デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.07.22 14:22

【5分でわかる】世界で続く半導体不足の本質は?
なぜ?いつまで?知っておきたい基礎をわかりやすく解説

半導体は、わたしたちが毎日のように使うパソコン、スマートフォン、タブレットだけでなく、あらゆる家電に組み込まれています。AIや自動運転技術の技術にも欠かせないものになっています。半導体なくして産業も生活も成り立たないと言えます。

しかしここ数年、「半導体不足」が大きなニュースになっています。

いったいなぜでしょうか。そして先行きはどうなるのでしょうか。中小企業も知っておかなければならない基礎を解説していきます。

半導体不足は「突然」始まった

モノに恵まれている現代のわたしたちにとって、自然災害を除けば特定のモノがあるときから突然手に入らなくなる、ということはあまりありません。

しかし、半導体は「ある時をきっかけに突然」と言っても過言ではないかたちで不足し始めます。

最新技術のブームで半導体需要はもともと上昇

元々、半導体の需要は世界的に急激な右肩上がりの状況にありました。今、IoTや5G、スマートシティ、AI、自動運転といったさまざまな技術に関するワードが飛び交っています。それらはすべて大量の半導体の存在を前提にしたものであり、半導体の需要を大きくけん引し続けています。

世界の技術革新と半導体需要の関係 (出所:「ゲーム機や自動車などが品薄に。深刻な「半導体不足」がなぜ世界中で起きているのか?」野村證券EL BORDE) https://www.nomura.co.jp/el_borde/article/0003/

よって、「半導体を制する者が世界を制する」とも言われ、世界で国を挙げた生産競争が続いていました。

しかし、20年に世界が予測しない出来事が起きてしまいます。新型コロナウイルスのパンデミックです。

最新技術のブームで半導体需要はもともと上昇

各国半導体に力を入れていたとはいえ、コロナ禍では急に大きな行動制限がかけられ、半導体工場の操業停止や物流の停滞が生じました。

一方でリモートワークの導入などで半導体の需要は急拡大し、20 年から 21年にかけて、データセンターの投資額は前年比20.7%増、PCの需要台数は同8.3%増、スマートフォンの販売台数は同3.9%増とそれぞれ増加しています(*1)。

生産活動が制限される一方で需要が急増するという、大きなギャップが生じたのです。

どれだけ大きな工場を持っていても、国が発する行動制限にはかないません。

2020年に需要拡大した主な半導体 (出所:「ゲーム機や自動車などが品薄に。深刻な「半導体不足」がなぜ世界中で起きているのか?」野村證券EL BORDE) https://www.nomura.co.jp/el_borde/article/0003/

わたしたちの身近なところにも影響がありました。「巣ごもり需要」と言われる中で、任天堂のゲーム機「Switch」が品切れになったことが記憶に新しい方もいらっしゃるでしょう。これも半導体不足が一因でした。「Suica」や「Pasmo」など交通系ICカードの新規発行が止まっているのも半導体不足が原因です。

*1 「コロナ特需に翻弄されるメモリ半導体」三井住友信託銀行 https://www.smtb.jp/-/media/tb/personal/useful/report-economy/pdf/135_3.pdf p2

増産体制の限界

もちろん、世界の半導体メーカーは増産の方法を考えます。しかし、半導体の生産には特徴があり、ことはそう簡単にはいきません。

半導体は製造工程が多く、材料から最終製品のチップを仕上げるために半年近くの時間を必要とします(*2)。すぐにできるものではないのです。

そして半導体メーカーにも生産計画があります。計画を変えたとしてもそれが製品に反映されるのは半年後です。

よって行動制限がある程度緩和されて以降も、半導体不足はしばらく続くことになります。

このタイムラグに大きく影響されたのが自動車業界です。現代の最新の自動車には、数千個の半導体が搭載されています(*3)。

コロナ禍で自動車の売り上げが落ちた自動車メーカーは、当初は半導体を含めて部品をキャンセルしていました。よって半導体メーカーも自動車向けではなく、需要の高いPC向けの製品に生産力を振り分けていました(*3)。しかし、自動車の売り上げが思わぬペースで回復してしまい、自動車メーカーは急いで増産体制に入ろうとしましたが、その時には半導体の在庫が尽きてしまっていたのです。

生産体制と半導体の在庫が一致しなかった自動車メーカーは長期にわたって半導体不足に悩まされることに(photo by Micheal Fousert/Unsplash)

先ほどご紹介した通り、半導体は注文から納品までに長い時間がかかります。ですから在庫が尽きてそこから慌てて注文をしても遅かった、というわけです。半導体メーカーに対する自動車業界の交渉力も弱いものになってしまいました。

*2 「半導体不足、「急増産」に立ちはだかる2つの壁」東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/409482

*3 「半導体不足は解消に向かうも、「複雑なサプライチェーン」が新たな“壁”になる」産経新聞/WIRED https://www.sankei.com/article/20220814-UA7RYW3DXBKR3G3BEHN774XYRA/2/

半導体不足はいつまで続く?

