デジタル変革(DX)を学ぶ

2025.01.27 14:20

最新版「デジタルガバナンス・コード3.0」とは
自主的なDX経営により企業価値向上を目指すための指針

 経済産業省が、「DXレポート(*1)」を初めて公開したのが2018年のことです。同レポートでは、“2025年の崖”問題が指摘され、多くの事業者にインパクトを与えました。いよいよ、その年が到来したわけです。しかし、中小企業においてはDXという言葉の認識は十分に広まったものの、DXに取り組む事業者はまだまだ少ないのが現状でしょう。
 (*1)継続的にアップデートされており、2022年7月に「DXレポート2.2」が公開され、DX推進に必要なアクションが示されている

 DX推進に取り組めていない中小企業が挙げる阻害要因には、「人材が不足している」「予算がない」「どこから手を付けてよいか分からない」といった点が挙げられています。

 単に業務のデジタル化により生産性向上や作業効率化にとどまらないDXの本質は、全社レベルで戦略的に取り組むべきもの。それだけに、取り組みの方向性を見失い、どう進めていけばよいか分からず路頭に迷ってしまうケースも少なくありません。

 業務の自動化や効率化、コスト削減、生産性アップといったDX推進の部分的な取り組みは効果を出しやすいですが、企業文化の変革や価値向上といったDXの本質を追求するうえでは、何らかの方針や指針を自社内で明確にし策定する必要があります。このための指針として参照したいのが、「デジタルガバナンス・コード」です。DXの基本的な考え方や位置づけ、その推進における重要なポイントや方向性などがまとめられています。

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経済産業省による「デジタルガバナンス・コード」に沿ったさまざまなDX推進施策

 経済産業省は産業界のDXを推進するべく、さまざまな施策や支援制度を提供しています。その中、デジタルガバナンス・コードは企業規模を問わずDXに取り組む際の最もベースとなるものであり、入り口的な役割を担うものです。他のDX関連の施策は、同コードに沿う形で展開されています。

 デジタルガバナンス・コードについて、経済産業省は「顧客や投資家などの視点にも留意しつつ、経営者がITシステムとビジネスを一体的に捉え、持続的な企業価値の向上に向けて実践するべき事柄」と定義しています。つまり、デジタル時代の企業経営を健全に行うために経営者が取り組むべき原則や指針ということになるでしょう。

 時勢の変化に合わせて同コードも継続的に更新されており、最新版は「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」です。

 その副題が示すように、デジタルガバナンス・コードに沿ったDX経営に取り組み、DX推進を通じて得られる企業価値の向上にフォーカス。DXによる企業価値の向上を進めるうえで、経営者に求められるビジョンや戦略などを取りまとめた指針であり、これに則うことでDXを確実に推進していくことが可能となるわけです。

 以下、このデジタルガバナンス・コードの基本的な内容や考え方などについて、デジタルガバナンス・コードの最新版をもとに説明していきます。

最新版で「3つの視点と5つの柱」に再構成

 前述したように、デジタルガバナンス・コードの最新版はバージョン3.0となります。2024年9月に改訂されました。従来のバージョン2.0(2022年9月公開)から、どのように変わったのでしょうか。大きくは、下記の3つです。

“DX経営による企業価値向上”を強調
デジタルガバナンス・コードの全体像を「DX経営に求められる3つの視点・5つの柱」という形でわかりやすく再構成し、経営者への訴求力を向上
データの活用・連携、デジタル人材の育成・確保、サイバーセキュリティ対策の重要性をさらに強調

 特に、大きなポイントとなるのは、“DX推進による企業価値の向上”に焦点を当て、経営者向けのメッセージを序文に追加するなど、その重要性をアピールする内容にしたこと、新たに「DX経営に求められる3つの視点」(後述)を追加してデジタルガバナンス・コードの全体像を整理し直し、わかりやすくした点でしょう。下図にその全体像を示します。

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デジタルガバナンス・コードの全体像(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」から引用)

 また、従来版(バージョン2.0)はデジタルガバナンス・コードの大きな柱を4本立てとしていましたが、今回、内容や名称を見直して、以下のような5つの柱として再構成されました。

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デジタルガバナンス・コードの柱立ての見直し(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0改訂のポイント」から引用)

 5つの柱の一つである②DX戦略の推進においては、「組織づくり」や「ITシステム・サイバーセキュリティ」の他、新たに「デジタル人材の育成・確保」を加えた3つの項目に分けることにより、DX推進ではデジタル人材が重要であることが強調されています。

 個々の柱の構成については、従来版では(1)「基本的事項」(2)「望ましい方向性」(3)「取組例」となっていましたが、バージョン3.0では(3)が(2)に統合され、分かりやすさを重視した形となりました。

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デジタルガバナンス・コードの構成の見直し(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0改訂のポイント」から引用)

 デジタルガバナンス・コードの骨格を形成している「DX経営に求められる3つの視点・5つの柱」の内容を下記に示します。

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「デジタルガバナンス・コード3.0」における3つの視点(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」、編集部で一部加筆)
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DX経営に求められる5つの柱(基本的事項のみ)(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」、編集部で一部加筆)

 最新版となる3.0では前述した通り、新たにDX経営のキーポイントが3つの視点という形で追加されました。ここでは、DX戦略の策定・実行に際し、経営者は常に経営ビジョンとのつながりを念頭に置くことが欠かせません(表1の①)。また、DX戦略と経営ビジョンが連動できているかどうかを、指標となるデータの収集・活用を通じて判断し、その結果に基づいてDX戦略を絶えず見直すことも必要ですし(同②)、DX戦略の策定には、持続的な企業価値の向上につながる企業文化を醸成していくという観点も大切です(同③)。これらの視点をもとにDX経営に取り組むことが企業価値の向上に欠かせないとしました。

