デジタル変革(DX)を学ぶ

2026.02.02 07:00

注目テクノロジー解説◎IoT時代の無線技術「LPWA」とは
省電力と長距離伝送を特徴とする“モノのインターネット”を支える要素技術

 デジタルシフトやデジタルトランスフォーメーション(DX)におけるデータ収集・活用に欠かせない無線通信技術(関連記事:注目テクノロジー解説◎無線通信技術)には、さまざまな種類や規格があります。

 その中でもDX推進の重要技術の一つであるIoT(モノのインターネット/関連記事:注目テクノロジー解説◎IoT)の普及を背景に、広く採用されつつある無線通信技術が「LPWA(Low Power Wide Area)」です。

 無線通信技術としてのLPWAの特徴は、少ない消費電力で遠方までデータを伝送できる、いわゆる遠距離・低速通信であることです。

 DXでは、ビッグデータに象徴されるようにデータが重要な役割を果たすことは周知でしょう。さまざまなセンサー技術とワイヤレス通信技術の進化で、例えば畑の土壌状況から海水環境、工場の生産ラインなど多種多様なデータを収集することが可能となってきました。

 データに基づいたビジネスが求められる時代にあって扱うデータ量は膨大となっており、基本的にデータ通信の規格に求められる要件も高速・大容量化しています。しかし、センサーを介して細かな情報を収集するIoTでは伝送されるデータ量が少ないため、通信の高速・大容量化はあまり必要ありません。

 それよりも、数十メートルから数キロメートル、あるいは数十キロメートルといった広いエリアにおいて、低電力で安定して通信できることが求められています。こうした用途にLPWAという技術は適しているわけです。

 本稿では、IoT環境の構築において存在感を増しているLPWAについて詳しく見ていくことにしましょう。

「省電力」と「長距離伝送」が大きな特徴

 LPWA(Low Power Wide Area、またはLow Power Wide Area-network)とは、文字通り省電力(Low Power)でデータの遠距離伝送(Wide Area)を実現する無線通信技術の総称です。

 データの伝送速度は数bpsから数kbps程度と低速で、伝送容量も限られますが、長期間にわたって電池を交換することなく十数キロメートル、種類によっては100km以上にも及ぶ範囲で安定した通信環境を実現できます。LPWAのメリットとデメリットには、以下のような点が挙げられます。

〈メリット〉
・数十キロメートルの広範囲において、データの長距離通信を安定的に行うことができる

・データ伝送に伴う必要な電力量が少ない。その省電力性は、センサーなどのIoT機器を電池1個で数年間稼働させることができるレベルである

・効率的な通信制御技術を組み合わせることにより、通信エリア内の複数のIoT機器を同時に接続できる。用意すべき回線数が少ないので、導入コストや運用・管理コストの抑制やメンテナンス性の向上につながる

〈デメリット〉
・周波数帯域幅(使用する電波の最も高い周波数と最も低い周波数の差)が狭いため、伝送スピードが低速。映像などの重たいデータ伝送には向かない

・LTE-Mなどの一部規格を除き、基本的にハンドオーバー(アクセスポイントの円滑な切り替え)機能がなく、車両への搭載などによりIoT機器が広い範囲を移動する用途には適していない

・非セルラー型(詳細後述)で利用される周波数920MHz帯について、国内ではさまざまな規制(例:1時間あたりの累計送信時間360秒以内)があり、実利用に課題が生じることがある

LPWAが効果を発揮する活用例

 こうした特性から、LPWAは「広範囲に点在する常時稼働の複数機器との安定的な通信」を必要とする用途に適しています。先に言及したように、この特性はIoTの通信インフラ要求に合致するもので、IoT分野において採用が進んでいるわけです。

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LPWAは、IoTシステムにおけるデータ収集の要素技術として多様な分野で注目され、導入されている

 それゆえLPWAの用途は、IoTにおける活用事例とほぼ同義といっても過言ではないでしょう。実際、2010年代の半ばごろから活用事例は着実に増えてきました。

 例えば、工場内の機械設備の監視や敷地内の予知保全システム、農業における遠隔からの生育状況の把握、スマートメーターを用いた電気やガスの使用量の把握など、IoTの活用が進むさまざまな分野でLPWAは相性がよい技術として利用されています。

 IoT環境のすべてにLPWAが採用されているわけではありませんが、特に電源の確保が困難な場所・地域、トンネルや橋梁といった電池交換を頻繁に行うことが難しいインフラ系のデータ収集や監視などには有効です。

 また、DX推進では新たなテクノロジーとして、「デジタルツイン(関連記事:注目テクノロジー解説◎デジタルツイン)」が注目されています。この実現では、リアル世界の情報を収集するためにIoTは欠かせない技術となっており、IoTとセットで語られることの多いLPWAも要素技術としての存在価値を高めています。

