1933年創業の白井グループ株式会社(本社:東京都足立区)は、東京23区を中心に家庭ごみや民間企業の廃棄物の収集運搬、プラスチックリサイクル事業などを手掛けています。
国内の廃棄物業界といえば、中小企業が圧倒的に多くデジタルシフトやDXとはほど遠いイメージを持たれがちです。そうした中、同グループでは「廃棄物ビジネスのDXにより、新たな都市のインフラ産業に徳脱炭素・資源循環・新しい街づくりへ~」というDXビジョンを描き、社内におけるDXにとどまることなく、廃棄物業界全体を視野に入れた変革に取り組んでおり、この点で非常に興味深いといえます。
資源のライフサイクルを物流の視点として見た場合、資源が製品化されて消費者(ユーザー)に届くまでの動脈物流と、ユーザーによる使用済みの製品が廃棄・再資源化などのために循環する静脈物流に大別され、廃棄物処理事業者やリサイクル事業者は静脈物流を担います。
ここでは、動脈物流のデジタル化は進んでいる一方、静脈物流ではデジタルシフトが立ち遅れています。廃棄物と資源をどう効率的に収集するかが課題とされると共に、ドライバーなどの人手不足も深刻な悩み。また、マニフェスト(*1)をはじめとして、産廃処理業務に伴う煩雑で面倒な事務作業などをいかに効率化するかも課題です。 (*1)産業廃棄物管理票。事業ごみの処理が適正に実施されたかを確認するための書類で、不法投棄の防止が目的
「静脈物流においても、動脈物流と同じようにデジタル化された資源循環のプラットフォームが構築されればモノの流れが可視化され、廃棄物処理や資源などの再利用などをもっと促進できる」と、白井グループ・営業企画部の輿石実花氏。この思いの実現に向け、同グループでは事業ごみの収集運搬事業を担う白井エコセンター株式会社を軸にDXを推進しています。
“集める力”の強化を目的とした3つの取り組み
白井グループが掲げる具体的なDXビジョンは下図の通りです。まずは廃棄物収集においてデジタルシフトによる「集める力の強化」を目的として、3つのプロジェクトに取り組んでいます。
具体的には、デジタル営業を実現するWEB受付システム「ごみ.Tokyo(ゴミドットトーキョー)」、収集ルートの効率化により配車を最適化する「AI配車システム」、回収現場における確認作業の自動化を促す「RFIDシステム」です。
デジタル営業の仕組みとAI配車システムはすでに稼働し、RFIDシステムは実証実験の段階。いずれ、これらのデジタルスキームを白井グループの基幹システムとも連携させて、最終的には受付や収集から運搬、廃棄まで一気通貫のデジタルプラットフォームを構築したいとしています。
受付業務の短縮で最短翌日の回収を可能に
では、ここで白井グループが取り組んでいる3つのDXへ向けたスキームと効果について見ていくことにしましょう。
デジタル営業の実現を目指し、2020年3月にリリースしたのがWEB受付システム「ごみ.Tokyo」です。これは廃棄物処理の受付業務に必要な手続きを一括してサイト上で行えるもの。見積りや契約、電子マニフェストの申し込み、発注や決済までWEB上で完結できる仕組みとなっています。
デジタル受付による24時間対応で、PCはもちろん、スマートフォンからも廃棄物処理を依頼することが可能です。電話や対面での受付、紙書類の混在した契約・事務手続きといった従来のアナログベースのスキームでは回収まで一週間から10日間ほどを要していましたが、ごみ.Tokyoを導入してからは最短で翌日の回収開始に対応できるようになりました。
こうしたスピード回収の実現に加え、同システムからの登録により契約や注文履歴を確認できるなど、顧客の利便性向上に大きく貢献。廃棄物市場における優位性の確立につながっています。
また、説明の自動化や手続きのデジタル化による人的負担の軽減、実費・事務コストの軽減、手続き時の読み違いや入力ミスなどのヒューマンエラー抑制などの実現は、同グループにとっての効果といえるでしょう。
AI配車システムでドライバー不足の課題に対処
ごみ.Tokyoと共に、業務効率化に大きく貢献しているスキームが「AI配車システム」。収集運搬車の収集ルートの計算を自動化し、業務負担の軽減と最適配車によるコスト削減やドライバー不足の課題を解消する仕組みです。
