デジタル変革(DX)を学ぶ

2024.04.23 12:00

DXの「本丸」を実現するためには何が必要か
日本デジタルトランスフォーメーション推進協会の代表理事に聞いた

 日本デジタルトランスフォーメーション推進協会(JDX)は、2019年に新しい名称で再出発しました。実行委員会の一員として運営に携わっている日本DX大賞などの取り組みなどを通じて、企業の間で重要視されるDXを全国に広げようとしています。森戸裕一・代表理事は「DXの本丸は連携による付加価値の創造」と強調。支援の枠組みの中では、IT企業とユーザー企業の垣根がなくなると指摘しています。

森戸裕一
森戸裕一 代表理事

支援対象の拡大が名称変更の理由に

19年の名称変更には、どのような理由がありましたか。

 JDXは、日本中小企業情報化支援協議会の名称を変更して19年に活動を開始しました。同協議会は、国や民間企業が連携して全国の中小企業のIT化を推進するプロジェクトを支援し、中小企業のIT化支援では一定の知名度と実績がありました。しかし、トレンドになりつつあったDXの観点からすると、支援の対象を中小企業だけに絞るのはどうかとの議論が出ていました。それを踏まえ、中小企業向けの取り組みを続けながら、大手企業や自治体、国にも支援を広げていこうと考えたことが名称変更の理由になりました。

JDXの活動内容と体制を教えてください。

 現在は、▽DX推進人材の育成や組織づくりの支援▽DXに関するイベントや勉強会の開催、講師派遣▽地域におけるDX推進に関するプロジェクト▽DXの啓発・普及・政策提言―などを活動内容としています。IT企業の幹部らが理事になっていることに加え、われわれの活動を支援してくれる全国の支部運営会員は18社となっています。一般的に会員数の多寡で団体の大小を判断されることがありますが、われわれはそこにあまり重きを置いていませんし、会員の数で変に誤解を招かないようにしたいとの考えもあるため、会員数は公表していません。

JDXが関与している取り組みの中で、日本DX大賞などの表彰プロジェクトがあります。狙いや効果についてどのように考えていますか。

 DXを目指す中で、どのように進めていけばいいか、あるいは最終的な出口をどう設定すればいいかとの点について、迷っている会社は多いです。各企業が悩んでいることを明確にする事例集をつくっていくことが必要だと思い、DX大賞をやろうとの発想になりました。表彰対象になる企業にとっては、メディアに取り上げられたり、ブランディングにつながったりする効果が期待できます。ほかには実行委員会のメンバーとして関わっている全国クラウド実践大賞と、われわれが主催するJAPAN HR DX AWARDSもあるため、企業の規模や所在地に関係なく、表彰対象になる企業の発掘を精力的に進めています。

変革のパワーと工夫を持つ人が重要

企業がDXを実現するためには何が重要なのでしょうか。

 DXを実現するためには、変革のパワーを有していたり、工夫を持ったりしている人たちが重要になると考えています。IT企業はこれまで、ユーザー企業のIT化を支えてきましたが、今後はユーザー企業が成功体験を他社に提供していく動きが出てくるでしょう。IT企業とユーザー企業の垣根はなくなるとみられる中、われわれとしては、ユーザー企業が苦労して変革を成し遂げたノウハウをもっと世の中に広げていきたいと考えています。

IT企業はDX支援を重要視していますが、直近の動向についてはどう分析していますか。

 IT企業の役割がなくなると言っているわけではありません。DXにはITが欠かせず、ソフトウェアやハードウェアなどはIT企業が提供するのですから。ただ、どのようにITを使って企業変革を実現するかを考えるのはユーザー企業の対応になります。ユーザー企業からすると、他社のノウハウを活用するのが利益率を高めるためには効果的だと気づき始めているので、IT企業がDXのコンサルをしますと言っても、なかなか響かない状況が生まれるかもしれません。そうしたことを踏まえると、IT企業は、自分たちの内部で支援を完結させようとする考えから脱却し、いかにパートナーや顧客を巻き込んでいくかについて、より考えていく必要があると思っています。

経営の考え方を抜本的に転換すべき

大企業はDXに対して非常に積極的で、中小企業との差が出ているとの声をよく聞きます。中小企業に関しては、IT活用の必要性を含めてどのような意見を持っていますか。

 よく中小企業のデジタル化が遅れていると指摘されていますが、その表現は正しくないと思っています。なぜなら、遅れているのではなく、必要なかったからです。中小企業は、ものすごく属人的な工夫をしており、デジタルがなくても対応できていました。ただし、人がいなくなる中、属人的な手段が取れなくなりつつあることは課題になっています。であれば、デジタル化に踏み切るべきかというと、そうではなく、経営に対する考え方を抜本的に変えることが必要だと考えています。具体的には、正社員を人材のシェアリングにしたり、経営自体を他社と連携させたりといったことが挙げられます。そのようなことを実現し、コミュニケーションツールや会計ソフトをどうするかとの話になったとき、初めてデジタルについて検討する段階になるとみています。

中小企業を取り巻く環境はどのように推移すると予想していますか。

 事業環境としては人手不足が最も顕著になっています。人が採用できず、どんどん辞めていく中、「人がいないから難しい」との言葉がなくなるのが第1フェーズです。その後、「デジタルで自動化しましょう」となるのではなく、他社同士で「お互いに組みましょうか」との流れが出てくるのが第2フェーズだと思っています。DXの本丸は連携による付加価値の創造ですから。その際に共通プラットフォームやクラウドサービスが注目され、それが中小企業の命綱になり、その中から新たな工夫が出てくるでしょう。おそらく今後3年くらいはこのように推移すると予想しています。

今後、どのようなことに注力していきますか。

 現在、地域を面で捉えてDX推進を支援するために自治体との連携を進めています。例えば、連携協定を結んでいる福島県郡山市では、中小企業と個人事業主を対象に、専門家による相談や異業種企業との連携支援などを行う同市の事業「こおりやまDXプラットフォーム」が始まっています。こうした取り組みへの支援を継続しつつ、今後は各地の金融機関などとの連携も模索し、取引のある中小企業へ情報を発信したり、成功事例をつくったりしていくことに注力していきます。

 
ここがポイント!
●JDXは、日本中小企業情報化支援協議会の名称を変更して19年に活動を開始した。
●中小企業に加え、大手企業や自治体、国を支援対象に。
●ユーザー企業が成功体験を他社に提供していく動きが出てくると予想。
●中小企業は、デジタル化の前段で他社との連携が進むと分析。

外部リンク

日本デジタルトランスフォーメーション推進協会
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