さまざまなLPWAの規格

 省電力・遠距離伝送を実現する技術の総称であるLPWAには、さまざまな規格や種類があります。大きくは、「セルラー(ライセンスバンド)型」と「非セルラー(アンライセンスバンド)型」に分類されます(下表)。

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表:LPWAの主な種類と、その概要(出典:推進団体や関連企業の資料をもとに編集部にて作成)

セルラー(ライセンスバンド)型

 セルラー型はライセンスバンド型とも呼称される通り、通信事業者に免許が割り当てられている携帯電話の周波数帯(これをライセンスバンドという)を利用する規格です。800MHz帯や900MHz帯といった事業者の4G通信網などが用いられます。

 通信事業者の基地局をそのまま活用できることが、セルラー型の大きなメリットといえます。利用者は新たに基地局やゲートウェイなどを設置する必要がなく、IoTサービス導入のコスト抑制につながります。また、通信事業者のネットワークを使用するので、安定した通信品質とセキュリティを確保できます。

 主なセルラー型の規格には、「LTE-M」と「NB-IoT」などがあります。いずれも、モバイル通信の標準化団体である3GPP(Third Generation Partnership Project)が2016年に策定したLTE Release 13仕様において、LTE-Mは「LTE UE Category M1(LTE Cat-M1)」、NB-IoTは「LTE Cat-NB1」として、それぞれ規格化されました。その後、NB-IoTはLTE Release 14仕様で拡張版となるLTE Cat-NB2が規格化されています。

〈LTE-M〉
 周波数帯域幅1.4MHzの「LTE-M(*1)」は、4G/LTE(最大20MHz)よりも帯域幅は大幅に狭いですが、通信距離を長くすることが可能です。データの伝送速度は最大1Mbpsと、LPWAの中でも比較的高速です。
(*1)Long-Term Evolution for Machines、またはLong-Term Evolution for Machine Type Communication

 電車や自動車などでの移動中でも円滑な通信を実現するハンドオーバー機能に対応しており、車両の追跡や現在地・運行状況の管理といった用途にも活用できます。

〈NB-IoT〉
 上記のLTE-Mよりも、さらなる低速・低消費電力により低コスト化が図れる技術が「NB-IoT(*2)」です。特に、LTE-Mよりも多くのIoT機器を1台の基地局に同時接続できるのが大きな特徴。その規模は、数万台から数十万台をつなぐことも可能です。
(*2)Narrow Band IoT

非セルラー(アンライセンスバンド)型

 一方、非セルラー型はアンライセンスバンド型とも呼ばれ、免許が不要な920MHz帯を用いて、サービス事業者や利用者が独自に開発し基地局(ゲートウェイ)を設置してLPWAネットワークを構築・運用するものです。

 非セルラー型のメリットは柔軟性の高さです。既存のサービスエリアに依存せずに、例えば工場や農場、ビル内部など限定的なエリアにおいて、システム環境に適したネットワークの構築が可能となります。

 デメリットとしては、他の機器などからの電波干渉の影響を受けやすく、セルラー型と比べて通信品質が不安定になりやすい、電波法の規制が影響する可能性があるといった課題があります。

 規格の種類が数多いことも特徴といえます。2015年前後から「Sigfox」 と「LoRaWAN」 が先行して本格的に展開をスタートさせました。その後、2020年前後にかけて「ELTRES」や「ZETA」など、さまざまな技術が規格化されて商用サービスが提供されるようになっています。

〈Sigfox〉
 仏Sigfoxが開発したLPWAが「Sigfox」です。2012年からサービスが開始され、2022年以降はシンガポールのIoTサービス事業者UnaBizが事業を引き継ぎました。各国のサービス事業者との連携により、日本を含む世界70か国以上でIoT通信サービスとして、Sigfoxは提供されています。

 通信速度は上り:100bps/下り:600bps。上りで1回あたり最大12B(バイト)、1日あたり140回までとデータ送受信回数が制限される仕様ですが、これにより省電力・低速・低コストのサービスが実現されています。

 国際ローミングにも対応しています。ホームセキュリティや気象観測、水道メーターの検針、漏水検知、駐車場の空き状態管理(スマートパーキング)などに活用されています。

〈LoRaWAN〉
 米国の半導体メーカーSemtechの無線変調方式LoRa(Long Range)を活用した技術が「LoRaWAN」です。2015年に設立された標準化団体であるLoRa Allianceにより、普及拡大が推進されています。

 同時期に開発されたSigfoxがパートナー事業者を通じて、通信回線サービスとして提供されているのに対して、LoRaWANでは利用者がネットワークを構築し、センサーなどのIoT機器をゲートウェイに接続することで無線通信を行います。データの伝送距離は10~15km、通信速度は250bps~50kbpsです。

