着(32.1%)」などが上位を占めました。

デジタルシフトに取り組む企業の人材対策は?

 先に触れたデジタルシフト・DXの課題でも指摘された旗振り役が務まるような人材がいないなど、デジタル化を進める際にネックとなっているデジタル人材の不足について、他の中小企業はどう対応しているのでしょうか。

 デジタル人材の確保状況についての質問では、「あまり確保できていない(42.4%)」が最も多く、「全く確保できていない(19.5%)」と合わせると、6割を超える中小企業がデジタル人材の確保に苦慮している事実が浮き彫りになりました。

 人材確保の方法については、「既存社員の育成(53.2%)」が過半数を占め、次いで「何も実施していない(35.8%)」が2番目に多くなりました。中小企業の場合、デジタル人材を新規採用して育成するのはなかなか難しく、どうしても既存社員で対応を図らざるを得ないものと思われます。

 こうした課題を解決するために社内のデジタル人材育成にどう取り組んでいるかについて、「外部研修の受講奨励(22.7%)」や「研修受講・資格取得の費用補助(19.3%)」などを挙げる企業も一定程度見られましたが、「特段実施していない(52.4%)」という企業が過半数を占める結果となりました。

 この理由について、東商では「具体的にデジタル人材をどう育成すればよいのか、その方法が分からないのではないか」と推察しています。

まだまだ少ない中小企業の外部リソース活用

 社内にデジタル人材が不足しているとなれば、ITベンダーや税理士・会計士、銀行、支援機関といった外部に人材やリソースなどの支援を求めることが必要です。その活用状況はどうなっているのでしょうか。

 デジタルシフトに取り組んでいる中小企業の「外部人材・リソース活用状況」を聞いた調査項目では、「活用していない(37.7%)」との回答が最多となりました。活用していると答えた企業が具体的に支援を求めている先としては、「ITベンダー(30.8%)」や「税理士・会計士(19.5%)」が主流となっています。

 商工会議所による中小企業のデジタルシフトやDX推進の支援はあまり知られていないこともあって、「商工会議所等の相談窓口・専門家(4.9%)」と回答した企業は少数にとどまりました。

 東商では、こうした現状を打開すべく中小企業のデジタルシフトやDXを支援するサイト「ぴったりDX」を展開するなどして、認知度の向上に取り組んでいます。

また、デジタルシフト・DXに向けて今後利用したい支援策について聞いたところ、「補助金・助成金(62.2%)」を希望する企業が最も多く、次いで「支援策や制度の情報提供(33.1%)」、「専門家や支援機関による相談(27.4%)」、「専門家による併走型支援(26.3%)」などが続きました(支援策についてはレベル1の企業を含む)。

 デジタルシフトやDXの推進ではコストも課題とされていましたが、その解決策の一つとして補助金関連は頼れる存在となっているのでしょう。

 この他、報告書では「デジタルツール・サービスの導入・活用状況」や「セキュリティ対策」に関する調査などの集計結果、企業の事例などがまとめられています。自社のデジタルシフトやDX推進の参考にしてはいかがでしょうか。

※文中の図は、「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」より抜粋したうえで中小企業×DX編集部にて作成。一部編集

 
ここがポイント!
●中小企業のデジタルシフト・DX実態調査から一定程度のIT導入は進むも活用は足踏み状態であることが判明した。
●デジタルシフトやDXの推移における課題では人材リソース不足やコストが上位となった。
●デジタルシフトやDXの目的と成果では、「業務効率化」がダントツ。デジタルシフトのレベルが高い企業ほど、多方面で成果を獲得。
●人材不足が課題視される中、デジタルシフトの推進において外部リソースを活用している中小企業は、まだまだ少ない。

外部リンク

「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」集計結果 「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」報告書(2023年9月公表) 「IT活用実態調査」報告書(2021年2月公表)
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