 これら3つの視点は、2020年に公表された「人材版伊藤レポート(*2)」と呼ばれる報告書の中で示された「人材戦略における3つの視点」の考え方を基にしたものとなっています。
(*2)通称。内容を深掘りした「人材版伊藤レポート2.0」が2022年に公表されている

「人材版伊藤レポート2.0」とは?
 人材の確保・育成があらゆる企業において重要な課題となる中で、経済産業省は持続的な企業価値の向上に向け、経営戦略と連動した人材戦略をどう実践するかという観点から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会(座長:一橋大学・伊藤邦雄CFO教育研究センター長)」で検討を進め、2020年9月に報告書をまとめました。

 同報告書は通称、「人材版伊藤レポート」と呼ばれ、その後の企業の人事・人材戦略に大きな影響を及ぼしたといわれています。2022年に公表された「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」では、実践的なアイデアや具体的な事例、施策、視点が事例集と共に盛り込まれています。

 この人材版伊藤レポートにおいて提唱されたのが、「人材戦略における3つの視点」と、「人材戦略の具体的な内容における5つの共通要素」です。

 前者は、「経営戦略と連動しているか」「目指すべきビジネスモデルや経営戦略と、現時点での人材や人材戦略とのギャップを把握できているか」「人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか」の3点が挙げられています。これらの考え方が、デジタルガバナンス・コード3.0にも取り入れられました。

 また、後者では、「動的な人材ポートフォリオ(多様な人材が活躍できるポートフォリオを構築できているか)」や「社員エンゲージメント(社員の貢献意欲に基づく企業との絆の強さ)」、「時間や場所にとらわれない働き方」など人材戦略にかかわる具体的な5つのポイントが示されています。

 そして、最も重要な点は「経営戦略と人材戦略の連動」であり、そのための取り組みに着手すると共に、絶えず課題を見い出し、優先順位を付けて改善を重ねていくことをやり続けることが大切だと指摘しています。

 これらの人材に関連したポイントはDX推進とも連動することにより、企業や組織におけるワークスタイルの変革へと深化しつつあります。

 DX推進においても、人材戦略(デジタル人材の育成・確保)は非常に重要な課題ということもあり、デジタルガバナンス・コード3.0では、人材版伊藤レポート2.0における3つの視点と整合性を持たせる形で「DX経営に求められる3つの視点」を追加し、全体像が再構成されたわけです。

理解を深めるために併せて読みたい「実践の手引き」

 では、どのようにデジタルガバナンス・コードを活用していけばよいのでしょうか。経営規模や経営課題、従業員の習熟度、デジタルに対する意識など、企業により条件はバラバラです。このため、デジタルガバナンス・コードという基本ガイドラインを絶えず参考にしながら、個々の企業のニーズや条件に応じて合わせ込みを行い、最適な解を探して行く必要があります。

 デジタルガバナンス・コードでは、企業のDX戦略について、経営ビジョンの実現に向けた戦略そのものととらえる必要があると指摘します。

 そのためには、経営者が積極的に関与することが極めて重要で、経営者は「DXに投じる資金はコストではなく、価値創造に向けた投資」「DX推進はIT部門ではなく、経営陣や取締役会の役割」とし、自社のDX戦略について「社内外のステークホルダーと積極的な対話を行う」ことが求められるとしており、経営者の取り組み姿勢や意識がいかに大事かを強調しています。

 大切なことは、DX経営を行う主体は経営者であり、DX推進は経営陣や取締役会の役割であること。そして、経営者が積極的に取り組むことでDX推進の担当者や従業員を動かしていくリーダーシップが不可欠ということ。そうした経営者の意識改革があってこそ、DXが前進する第一歩となるのです。

 デジタルガバナンス・コードは、企業のDX推進に関する一連の取り組みがブレたり違う方向に向かったりしないようにするための道標(道しるべ)であり、経営者はデジタルガバナンス・コードを率先して活用することが大切です。そして、経営者はそこで示された基本的な考え方を常に念頭に置いて、積極的に取り組むことが必要でしょう。

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「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」には、本体に加えて、「要約版」も用意されている。経済産業省のサイトからダウンロードが可能

 なお、デジタルガバナンス・コードに取り組む際、「中堅・中小企業等向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き」が役立ちます。経済産業省が策定したもので、DXの基礎やステップを踏んだDXの進め方、全国各地のDXに取り組む13の企業事例、DX成功に向けた6つのポイントなどが記載されています。

 最新版は「デジタルガバナンス・コード実践の手引き2.1」 です。また手引き本体が80ページにも及ぶボリュームがあるため、19ページにポイントがまとめられた「要約版」も用意されています。

 デジタルガバナンス・コードと合わせて活用することにより、DXに対する理解を深めることができるはずです。自社のDX推進の参考として役立てたいところです。
 

ここがポイント!
●経済産業省は企業のDX推進を促すため、2020年に「デジタルガバナンス・コード」を公開。
●最新版「デジタルガバナンス・コード3.0」は、DX経営による企業価値の向上を目指すガイドライン的な位置付け。
●3つの視点と5つの柱に再構成され、より分かりやすい体系に進化。
●経営ビジョンとDX戦略を連動させて、経営者が積極的に関与して取り組むことが重要と指摘。

外部リンク

経済産業省「デジタルガバナンス・コード」 経済産業省 ニュースリリース:「デジタルガバナンス・コード3.0」策定 中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き
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