デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.04.30 16:19

調査レポート◎日米デジタル経営調査(JEITA)
日本企業のデジタル経営推進に欠けていることとは?

 デジタル技術を用いてビジネス変革を実現するデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進やデジタルシフトにおいて、日本は米国の後じんを拝しているといわれています。では、日本企業と米国企業には、どれほどの差があるのでしょうか。

 これを知る最適な資料を、電子情報技術産業協会(以下、JEITA)が2024年3月6日に公表すると共に、調査結果に関する説明会を開催しました。それが、「日米デジタル経営調査」です。

 日米デジタル経営調査はJEITAのソリューションサービス事業委員会がIDC Japanと共同で実施した調査であり、日本と米国それぞれの民間企業(従業員数300人以上)の非IT部門のマネージャーと経営幹部を対象としたアンケート結果(回答数:日本257社/米国300社)をもとにまとめられたものです。

 調査資料と説明会の内容から、日米の差が特に顕著に現れた結果を中心に記者が注目したポイントを取り上げ、日米の違いを考察していきましょう。

DX売上は増加もIT投資の多くは“守り”が中心

 まず、日米比較の前に、実需として日本においてDXはどの程度の市場規模があるのでしょうか。これを示したのが図1:ソリューションサービスの日本売上に占めるDX関連の割合です。

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出典:JEITAの会見資料より抜粋し編集部にて作成

 IT投資に伴うソリューションサービスの日本売上は、2020年に新型コロナウイルスのパンデミックの影響により一時的に前年から減少しましたが、リモートワークの広がりを背景にオンライン会議やクラウドサービスなどの需要もあって、売上は復調しています。

 このうちDX関連(*1)が同売上に占める割合は着実に増えており、2022年には32.2%に。説明会に登壇したソリューションサービス事業委員会の石橋潤一委員長は、「IT投資は着実にDXへシフトしている」と見解を述べました。
(*1)JEITAの会員企業および経済産業省のDXレポートなどで定義されたもの

 とはいえ、日米ではIT投資に対する意識には大きな違いがあるようです。それを示した調査が図2:IT投資が増える理由です。

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出典:JEITAの会見資料より抜粋し編集部にて作成

 図2は、IT投資が増える理由に対する回答をもとにレーダーチャート化したもので、左側は主に「守りのIT投資」、右側には「攻めのIT投資」に関連した項目が並びます。守りのIT投資とはシステムの保守やアナログ業務プロセスのデジタル化など、必要に迫られて取り組むデジタル化への投資。これに対して、攻めのIT投資とは顧客開拓や売上アップ、商品・サービス力の強化といった積極的な投資をいい、端的にいえば市場での競争力を高めるための投資です。

 この調査において、日本(赤い実線)はグラフが左側に寄っていることが見て取れます。つまり、守りのIT投資が中心であることが分かります。赤い波線は前回調査での日本の結果を示したものですが、今回の調査とほぼ同じグラフ形状となっており、攻めのIT投資へ転じ切れていない事実がうかがえます。

 一方、米国(青い実線)は守りと攻めでバランスよくIT投資が行われています。気になる点は、前回調査(青い波線)と比べて攻めのIT投資が減っていること。この理由について、JEITAでは「デジタルシフトで先行する米国では攻めのIT投資が一段落して次のステージに移行しつつあり、日米格差が縮まったわけではない」(石橋委員長)と推察しました。

 以前から指摘されていることですが、日本企業のデジタルシフトやDXを加速させるには「攻めのIT投資を行える体制構築と意識変革」が必要でしょう。

日本企業はデジタル戦略を策定するも実践進まず

 では、デジタルシフトやDXに取り組む意識や推進状況において日米で差はあるのでしょうか。手がかりとなる調査結果が、図3:デジタル戦略の策定状況図4:DX/デジタル経営の取り組み状況です。

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出典:JEITAの会見資料より抜粋し編集部にて作成
 
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出典:JEITAの会見資料より抜粋し編集部にて作成

 図3のデジタル戦略の策定状況におけるデジタル戦略とは、企業の経営層によるデジタル技術の活用に関する戦略です。「中長期の計画が策定されている(3-5年程度)」と回答した割合について、日本企業(51.7%)と米国企業(59.9%)の差は8ポイント程度にとどまっています。

 しかし、1-2年程度の短期計画まで含めた場合、米国企業の約97%に対して日本企業は約72%と大きく差が開きました。

 そして、実際のDXとデジタル経営の取り組み状況について聞いた調査結果が図4です。すでに事業に組み込んでいる、あるいは本格的に事業への導入を行っているなど、取り組みを進めている日本企業は26.4%(14.5+11.9)と、米国企業(53.9%)の半分に過ぎません。実証実験や小規模なパイロットプロジェクト、情報収集という段階の日本企業が多い結果となりました。

 ある程度のデジタル戦略の策定は進んでいるものの、その推進においては遅々とした状況。日本企業の経営におけるスピード感のなさが反映されたともいえそうです。

投資対象と見なすテクノロジーの範囲が狭い日本企業

 図5:重点投資テクノロジーにおいても、興味深い調査結果が出ました。このアンケートは、実施しているDXやデジタル経営の取り組みで重点的に投資しているデジタル技術を最大5つまで選択してもらい集計したものです。

