建設DX展は、建築・建設・不動産業界に携わる国内外の計510社が出展した「第8回JAPAN BUILD TOKYO―建築の先端技術展―」(RX Japan主催)を構成する8つの展示会のうちの一つとして開催。建設業界でもデジタル技術の活用が着実に進んでいることもあり、多数の来場者が出展ブースやセミナー会場を訪れ、活況を呈しました。
この展示会は、建設業界のデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)を支えるBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)、CAD、ICT建設/施工機械、現場管理や工程管理システム、測量機、建設ロボットなどの多彩な最新技術を紹介するものです。
例えば、建設プロセスでは設計時に2次元データである多くの図面を作成し、それをもとに現場で建設会社や職人ら大勢の関係者が“暗黙知”や“経験値”を駆使しながら建物や道路などを作り上げていくといってよいかと思います。
これに対して、建設業DXでは3次元モデルのBIM/CIMにより事前に関係者が設計・検証・協議を行って問題点などを洗い出したうえで対策を講じ、スムーズな現場作業につなげ、現場ではロボットやデジタル技術を活用して安全かつ低負荷で作業ができるプロセスを目指しています。
今回の展示会では、そうしたデジタルシフトへの動きを支えるさまざまな技術や取り組みが一堂に会しました。
以下、展示会とセミナーを取材して興味を引いた技術、製品やソリューション、講演などを紹介していきましょう。
VRなどの最新技術を駆使した展示製品が勢揃い
さまざまな企業や団体が集った展示スペースには200社前後が出展し、同時開催された8つの展示会の中で最も多くなりました。主催者発表によると、開催期間中の来場者数はJAPAN BUILD TOKYO全体で3万4000人を超え(3日間、出展者・報道関係者を除く)、おそらくその多くは建設DX展の来場者だったのではないかと感じられました。
各社の展示ブースでのプレゼンテーションや出展社セミナーも盛況となり、建設関連の分野でデジタルシフトやDXへの関心の高さが見て取れました。
最初に目を引いたのは、明電システムソリューション株式会社による独自の3軸VR(Virtual Reality)シミュレーターを用いた労働安全教育用ソリューションの実演です。これは、安全第一を掲げつつも撲滅が進まない建設現場などでの労働災害について、シミュレーターを通じてリアルに体感できるシステムです。
VR安全体感教育コンテンツは、実際に製造・工事現場で発生した事故をもとに、多発する設備への巻き込まれや墜落、転倒といった疑似体感が難しい労働災害を、VR技術の活用によりリアルに体感することを可能にしています。
多発する現場などでの労災の撲滅を目標に掲げ、従来の座学に加えて、シミュレーターによる疑似体験を通じて危険に対する感受性に訴える安全体感教育を実現することが狙いです。
中央労働災害防止協会(中災防)との共同開発を含めて、クレーンとの激突や道路舗装作業での車両との衝突、階段での転倒など、30余りのVRコンテンツを揃え、初期費用を抑えて定額で教育を行えるよう、同社の安全ソリューションのサブスクリプションサービスにも対応しています。
現場での労災事故は、事業者の規模に関わらず、解決すべき喫緊の課題です。それだけに同社のシミュレーターは中小企業にとっても有用なソリューションといえそうです。
株式会社フォトラクションは、工事現場の写真管理をはじめ、工程表や図面、検査、BIMなどの機能を備えたクラウドサービス「photoruction(フォトラクション)」を紹介しました。
同社では、このサービスを「建設DXを実現する施工管理システム」と位置づけており、大量の現場写真をスマホやタブレットで撮影するだけで自動整理でき、台帳などの作成も簡単にできることが特徴です。他にも、図面や工程表、タスク、検査などの豊富な機能を備えており、これらを活用することで技術者は準備作業などから解放され、現場での杭打ちや鉄筋の組み立て(配筋)作業といった本質的な仕事に集中できるようになります。