 IoT機器やゲートウェイ、サーバーなどを自社で揃えることで、柔軟性のあるセキュアな通信ネットワークを構築できることが大きなメリットです。

〈ELTRES〉
 「ELTRES(エルトレス)」は、ソニーセミコンダクターソリューションズ株式会社が開発したLPWAで、2019年秋から日本国内で本格的な商用のIoTネットワークサービスが始まりました。

 通信方式は、端末側からの上り一方向。GNSS衛星の高精度な時間情報を使用して、送信側の端末と受信局側で同期通信を行うことにより、混線があっても同期が乱される可能性を大幅に抑え、安定した通信を可能にしています。

 電波干渉を受けにくい周波数ダイバーシティ技術などを採用する共に、高いセキュリティ機能も搭載しています。障害物のない状態で100km以上の長距離伝送を可能としました。

 また、LPWAでは数少ないハンドオーバー機能に対応した規格で、時速100km以上で高速移動していても通信できる規格です。

〈ZETA〉
 イギリスのZiFiSenseにより開発された規格が「ZETA」です。LPWAとしての特徴に加えて、中継器を用いた広域での分散アクセスが可能なメッシュ型ネットワークを採用したIoTインフラ環境を構築できることが利点です。

 2kHzの超狭帯域でも利用が可能なので電波干渉に強く、高い信頼性を持たせています。他の主要なLPWAが採用するスター型ネットワーク(センサーと基地局が直接通信)と比べ、メッシュ型ネットワークベースのZETAは電波がつながりにくい場所でも中継器により代替経路を確保できるので、伝送距離を延長することが可能です。

 また、データ暗号化による高いセキュリティを確保しており、通信速度は100bps~50kbps、伝送距離は障害物がない状態で10km~20km。2018年に国内企業4社で発足したZETA Allianceは、日本・中国系企業を中心に会員数を順次増やしており、日本の参画企業・団体数は2025年11月時点で計75社・団体となっています。

〈Wi-Fi HaLow〉
 2017年に策定された「Wi-Fi HaLow(IEEE802.11ah)」は、 Wi-Fiベースの規格です。データ伝送距離は1kmですが、920Mhz帯を用いて低消費電力が実現されていることから非セルラー型LPWAに分類されています。日本では2022年に電波法の改正に伴って利用が可能になりました。

 従来のWi-Fiとの高い互換性があり、通信速度は数Mbps(実効速度で100kbps~1Mbps程度)と、LPWAとしては高速です。一般的には高画質の映像データの伝送には3Mbps以上が必要といわれますが、同規格では解像度を下げ電波の送信間隔を間引くことにより、画像や映像の送信も検討可能としています。

 実際、Wi-Fi HaLow対応のアクセスポイントを活用して、企業の敷地内にネットワークカメラを複数台設置し、得られた映像の伝送について検証を行うといった事例が報告されています。

 今後は、こうしたネットワークカメラを配備しての地域の見守り体制の構築や、広大な敷地を持つ農場が荒らされないような定点観測なども可能になりそうです。なお、日本では、2018年に設立された802.11ah推進協議会が普及拡大に取り組んでいます。

〈Wi-SUN/Wi-SUN FAN〉
 もともと「Wi-SUN(*3)」は、スマートメーターやHEMS(家庭内エネルギー管理システム)向けの技術でした。その拡張版として開発された規格が、「Wi-SUN FAN(*4)」です。
(*3)Wireless Smart Utility Network
(*4)Wireless Smart Utility Network for Field Area Network

 Wi-SUN FANは、広いエリアでの利用に特化したメッシュ型ネットワークを採用しており、通信速度は最大300kbps、データ伝送距離は25kmです。建物や電波が届きにくい場所が多い都市部を含め、広域な通信エリアでのワイヤレス通信環境の実現を可能とします。

 こうした特徴から、Wi-SUN FANは次世代のスマートメーターやスマート街路灯向けなどをはじめとして、さまざまな分野での活用が見込まれています。
 

ここがポイント!
●LPWAは「Low Power Wide Area」の略称で、少ない消費電力で長期間の遠距離通信を可能とする技術の総称である。
●センサーを介してデータを収集するIoTとの相性がよく、IoTインフラ向けで導入が進む。
●さまざまな規格があり、大きくは「セルラー(ライセンスバンド)型」と「非セルラー(アンライセンスバンド)型」に分類される。
●セルラー型は通信事業者が4G/LTEをIoT向けに最適化した規格で、「LTE-M」や「NB-IoT」などがある。
●非セルラー型は免許不要の920MHz帯を用いた技術で、「Sigfox」や「LoraWAN」、「ELTRES」などさまざまな規格が提供されている。
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