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出典:JEITAの会見資料より抜粋し編集部にて作成

 目を向けたいポイントは、平均選択数です。日本企業の2.7に対して米国企業は4.0。この事実は、「米国企業は日本よりも多くのテクノロジーを投資対象としている」(JEITAソリューションサービス事業委員会の小堀賢司副委員長)ことを意味します。

 日本企業はクラウドやAIといったDXやデジタルシフトに不可欠ともいえるテクノロジーへの投資が中心になっており、次世代無線通信技術やブロックチェーン、AR/VR、デジタルツインといった技術は、どう活用すればよいか分からないのが実情でしょう。このため期待は薄く、投資対象と見なされていないと推察されます。

 また、DXの推進やデジタルシフトにおいて、人材確保は成功のための重要なファクターです。この点においても日米で大きく意識が異なります。

 図6:人材確保(ビジネス部門)は、DX/デジタル経営の取り組み状況別に人材の確保や育成について調査した結果です。

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出典:JEITAの会見資料より抜粋し編集部にて作成

 グラフから、日本企業における人材確保は既存社員の再教育により時間をかけてデジタル人材を育成する方法が中心であることが見て取れます。デジタルスキルを持つ人材を獲得したり、企業買収により人材を確保したりと、リソースを外部に求める米国企業とは大きく異なっています。

 自社の業務に精通した社員による推進がDXを成功に導く一つのポイントだけに、デジタル人材の内部育成も大切であることは間違いありません。しかし、「労働人口の減少やIT人材の絶対的な不足、終身雇用の崩壊といった日本の労働市場を踏まえれば、内部育成だけでなく幅広く人材を確保することも必要」(小堀副委員)でしょう。

守りのIT投資からの脱却に向けJEITAが提言

 また、図7:ITに今後期待する効果でも、日米の意識の差が顕著です。米国企業では「製品/サービス提供の迅速化/効率化」や「新規製品/サービスの開発/改善」といった対外的な視点での効果をITに期待しています。

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出典:JEITAの会見資料より抜粋し編集部にて作成

 一方、日本企業は「社内業務効率化/労働時間減少」や「人件費の削減」など、社内的な効果への期待が上位に。ただ、「既存顧客維持/顧客満足度向上」が前回調査の9位から2位へと大きくランクアップしており、攻めのIT投資へと転じる兆しも見て取れます。

 もちろん業務プロセスの効率化や人件費の削減も大事ですが、競争力を高めて市場で勝ち残れる企業変革を目指すDXの本質を考えれば、これからのデジタル時代において日本企業はもっと製品やサービスの向上に期待して攻めのIT投資へと舵を切ることが必要でしょう。

 こうした調査結果を踏まえて、JEITAでは『デジタル「経営」であることを理解する』『日本企業の実態に即して人材施策と組織変革に取り組む』『「米国企業だからできる」との考え方を捨てる』という3つの提言を掲げました。詳細は以下の通りです。

JEITAによるデジタル経営に向けた3つの提言

デジタル「経営」であることを理解する
・「経営」の視点からデジタル活用を考える「デジタル経営」の意識を強くし、幅広い業務プロセスで多くのテクノロジーを試す。
・「デジタルのため」ではなく、「競争に勝つため」「従業員のやりがい」という高次の目的を設定し、戦略や人材、投資、組織文化やCSRなど、すべてに「デジタル」を内在させる。

日本企業の実態に即して人材施策と組織変革に取り組む
・社内IT人材が少ない中、パートナーやベンダーの活用は必須。米国企業も内製から外部ベンダーを活用する意識が高まっている。「丸投げ」にならず、適切な人材を社内外で確保できる仕組みを整える。
・そのためにも、さまざまな知見やスキル、経験を持つ人材が適時適所で活躍できるように、流動性を考慮した人事制度や評価制度との連動強化も必要である。

「米国企業だからできる」との考え方を捨てる
・米国企業も「抵抗勢力」に対処してきた。経営層とミドルマネジメントの協力が必須である。

 今回の調査は従業員数300名超と、「中小企業×DX」の主な読者層となる企業よりもやや大きい規模ですが、おそらくデジタル経営に対しては、調査結果と同じような意識だと推察されます。

 そうなると、抱える課題感も同じはず。DXやデジタルシフトの推進が企業の競争力を高めることは間違いありません。JEITAの提言を我がものとして、デジタル経営に取り組むことは企業がデジタル時代に勝ち残っていくためにも必要だといえるのではないでしょうか。

ここがポイント!
●ソリューションサービス日本売上高に占めるDX関連の売上高は着実に増加。2022年には3割超に。
●デジタル戦略の策定は日本でも進むが、実際の取り組みについては遅々として進まず。
●デジタル人材の確保について日本企業では社員のリスキリングが中心であるの対して、米国企業は外部から調達。
●調査結果を踏まえて、JEITAは日本企業がデジタル経営を推進するための3つの提言を掲示。

外部リンク

JEITA「日米デジタル経営調査」発表プレスリリース
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