2025年5月8日から、事業再構築補助金の後継制度ともいわれる中小企業向け施策「中小企業成長加速化補助金(以下、成長加速化補助金)」の公募が始まりました。「採択率は10%~20%が推測される」などハードルは高いものの、補助金額は最大5億円という大型補助金だけに注目を集めています。
成長加速化補助金の目的は、「賃上げへの貢献、輸出による外需獲得、域内の仕入による地域経済への波及効果が大きい売上高100億円を目指す成長志向型の中小企業者の大胆な設備投資を支援すること」(事務局「中小企業成長加速化補助金 説明会」資料)。
国内経済は、賃上げや国内投資の水準が30年ぶりに高い状況にあるなど好転の兆しが見られます。とはいえ、物価高や人手不足などの課題に直面していることも事実であり、経済の好循環を広めるには「中小企業全体の稼ぐ力の底上げや地域に成長企業を創出することが重要」(公募要領)です。
そうした中、売上高で100億円に達する企業は一般的に賃金水準が高く、外需獲得やサプライチェーンへの波及効果も大きいため、将来的に売上高100億円を目指す中小企業を支援しようというわけです。
中小企業基盤整備機構によると、今回の公募を含めて「令和8年度末までに3回の公募を実施し全体で600者程度の事業者に補助金を交付。事務費は原則70億円を上限とする」とのこと。最低投資金額などの満たすべき要件は厳しいですが、まずは制度概要を理解したうえでチャレンジを検討するのがよいのではないでしょうか。
成長加速化補助金の制度概要
下図は、成長加速化補助金の事業概要がまとめられたものです。前述したように補助金額は最大5億円、補助率2分の1ですから投資額にして10億円もの大型プロジェクトに活用が可能です。
投資プロジェクトのイメージとして、工場や物流拠点などの新設・増築、イノベーション創出に向けた設備の導入、あるいは自動化による革新的な生産性向上といった例が挙げられています。
大掛かりな投資プロジェクトでの活用が想定されていることに加えて、補助事業期間が「交付決定日から24か月以内」とされていることからも、同補助金がかなりの大型事業であることが読み取れます。
対象となる補助事業者
成長加速化補助金の対象事業者は、「売上高100億円を目指す中小企業」であり、目的は100億円の実現に向けた大胆な投資を支援することです。
まず、成長加速化補助金における中小企業(事業者の範囲)の定義は、「中小企業等経営強化法の第2条第1項各号に規定した中小企業者」とされ、公募要領には付随要件を含めて詳しく記述(公募要領P3-7)されており、みなし同一法人など対象外となる要件も詳述されています。
売上高100億円を目指すという点については、かなりハードルが高く感じられますが、具体的には「10億円以上100億円未満であること」と規定されています。売上高要件の点では、比較的間口が広いといえそうです。
常に売上高10億円を超える事業者は問題ありませんが、年度によって10億円前後を行き来している場合は、どう判断すればよいのでしょうか。この点、「直近3期分の決算に基づいて判断する」とされており、平均して売上高10億円を超えていれば対象となると解されます。
また、成長加速化補助金は事業者単独での申請が原則ですが、「共同申請(コンソーシアム)により一層の相乗効果を発揮できる」といった場合(*1)には複数事業者による共同での申請が可能です。
(*1)公募要領では、「販路やブランドに強みがある企業が特殊技術に強い企業と連携する」といった例が挙げられている
補助対象となる経費
この補助事業で対象となる経費は、大きく「建物費」「機械装置費」「ソフトウェア費」「外注費」「専門家経費」の4つが挙げられています。その概要は、下図の通りです。
建物費と機械装置費、ソフトウェア費では「税別で単価100万円以上」、外注費と専門家経費については「建物費/機械装置費/ソフトウェア費の合算金額未満であること」と規定されています。また、「パソコンやタブレット端末などの本体費用」や「事業計画の作成に要する経費」、「売電目的の発電設備等」、「自動車等車両関連費用」などは対象外、補助の対象か対象外かを分ける要件が細かく規定(公募要領P9-14)されているので、申請前にしっかりと確認することが必要です。
求められる申請要件
この成長加速化補助事業を申請するにあたっては、「投資額1億円以上」「100億宣言」「一定の賃上げ要件」「日本国内での補助事業実施」という要件を、すべて満たす必要があります。
投資金額の最低要件として、補助対象となる経費のうち投資額が税別1億円以上であることが求められます。対象経費であっても外注費と専門家経費は除かれるため、建物費と機械装置費、ソフトウェア費で同金額を超えなければなりません。それなりの大きな投資プロジェクトが想定されているわけです。
売上高100億円を目指すという趣旨から、「100億宣言を行い、それが100億宣言ポータルサイトに公表されていること」が要件として求められています。100億宣言とは、中小企業が飛躍的な成長を遂げるため、企業自らが売上高100億円という野心的な目標を掲げて、その実現に向けて取り組むことを宣言するものです。
この宣言は成長加速化補助金を活用するうえでの必須要件ですが、補助金を利用しない中小企業にとっても興味深い制度といえます(下記の囲み参照)。
補助金申請しない中小企業も注目!「100億宣言」とは 本文でも説明した通り、「100億宣言」とは中小企業が飛躍的な成長により売上高100億円を目指し、その実現に取り組むことを宣言するもの。宣言した中小企業は、成長加速化補助金や税制の優遇措置(中小企業経営強化税制における経営規模拡大設備の要件)を活用できることに加え、経営者ネットワークへの参加や100億宣言のロゴマークの使用といったメリットがあります。 特に、積極的な成長を目指して宣言を行なった経営者が、地域や業種を超えてつながることができる経営者ネットワークへの参加は、大きな利点といえるのではないでしょうか。 宣言により、こうしたメリットを享受するには、企業概要や100億宣言に向けた経営者メッセージ、売上高100億円実現に向けた目標と課題、具体的な措置などを記載した申請書や、直近3期分の決算書などの提出が必要です。 とはいえ、それほど書類は煩雑なものではありません。申請書類の様式もA4で1~2枚程度です。補助金や優遇税制を活用しなくとも、100億宣言を行うことは可能(宣言資格は売上高10億円から100億円未満)なので、経営者ネットワークへの参加や対外的なアピールを目的に宣言を行ってみるのも一考です。 なお、100億宣言については、「100億企業成長ポータル」、または中小企業基盤整備機構「100億宣言申請要領」に詳述されています。 |
