デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.05.15 12:00

中小企業こそ急ぎたい「BCP」の策定
デジタル時代には、災害からのデータの守り方も考えよう

 「災害大国」と言われる日本では、地震、台風、豪雨など、いつどこで大きな被害に遭うか分かりません。

企業の場合、社員の出勤が不可能になったり、電気や通信機能といったインフラが断絶したりすると、企業活動も一時的に停止を余儀なくされることもあります。

こうした中、被災状態からいかに早く事業を復旧するかをあらかじめ定めておくBCP(事業継続計画)の策定が急務になっています。BCPの策定には、設備投資などの際に低金利の融資を受けられるなどのメリットがあります。

また、人的・物理的な問題だけでなく、今は売上や顧客などのデータが企業活動で重要な位置を占めつつあります。デジタル時代の企業防災について気をつけるべきことと、成功事例をご紹介します。

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災害で起きる企業活動への影響は自社だけでなく、協力会社や部品仕入れ先などにも及ぶ。BCP策定にはそうした影響も盛り込む必要がある

もしあなたの会社が大災害に巻き込まれたら、どんな影響が考えられるでしょう?

電気・ガス・水道といったインフラのストップ、社員の出勤の足への影響、社屋や工場の機器の損壊や故障、といったことが真っ先に浮かぶでしょうか。

しかし、それだけにとどまりません。あなたの会社に影響がなくても、物流が混乱したり、部品などの仕入れ先が被災したり、ということもあります。

「企業活動」とはこれら全てを含めて考えなければなりません。

また、企業活動は人的や物理的な要因だけでなく、近年はデジタル機器やデータにも頼ることが増えています。普段使っているデータがすべて失われたら?これも大問題になるでしょう。サイバー攻撃を受けることも「被災」といえます。

 デジタル時代のBCPの在り方を考えてみましょう。

BCPとは

BCPとは「Business Continuity Plan=事業継続計画」の略で、企業が自然災害やテロなどの非常事態に遭遇した場合、重要な事業を継続するために取りまとめる計画を指します。

近年では、新型コロナウイルスの感染拡大で、対面での業務が制限されるという出来事がありました。これもまたひとつの災害と言えます。

東京商工会議所によれば、中小企業のBCP策定率は増加しつつあるものの、27.6%とまだ低い水準にあります(*1)。

災害時にはさまざまな混乱が生まれます。その時、やるべきことの優先順位が決まっていなかったり、社員が個人の判断でバラバラに動いたりしてしまっては、事業の再開どころではありません。

そこで必要なのがBCPで、導入には下のようなメリットがあります。

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BCPのイメージ
(出所:「中小企業BCP策定運用指針」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_01_1.html

災害直後には操業率が大幅に下がります。しかし、まず中核事業を優先的に復旧させることで、長い目で見て企業を守るという考え方です。

*1「『会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート』2023年調査結果を取りまとめました」東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1200785

BCP策定の成功事例

例えば、熊本市の工務店、新産住拓は、台風などの際、被災家屋にブルーシートをかける依頼を受けています。東日本大震災で、工務店そのものが被災したという現実を知り、災害対応マニュアルを定めていました(*2)。

具体的には、対応の優先度を「S(築19年以上の瓦被害でひどいもの」「A(ライフライン、防犯上の問題が出ているもの)」「B(その他の急ぎもの)」などのレベル分けで可視化したり、被災社員の発生を見越して、資材だけでなく生活用品などもグループ会社から送ってもらう支援を取り付けたりしていました。

基本は台風を想定した対策でしたが、熊本地震の際には建築知識が少ない女性社員も顧客の要請に応じられるよう電話対応マニュアルをつくり替えるなどして、台風発生時よりはるかに多い約3000軒の顧客に対応しています。

また、中小企業庁の資料では、製造業や建設業の場合のBCPについて下のような事例が紹介されています。

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BCPの有無による被災後の企業活動の違い
(出所:「中小企業BCPガイド」中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/download/bcp_guide.pdf p6

BCPの有無で企業の未来は大きく変わってしまうのです。しかも、BCP策定企業が取ったこれらの対応は、災害発生直後にすぐに考えつけるものではありません。

*2
「BCP等の取組事例集」中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/2018/180420BCPshiryo2.pdf p5

BCPにデジタルツールの導入で効率アップ

デジタルツールを日常的に活用することで有事に備えている企業もあります。

佐賀県武雄市の機械器具メーカー、中山鉄工所は、2019年の佐賀豪雨で被災したことをきっかけに、社内に「災害チャンネル」というチャットルームを設置しました(*3)。

ここに社員が災害対策に関するアイデアを自由に書き込んでいくのです。さまざまなアイデアからより効率的な対策を考えることができます。社員が過去の復旧作業で苦痛に感じた作業があれば、次の災害が来る前に代替策を決めることも可能で、被災時の社員の負担を軽減することにもつながっています。

実際、過去の教訓から工場内への泥の流入を防ぐ策を講じており、21年8月の大雨被害の際には土砂のかき出し作業を大幅に軽減できています。これも復旧を早める大きな要因になります。