では、今は行動制限もほとんどなく様々なものが日常に戻りましたが、足元の半導体の需給はどのようになっているのかを見ていきましょう。

需給が落ち着いても、生成AIブームが需要を牽引

ここ数年の世界の半導体市場は下のようになっています。

コロナ後の半導体売上高等の推移 (出所:「世界の半導体市場の回復はまだら模様、設備投資の牽引役は中国」JETRO) https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/0501/ae6e0a26429b1c87.html

22年後半には半導体の売上高、また赤の線グラフで示されている売り上げの伸び率は大きく減少しています。

ただ、これはコロナ禍真っただ中に需給が逼迫した反動とみることもできます。需給のバランスが一度落ち着いたということでしょう。

そして23年前半に売上高、伸び率ともに底を打ち、浮上しています。

「ChatGPT」をきっかけに生成AIが急速に普及し、サーバー向けの需要が増加しているためです(*4)。
また、中国での需要が市場を大幅に牽引しています。

国・地域別の半導体装置需要の推移 (出所:「世界の半導体市場の回復はまだら模様、設備投資の牽引役は中国」JETRO) https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/0501/ae6e0a26429b1c87.html

中国は他国の企業に頼らない独自の生成AI開発にも力を入れているといった影響もあると考えられます。

現在はいったん落ち着きつつあるものの、今後も半導体の需要は伸び続けるとみていいでしょう。

価格上昇の波と半導体をめぐる複雑な事情

半導体の需給ギャップは、一度は落ち着いたとはいえ、今後も落ち着いた状態が続くとは言い切れません。

23年後半から、今度は値上がりの波が広がってきたのです。

半導体には様々な種類がありますが、代表的な半導体である、PCなどに欠かせない「DRAM」の価格が23年11月に2年5か月ぶりに上昇しています(*5)。

コロナ禍ののちに一気に増産したものの、その後在庫を抱えがちになっていた半導体メーカーですが、新たな技術の登場などで再び需要に応えなければならなくなったというのが値上がりの背景です。

半導体メーカーこそ、コロナをきっかけに翻弄されてきたと言えるかもしれません。

なお半導体の値上がりが続けば、いずれはパソコンや家電といった最終製品の値上がりにつながりかねません。

*4 「世界の半導体市場の回復はまだら模様、設備投資の牽引役は中国」JETRO) https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/0501/ae6e0a26429b1c87.html

*5 「半導体メモリー2年半ぶり値上がり」日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO77233470V21C23A2NN1000/

半導体にまつわる、今後も続くリスク

そして、半導体不足を招いたのはコロナ禍が主な事情とはいえ、当時、半導体不足を後押しするほかの出来事もありました。

21年2月にはアメリカ・テキサス州で強い寒波が発生して電力供給が途絶え、半導体工場が生産停止に陥りました。さらに世界での半導体シェアナンバー1の台湾で深刻な水不足が生じ、減産を強いられました。日本でも大手ルネサスの主力工場で火災が発生し、3か月以上もの長期にわたって生産停止に追い込まれています。

そしてもうひとつは、政治の要因です。米中の貿易摩擦が勃発しました。

アメリカのバイデン大統領は22年10月に、先端半導体や半導体製造装置の中国への輸出を規制する措置を打ち出しました。

しかし、中国は反撃に出ます。23年の8月から、半導体の重要な原材料になるガリウムやゲルマニウムといった鉱石関連品について、輸出許可の取得を義務化するといった、事実上の輸出規制を設けたのです。

中国からこれらの原材料を輸入していた半導体メーカーにとっては、大きな打撃です。

また、この米中の分断によって台湾のシェアが大きく崩れるとの予測もあります(*6)。

台湾の大手メーカーであるTSMCが熊本県に工場を建設したのはご存知のことと思います。実は、日本政府はTSMCの2つの工場に合わせて1兆2000億円を支援する見通しです(*7)。 日本政府がここまで多額の補助金を捻出するのには理由があります。日本国内での半導体製造能力を確保したいためです。

このように、半導体の需給バランスや価格は、今後も何をきっかけに大きく変動するかはわかりません。デジタル製品の生産量や価格にも影響する可能性があります。

よって、デジタルの導入は相場が安定しているうちに進めておくのが良いでしょう。

そのためにも、日々のニュースや動向はチェックしておきたいものです。

*6 「米中分断で崩れる「台湾独占」、シェア7割の最先端半導体が32年に47%に」日経クロステック https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/09332/

*7 「TSMC熊本第2工場に7300億円 経産省が整備費補助」日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA22AU20S4A220C2000000/

ここがポイント!
●半導体不足はコロナ禍による行動制限やサプライチェーンの乱れから始まった。
●現在は解消しつつあるものの、生成AIなどのブームで今後も半導体の需要は伸びる。
●気候や政治情勢も半導体の価格や生産に影響を与える。
●日頃から関連ニュースはチェックしておきたい。
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