デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.06.11 11:50

展示会レポート◎第4回デジタル化・DX推進展
専門性を高めた構成展示に課題解決ツールが集結

 デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)やデジタルシフトがビジネスにおいて話題を集める中、「第4回デジタル化・DX推進展(ODEX/*1)」が開催されました。
(*1)東京ビッグサイト/会期:5月30日~5月31日/運営:イノベント

 ODEXは、「EXPO」と呼ばれる専門性を高めた業務領域ごとの展示構成となっており、幅広い情報を効率的に収集することが可能となっています。具体的には、「自治体デジタル化支援EXPO」「セールス高度化・効率化EXPO」「人事・労務・採用EXPO」「経理・財務サポートEXPO」「リーガルテックEXPO」「経営戦略EXPO」「社内業務効率化EXPO」「オフィス環境改善EXPO」の8つのEXPOで構成されたB to B展示会です。

 会期中、業界を牽引するプラットフォーマーからスタートアップまで、幅広い企業が700製品以上(*2)を展示。50を超える特別講演や専門セミナーの併催とあいまって、会場には多くの来場者が足を運んでおり、DXやデジタルシフトに対する関心の高さを実感しました。
(*2)東京会場とオンライン展の延べ出展製品数

 本稿では、多数の出展者が展開した膨大なデジタル化・DX向け製品やソリューションから、中小企業とも関わりの深いものをピックアップして紹介していきましょう。

リード管理、SFAやMAでセールスを高度化・効率化

 まず、セールス高度化・効率化で目を引いたのは、Sansan株式会社の営業DXサービス「Sansan(サンサン)」とSky株式会社の営業支援・名刺管理サービス「SKYPCE(スカイピース)」。いずれもビジネスにおける名刺情報を社内で管理・共有し、営業活動や取引拡大へつなげていくための製品です。

 名刺管理サービスといえば、名刺アプリ「Eight」を最初に思い浮かべる読者も少なくないでしょう。Eightを展開するSansanが法人向けに提供しているサービスが営業DXサービスSansanです。

 営業DXサービスSansanは、名刺やEメールなどの接点情報を全社で共有できるデータベースとして構築するためのプラットフォーム。さまざまな接点情報を顧客情報として一元的に管理し、セールス・フォース・オートメーション(Sales Force Automation/以下、SFA)やマーケティング・オートメーション(Marketing Automation/以下、MA)との連携により、ビジネス機会の最大化や生産性向上などの実現を可能とします。

 同社のメインブースでは、Sansanがどのような機能を備え、何を可能とするのか実際のソリューションを前に説明されていました。

営業DXサービスが展示されたSansanのブース(同社は他にも、インボイス管理サービス「Bill One」や契約データベース「Contract One」などの自社製品を、それぞれ個別ブースで紹介)

 Sky株式会社の「SKYPCE」も名刺管理サービスです。基本的なコンセプトや機能に大きな差はありませんでしたが、「SKYPCEはユーザーインターフェイスやセキュリティが特徴」(Skyのブース説明担当者)とのこと。個人的に興味を引いたのは、セキュリティに関するものです。

 クラウドサービスなどでは一般的にログイン画面は共通URLであることが多いですが、SKYPCEではユーザーごとに異なるためログイン画面が検索されるリスクは低減されます。また、サービスの契約を止める際、名刺画像を含めてすべてのデータ返却が可能(有償)な点はなかなか面白いのではないでしょうか。

Skyは、営業支援・名刺管理サービス「SKYPCE」や情報漏洩対策ソフトウェア「SKYSEA」などを展示
営業支援・名刺管理サービス「SKYPCE」の画面

 また、SFAやMAのソリューションやツールも多数展示されていました。名刺やメール、Webといった顧客との接点情報は端的にいえばリード(見込み客)であり、これを管理するツールの一つが名刺管理サービスです。

 最終的な成約へとつなげていくには、リードナーチャリング(見込み客の育成)が必要です。これを効率よく行うための仕組みがMAであり、営業活動に伴う情報や業務プロセスのデータ化や自動化により蓄積・分析することで営業効果を最大化するシステムがSFAです。

 加えて、顧客との継続的な関係を構築するためのソリューションがカスタマー・リレーションシップ・マネジメント(Customer Relationship Management/以下、CRM)です。