*3
「BCP 事例周 大切なビジネスを守る」九州経済産業局
https://www.kyushu.meti.go.jp/seisaku/chusho/jirei/bcp/pdf/jirei_gaiyo.pdf p22

データ防災もBCPの要件に必要な時代

また今は、災害時に社員や設備といった人的・物理的なものだけでなく、多くのデータや社内のシステムも早期に復旧させなければならない時代になりました。

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人的・物理的リソースに被害がなくてもシステムやデータが被害を受けると、事業はスムーズに復旧できなくなっている

データ防災のためのBCPとしては、このような事例があります。

大分市の情報通信業、エイビスは、東日本大震災をきっかけにBCPを策定しました。そのうちの一つが、東京と大分の2拠点を持っていることを生かし、データ消失を防ぐために大分本社の情報と東京支店の社内データを相互にバックアップし、有事に補完しあえるにようするというものです(*4)。

ほかにも、例えば本社が被災し、安否確認メールを一斉配信できない場合は東京支社から配信するという形も検討しています。災害時には、社員の安否確認は最優先課題と言えるでしょう。

さらに顧客のアンケート調査で「BCPを策定している」と回答すると高評価を受け、事業範囲の拡大につながったといいます。

また、サイバー攻撃もひとつの非常事態です。

長崎市の情報通信機器メーカー、扇精光ソリューションは、サイバー攻撃に備えて、全従業員受講必須のサイバーセキュリティ訓練だけでなく、抜き打ちで攻撃メールを送りその対応を迫るという徹底ぶりで、社員の意識向上をはかっています(*5)。

この取り組みが評価され、新規顧客や、公的機関からの受注を獲得するようになりました。

いずれの事例も防災だけでなく、BCP策定が販路拡大につながっているのが特徴です。

*4、5
「BCP 事例周 大切なビジネスを守る」九州経済産業局
https://www.kyushu.meti.go.jp/seisaku/chusho/jirei/bcp/pdf/jirei_gaiyo.pdf p18,p23

大切なデータを守る二つの考え方

自然災害やサイバー攻撃など、企業のデータはさまざまなリスクにさらされています。

近年は、データの保管やシステムの稼働を外部のサーバー上で行うクラウドサービスの利用が増えています。

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クラウドサービスの利用内訳
(出所:「令和3年版 情報通信白書」総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/n4200000.pdf p315

クラウドサービスには、社外から会社のデータやシステムにアクセスという大きな利点があります。また、データの外部保管は、本社が何らかの形で被災した際に頼りになることでしょう。

しかし最近、あえて「古い」手法を取るテック企業も出現しています。

米Google(グーグル)や中国の百度(バイドゥ)などは、データ保管に磁気テープを導入しはじめています(*6)。

今となっては、磁気テープというのはあまり姿を見ることはないかもしれませんが、実は技術開発で容量もかなり大きくなっています。

そして磁気テープでのデータ保管は、完全にシステムから切り離されているというのが大きな特徴です。

極論かもしれませんが、クラウドであれ何であれ、サイバー攻撃者はどこを侵入口とするかわかりません。何らかの形でシステム的につながっている以上、その攻撃はどこに影響するかわからないという考え方もあります。

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サイバー攻撃は、端末やサーバーのどこを狙われるかわからない。そのため、大切なデータはシステムから完全に切り離して保管しておくという手法も注目されている

その意味では、磁気テープは安全な存在とも言えるでしょう。災害に遭遇すると壊れてしまうという物理的な弱みはありますが、サイバーセキュリティーの面ではオフラインという形式の強みが再び注目されているのです。また、電力に左右されないという特徴もあります。

もちろん、クラウドサービス、磁気テープそれぞれにメリットやデメリット、強み弱みがありますので、システム会社などと相談のうえ対策を進めるのが良いでしょう。

*6
「グーグルも磁気テープ活用 サイバー対策・省電力で再注目」日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO80347060R20C22A2TEB000/

BCP策定のために融資優遇制度も活用したい

ここまで、BCPとデジタルにまつわる事例などをご紹介してきました。

「自然災害」だけを想定していてはまだリスクがあること、また、逆にデジタルツールを防災に活用することなど、デジタルと防災の関係は大きくなっています。

なお、BCPに基づいた防災施設の整備などには、特別利率での融資(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/19_syakaikankyotaiou_m_t.html)を受けられる制度もあります。サイバー攻撃対策も対象です。

地方銀行でも、BCP策定に関する優遇措置を設けているところが多くあります。

BCPを策定することは、実は日頃の業務フローの落とし穴を見つける良い機会でもあります。
中小機構の地域本部や事務所(https://kyoujinnka.smrj.go.jp/guidance/customer_support.html)などに相談窓口がありますので、まずは問い合わせてみることから始めてはいかがでしょうか。

 
ここがポイント!
●「災害大国」日本では、災害発生時にどう事業を立て直すかの計画(BCP)の策定が必須。
●BCPを策定すると、顧客からの信頼アップや、融資で優遇を受けられるというメリットがある
●また近年では、デジタルに関する防災意識も必要。
●地銀など金融機関には中小企業のBCP策定を応援する枠がある。
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