また、満たすべき要件には、国の方針であり補助金の目的でもある「賃上げ」に関するものとして、「一定の賃上げ要件を満たす今後5年程度の事業計画を策定すること」が盛り込まれています。
満たすべき要件は、補助事業終了後3年間の「給与支給総額」または「従業員および役員1人あたり給与支給総額」の年平均上昇率が、補助事業を実施する場所の都道府県での直近5年間の最低賃金の年平均上昇率以上であることとされています。「給与支給総額」か「従業員および役員1人あたり給与支給総額」かのいずれで賃上げ目標を立てるかは申請時に選択し、交付決定までに従業員または役員などに表明する必要があります。
国が注力する賃上げ分野の要件だけに、未達の場合には補助金の返還義務が伴います。補助金申請時に掲げた目標を達成できなかった場合、未達成率に応じて補助金を返さねばなりません(天災など事業者の責任ではない場合は除く)。
賃上げ要件を満たしているかどうかは、かなり細かく規定されています。公募要領(P2-3)を読み込んで理解しておきたいところです。
なお、共同申請における要件は、「共同申請を行う全事業者が事業者の範囲を満たしている」「申請要件のうち100億宣言と賃上げ要件は、個々の事業者で対応する」「投資額5000万円以上(補助対象経費分)の中小企業者を1社以上含む」とされています。
申請から採択まで事業の流れ
では、申請準備や申請、採択の流れを追いながら、特に押さえておくべきポイントについて見ていきましょう。下図は、成長加速化補助金の事前準備から事業終了までの、大まかなフローです。
まず、成長加速化補助金は、補助金申請システム「jGrants(*2)」をプラットフォームとして申請や事務局からの通知など、すべて同システム上で行われます。システムの利用には、GビズIDプライムアカウントが必要となります。
(*2)デジタル庁が運営する補助金の電子申請システムで、24時間365日申請が可能
申請に向け、さまざまな要件を満たす準備には、腰を据えて取り組む必要がありそうです。売上高100億円を目指そうという企業なら、例えば従業員規模もそれなりのもの。賃上げ要件を満たすために想定される金額も大きくなることから、目標値をしっかりと精査することが求められます。
また、一般的な補助金申請では提出する事業計画書は補助事業を意識したもので十分です。しかし、大型の投資プロジェクトで全社的に取り組まねばならない成長加速化補助金では、経営戦略にまで踏み込んだ事業計画が必要です。実際に、提出すべき計画書のボリューム(35ページ)も大きくなっています。
同補助金の審査基準も公表(公募要領P21-22)されており、経営力や波及効果、実現可能性の3領域を提示。詳細項目を定量的・定性的に審査して採択事業者を決めるとしています。
論理的で説得力のある、全社レベルの経営戦略に裏付けられた実践性のある投資事業計画書を作成したいところです。
さらに、審査においては経営者によるプレゼンテーションがあることは大きな特徴です。プレゼン審査を念頭に、事業計画書の作成には経営者自らが参画すると共に、実際のプレゼン審査では「売上高100億円を目指す」という熱意や意気込みを見せることがポイントといえそうです。
書類審査とプレゼン審査を経て、採択されると交付申請・交付決定を経て、補助事業がスタートします。多くの補助事業と同じように、採択決定以前に導入手続きを進めたものは対象となりません。対象経費については、交付決定後に発生かつ契約(発注)され、補助事業期間(24か月)内に納品や支払といった事業に必要な手続きがすべて完了しなければなりません。
また、最終的な補助金額は流動的である点に注意しましょう。申請時に提出した採択額が、そのまま補助金額とならない場合があります。交付申請案を確認のうえ交付額が決定し、さらに補助事業の完了後に確定検査により精査され、最終的な交付額が決定します。
また、消費税の扱いについても言及されています。補助金では対象経費に消費税を含めて申請する例が多いですが、成長加速化補助金では「応募申請時の補助金申請額の算定において、消費税等は補助対象経費から除外して補助金額を算定する(*4)」とされています。
(*4)免税事業者や簡易課税事業者など一部の例外あり
以上、成長加速化補助金の概要とポイントを見てきました。公募申請の締切から採択結果の公表まで、約3か月。そこから事業の期間が最大2年と、かなり長期間の大型補助事業です。
国の施策では、公募要領やFAQ(よくある質問)を熟読することが、採択率を高め事故(無意識の違反等による補助金返還)を防ぐ効果的な方法です。成長加速化補助金は大型施策だけに、公募要領には不支給要件などについても細かく規定されています。採択後に求められる義務なども考慮して、申請の検討や準備を進めることが大切でしょう。
ここがポイント! |
●中小企業成長加速化補助金は、補助額最大5億円(補助率2分の1)の大型支援事業 |
●対象は売上高10億から100億円未満で、将来100億円超を目指す中小企業 |
●申請要件は「100億宣言」「賃上げ」など。最低投資額は「1億円」以上の大型投資プロジェクトが必要 |
●書類審査に加え、経営者自身によるプレゼンテーション審査が必須 |
外部リンク
100億企業成長ポータル 「100億宣言」とは jGrants

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