 MAやSFA、CDMには多くのベンダーから多様な製品が提供されており、SATORI株式会社のMAツール「SATORI」や株式会社ジーニーの営業管理ツール「GENIEE SFA/CRM」などが展示会場で紹介されていました。

 興味を引いたいのは、SATORIです。MAではリード不足が課題視されることも多いですが、MAツールのSATORIは実名リードに対するメールや電話でのアプローチだけでなく、圧倒的に多い匿名リードを管理してアプローチすることも可能としています。

 同社の調査によると、Webサイトにアクセスするユーザーの97%は個人情報が非開示の匿名リードとのこと。匿名リードも見込み客のはずであり、この層にアプローチできるとなれば営業機会を大幅に増やすことも期待できそうです。

SATORIの展示ブースでは、説明担当者がマーケティング・オートメーションについて詳細に解説
匿名リードを「ナーチャリング」するというSATORIのコンセプト

経理・財務サポート&社内業務効率化

 インボイス制度のスタートや改正電子帳簿保存法の電子取引のデータ保存義務化の宥恕期間の終了を背景に、経理や財務のデジタルシフトやDXへの関心が高くなっています。今回の展示会でも、経理・財務サポートEXPOに足を運んだ来場者は熱心に耳を傾けていました。

 出展企業としては、株式会社ラクスや株式会社TOKIUM、マネーフォワード株式会社が名を連ねました。いずれも経費精算や会計ソフト、請求書・領収書等の電子保存管理システムなど、経理周りの製品を展開しています。

 各社の製品にはそれぞれ特徴がある中で、感心したのはラクスが手がける経費精算クラウド「楽楽精算」や帳簿保存クラウド「楽楽電子保存」などです。機能面でいえば他ツールと大きく変わる点はないのですが、ユーザー側で設定できるカスタマイズ性の高さに注目しました。

 中小企業がビジネスアプリケーションを導入するうえで直面する課題の一つに、業務フローの変更が挙げられます。導入したアプリケーションに合わせて、自社の業務の流れや手続きを変更しなければならないケースは少なくありません。

 アプリケーションの業務フローをベストプラクティスとして自社のフローを変えることも一つの考え方ですが、もともとの自社業務に寄せたいという事業者も少なくないでしょう。この点、ラスクの製品はユーザー設定の項目や機能が多彩で、企業ごとのワークフローにかなり近い状態を再現できそうだと感じました。

 また、社内業務効率化EXPOでは、アプリケーションの開発・運用・分析をノーコードで実現するプラットフォームを提供する株式会社ヤプリ、SaaSプロダクトの研究から開発、カスタマーサクセスまでワンストップで手がける株式会社Helpfeel、帳票基盤サービスや文書管理ソリューションなどを展開するウイングアーク1st株式会社などが出展していました。

ヤプリは、「Yappli UNITE」を展示。Yappli UNITEは組織エンゲージメントを向上させるアクション(社内施策)を自社アプリで実現するサービスで、ノーコードの「Yappli」と「Yappli CRM」を組み合わせて構築される

 その中、株式会社Marsdyの数値管理ソリューション「AutoDate」に注目しました。AutoDateとは、端的にいえば数管理・更新や経理数値の集計、営業進捗管理・更新といった業務を丸投げできるアウトソーシングサービスです。

 一般的に、こうした業務はロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation/以下、RPA)などで自動化されますが、RPAを導入してもワークフローのどこかの部分に人手が残ってしまうことが課題とされています。

 AutoDateでは、RPAやSaaSツールだけでは完結できない部分について、同サービスを提供するMarsdy側がマニュアル処理することでサービスを利用する企業は完全自動化を実現できるという点が大きな特徴です。サービス提供側がRPAと人を組み合わせた完全自動化を実現するという発想は実に面白いといえるのではないでしょうか。

RPAと人の組み合わせによる完全自動化サービス「AutoDate」を提供するMarsdyのブース

法務関連や人材活用でも進むデジタル化とDX

 ここ数年、法令関係の改正が相次いでおり、2024年11月からはフリーランス保護法が施行されます。今後、中小企業も契約周りの業務として、企業を守る法務には注目しておく必要があるでしょう。