また、同社のブースでは、工事現場からノンコア業務を解放するという視点から、BPO(Business Process Outsourcing)のクラウドサービス「建設BPO」も紹介されていました。
例えば、鉄筋を組み立てる配筋の検査のための準備作業であれば、前述のクラウドサービスphotoructionの画面からBPOメニューを選択することで電子黒板やチェックリストなどを自動作成し、作成データの編集や検査後の書類出力まで対応が可能となります。
株式会社安藤・間(安藤ハザマ)の「BIM-LEAN」は、工事着工前の設計・検証段階で工程の完成度を高め、後工程で発生する手戻りやコストなどの負荷を最小限に抑えることが可能な“フロントローディング”を目指し、BIMを活用して業務の無駄を最小化し、生産性向上を実現する取り組みです。
過剰生産や計画時と作業スピードのズレに伴う手待ち時間、必要以上に資材などを在庫したり、輸送して現場に仮置きしたりといった、現場で発生しやすいさまざまな業務のムダを最小化して価値を最大化することが狙いです。
今回、ブースではBIM-LEAN、および着工前に仮想空間上での竣工(「着工前BIM竣工」)を実現する「BIM-LEANワークフロー」など、BIM-LEANを達成するためのさまざまなツールや取り組み例が展示されていました。
クラウド録画サービスに強みを持つセーフィー株式会社は、新たにエッジAIを搭載した防犯カメラ「Safie One」、ウェアラブルクラウドカメラ「Safie Pocket」シリーズ、LTE搭載クラウド型防犯カメラ「Safie Go」などの製品群や導入事例を紹介していました。
高精度な測量を実現するICT施工製品群を展開するライカジオシステムズ株式会社は、高速・高精度な3Dレーザースキャナー「Leica RTC 360」や、小型・軽量ながら従来機の5倍以上の高速スピードでフルスキャンを行えるイメージングレーザースキャナー「Leica BLK360 G2」などを実機展示していました。
NTTグループの共同出展ブースでは、NTTコミュニケーションズ株式会社が、建設現場の段取りのデジタル化を目指し、現場の働き方改革を実現する「ドコモ建築ソリューション」や、スマホやタブレットで撮影するだけで現場の3Dデータ化を実現するモバイルアプリ「Smart Construction Quick3D」などが展示されていました。
また、UAVレーザー測量機(国産ドローン)「EC101 connect」(株式会社NTT e-Drone Technology)などを出展するなど、グループとして建設業界向けにさまざまな提案を行っていることがうかがえました。
ビジネス向けにソリューション提案を強化しているエレコムグループは、建設業界からリプレースや新規導入の相談が多いWi-Fi工事の他、ネットワーク/ウェアラブルカメラ、テレビ会議システムなどをワンストップで提供する工事ソリューションや、現場の監視や作業効率化に貢献する遠隔支援事業を紹介しました。
出展社による製品・技術セミナーも盛況
展示会場内には、出展者の製品や技術に関するセミナーを開催するためのスペースが設けられており、講演時には満席で立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。 建設業向けを中心に、“暗黙知を民主化する”をミッションに掲げ、コンサルティング・共創型開発・新事業立ち上げサービスなどを手掛ける株式会社Arentは、「BIMデータを“作る・利用する”から“活用=自動化”へ」をテーマに講演しました。 Arentの鴨林広軌社長は、「単なるBIMの作成・利用という段階にとどまらず、これを本当に活用するためにどうしたらいいかを考えることが重要」と述べ、その実現に向けた同社の取り組みを紹介しました。 |
注目集めた「建設Well Being」や「3Dプリンター住宅」
展示会場とは別会場で開催されたセミナープログラムも大勢の聴講者が参加していました。さまざまな講演者が多彩なテーマで登壇し、セミナー参加者は講演者の話に聞き入っていました。
●セミナーで注目を集めた「建設業Well Being」とは?