 そうした中で気になったソリューションが、リーガルテックEXPOで紹介されていた株式会社リセの契約書レビュー支援AIクラウド「LeCHECK(リチェック)」です。

 LeCHECKは、和文契約書・英文契約書をクラウドAIにより自動チェックしリスク箇所を指摘して解説する契約書レビュー支援サービス。抜け漏れの指摘や代替案の提示、不利な条項や抜けている条項の指摘といった支援が提供されます。

 レビューは一文単位で、30人を超える専門弁護士の知見が集約されたAIによる精度と品質の高さが特徴とのこと。契約書レビューの対応類型数は和文・英文合わせて80種類以上、契約書のひな型は800種類以上が用意されています。

契約書レビュー支援AIクラウド「LeCHECK(リチェック)」を展開するリセのブース

 働き方の多様化や労働力の流動化、リスキリングなどをキーワードに、人材活用・管理においてもデジタルシフトやDXの波は押し寄せています。

 人事・労務・採用EXPOでは、株式会社SmartHRや株式会社カオナビ、株式会社プラスアルファ・コンサルティングなどがブースを設けていました。製品としては労務管理システムなどが多い印象でしたが、従来以上に人材活用が重視されるようになってきたこともあり、タレントマネジメント(以下、TM)系の製品も目を引きました。

 TMとは、従業員の能力や資質、才能、スキルや経験値(こららの総称がタレント)などの情報を人事管理に含めて一元的に管理することで人事や人材開発を戦略的に行うことであり、これをデジタル管理する製品がTMシステムです。

 展示会場では、プラスアルファ・コンサルティングが大手で実績の高いTMシステム「タレントパレット」を中小企業向けに最適化して提供予定の「タレントパレット人事労務DX Light」や、カオナビが人材管理システム「カオナビ」を紹介していました。

プラスアルファ・コンサルティングは「タレントパレット」に加えて、近々に提供予定の「タレントパレット人事労務DX Light」を紹介
TMシステム「カオナビ」と、新たに提供を開始した「カオナビ労務」を紹介していたカオナビのブース
メインの講演会場で開催された特別講演は、ほぼ満席。画像は「田舎企業がIT人材ゼロからDX日本一へ~リスキリングの成功~」講演時の会場内
特別講演や専門セミナーも開催
展示会場と共に、来場者の関心を集めたのがさまざまな講演やセミナーです。特別講演や自治体特別講演、専門セミナーなど50を超えるテーマが用意された他、各出展者ブースでも自社ソリューションに関連したミニセミナーが開催されていました。

いくつか聴講した中で、特別講演「田舎企業がIT人材ゼロからDX日本一へ~リスキリングの成功~」は、興味深いものでした。

同講演は、精密切削加工を手掛ける中小企業の松本興産(埼玉県秩父市)がIT人材不在という状況下にあって、社員のリスキリングにより自社だけでDXを成功させた取り組みを紹介したもの。      
     
過去にベンダーを活用してシステム化に取り組むも失敗した経験から、自社でDXに着手。「ちょうちょモデル(パーパス/数値戦略/会計思考)」と呼ぶ独自の経営戦略をベースに、アプリの自社開発や社員の意識改革に取り組み、DXによる目標の一つであった4000万円のコスト削減などを達成したとのことです。中小企業にとって大いに触発される事例ではないでしょうか。
メインの講演会場で開催された特別講演は、ほぼ満席。画像は「田舎企業がIT人材ゼロからDX日本一へ~リスキリングの成功~」講演時の会場内

 今や、デジタルシフトやDXを推進するソリューションは百花繚乱です。事業や業務の何をデジタル化しDXを推進していくかは重要ですが、同時に自社に適したツールやソリューションを選択することもプロジェクトを成功させるには欠かせません。

 この意味で、さまざまなツールやソリューションが一堂に会する展示会やイベントは専門性が高く、幅広い情報を効率よく収集するのに適しています。

 今回のODEXはリアルとデジタルのハイブリッド開催となっており、東京会場でのイベントは終了しましたが、オンライン会場(オンライン展示会特設会場)については2024年6月10日(月)~6月14日(金)まで開催されています。また、11月には大阪会場での開催も予定されています。デジタル化やDX推進の参考にしてはいかがでしょうか。

外部リンク

デジタル化・DX推進展(ODEX)の公式ホームページ
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