数あるセミナーで、ひと際注目されたセミナープログラムが「建設業のミライ展望~Well Being実現に向けた建設RXコンソーシアムの取組み~」と題した特別講演です。建設RXコンソーシアムの新旧世代メンバーが集い、パネルディスカッションが行われました。
建設RXコンソーシアムとは、建設業界の生産性や魅力度の向上を目指し、施工段階で必要となるロボット技術やIoT関連アプリケーションにおける技術連携を進めるため、新技術の共同開発や既存の開発技術の共同利用を推進する団体です。協力会員を含む会員数は240社を超え、幅広い業種から参画しています。
ロボットやデジタル技術を活用した建設業界のWell Being(仕事や生活感、人生、健康などに関する持続的・肯定的な感情、満足感や幸福感)の実現についてのディスカッションでは、同コンソーシアムの副会長を務める鹿島建設株式会社の池上隆三常務執行役員が発言。
「例えば現場作業の担い手にとってのWell Beingを考えると、作業負荷の低減が一番大事であり、BIMの活用などで、できるだけ安定した、仕事がしやすい環境で作業をしてもらう。そのために当コンソーシアムとしては、重負荷・苦渋作業を減らすロボットの開発に取り組む。若い人にはe-スポーツ感覚でICT建機や施工機械を操縦し、仕事に貢献するという満足感や誇りを持ってもらうことであろう」。
工事全体を管理するゼネコンについては、「従来の三現主義(現場で現物を見て現実を認識する)を補完する画像認識や遠隔操作による“新・三現主義”といった管理手法の構築が重要」と指摘。加えて、「建築に携わるさまざまな分野の人々は、建設プロセス全体において最適な施工手順を導き出し、それをBIMによる仮想空間で検証して、着工前に不確定要素を減らしていくべき」と語りました。
同コンソーシアムの会長である株式会社竹中工務店の村上陸太常務執行役員は、デジタル技術を活用して建築物を造る際に、「建築を世間に送り出すという(業界従事者の)熱い思いをなくさないように取り組むことがキーワードになるのではないか」とその重要性を指摘しました。
これを受けて、コンソーシアムとしては関係者全員で建築物を完成させた時の達成感とそれが社会に出て一般人に使用してもらえることで、Well Beingを実現できるだろうとしました。
デジタル技術の開発・活用における課題では、人間とロボットの協働における安全性の確保、基準作りの必要性に加えて、以下のような意見が出されました。
「人間の得意な部分とデジタルやAIの得意分野をどう結び付けていくか。人間側もある程度の歩み寄りが必要だろう」(燈株式会社・野呂侑希代表取締役CEO)、
「デジタルにやさしい建築、ロボットやデバイスにやさしい建物を検討してほしい」(株式会社ホロラボ・中村薫代表取締役CEO)
また、未来の建設業のありたい姿については、「発注者、設計者の迅速な意思決定により、余裕のある現場作業を実現することが重要」(清水建設株式会社の山﨑明専務執行役員)、「(単純作業を担う)ロボットと熟練工による建設現場の最適化ができるようにしたい」(建ロボテック株式会社・眞部達也代表取締役社長兼CEO)などの声が寄せられました。
“クルマを買う値段で家を買う” を実現へ
一方で、30年にわたる住宅ローンの負担をなくし、もっと豊かな人生を送れるよう “クルマを買う値段で家を買う”ことを目指しているのがセレンディクス株式会社です。
同社の飯田國大執行役員COOは「日本初3Dプリンター住宅“住宅産業の完全ロボット化”」をテーマに講演し、 2023年5月に長野県佐久市で商用初となる3Dプリンター店舗(鉄筋コンクリート造)を約23時間の施工で完成させた事例など、さまざまな取り組みを紹介しました。
世界最先端の3Dプリンター住宅を造るため、250社を超える企業コンソーシアムを形成し、オープンイノベーションで研究開発に取り組んでいる他、2023年12月にはヤマイチ・ユニハイムエステート株式会社(大阪市)と資本業務提携を結び、3Dプリンター住宅タウンプロジェクトを始動させるなど、新たなインフラ整備に取り組んでいるとしました。
※文中の役職や肩書きは展示会が開催された時点のものです。
外部リンク
建設RXコンソーシアム
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