収集ルートを決めるためには回収先や搬入先、車両といった20項目近くにも及ぶ情報をインプットする必要があり、それをもとに配車係が経験と直感で各車両の収集ルートや時間を作成していました。同社では、約3000事業者の回収業務を担っており、常に変化する回収先を昼夜問わず収集運搬車が走り回っています。配車ルートの作成は複雑なため作業に数日を要することに加えて、ノウハウの属人化によりブラックボックス化してしまうため、後継者となる人材が不足することも課題でした。
これら問題の解決を目指して2014年に開発し運用をスタートさせたのが、収集ルートを自動計算できるAI配車システムというわけです。
このシステムを導入して以降、収集ルートの決定に要する労力が大幅に短縮されたことはもちろん、ルートの最適化や積載率の向上により収集運搬車の台数削減にもつながり、ドライバー不足への対策にも奏功しています。
一方、「RFIDシステム」はRFID(電波を用いてタグのデータを非接触で読み書きする技術)を用いた現場回収作業の省力化と排出実績管理を目的とした新たな取り組みであり、本稿執筆時点では実証実験の段階です。
そのスキームは、ごみ袋に収集容量や種別、顧客事業者の情報などを事前に記録したRFIDタグを貼付。このタグを収集担当ドライバーがRFIDリーダーで読み取る仕組みとなっています。
現在、回収ドライバーは企業名や容量、ごみ種別などを目視により確認したうえで携行するタブレットから、それらの情報を入力する業務フローとなっており、収集作業にも時間がかかっています。この作業をRFIDシステムで代替できれば、現場における収集効率が向上することは確かでしょう。
さらに、読み取ったデータを同社の基幹システムや電子マニフェストなどの仕組みと連携させて、廃棄物管理などを効率化することも視野に入れているとのこと。将来的には、蓄積されたログデータを活用して分析することも検討したいとしています。
また、白井グループではプラスチック資源循環にも注力しており、使用済み製品や物流資材などの回収・選別・再原料化・再製品化を推進。回収用ごみ袋においても、再生原料100%の「進化するごみ袋」をプラスチック包装専門メーカーと共同開発しており、RFIDシステムで活用する意向です。
業界での自社システム共同活用にも着手
着実に社内DXを進める白井グループですが、やはり注目したいのは冒頭で言及したように、これらの仕組みをプラットフォームとして業界全体で共通化したいという思いを描いていることでしょう。
この背景には、ドライバー不足やデジタルシフトの遅延といったことにとどまらない廃棄物業界特有の構造が挙げられます。中小企業の集まりである廃棄物市場では業者数が非常に多く、東京23区内だけでも500社から600社くらいの業者がいるといいます。
一括契約のない事業ごみ収集では、オフィス街の一つの通りに複数の産廃事業者が集中しているケースも珍しいことではなく、何台もの収集車が行き交うことによる渋滞の発生は日常茶飯事。業界全体が極めて非効率という状況です。
そこで、業界全体を視野に入れた変革への第一歩として、現在は受付システムごみ.Tokyoを一般社団法人東京クリーンリサイクル協会に参画する8社で、共通の受付窓口として活用しています。
銀座エリア(一丁目から八丁目)限定ですが、8区画を8社で分担し、ごみ.Tokyo経由の回収申込では顧客の所在地に応じて自動的に担当の産廃事業者に割り振られる仕組みを導入しました。これにより、一つの通りに産廃事業者が集中して回収車の渋滞が起きるようなこともなくなり、効率的な廃棄物事業の実現につながっています。
壮大なビジョンを描く白井グループですが、決して特別な中小企業というわけではありません。社内にDX推進部を設立し、これまで外部ベンダーの協力を得ながらシステムの開発を進めてきました。
デジタルシフトやDXを進める過程では、やはり社内での反発が少なからずあったといいます。輿石氏自身も「既存の慣れ親しんだやり方から新しい仕組みへの移行には違和感や抵抗を感じたのは事実」とのこと。こうしたハードルをトップダウンで乗り越え、「社内のDXを着実に進めてきた」そうです。
「当社の取り組みは一部に過ぎないが、業界をあげて動脈物流と静脈物流がつながる統一プラットホームの構築に向けて、業界全体で検討していきたい」と輿石氏。白井グループの理念が実現される日も、そう遠くはないかもしれません。
ここがポイント! |
●社内のDXを推進すると共に、業界全体を視野に入れたビジネス変革にも取り組む。 |
●営業のデジタル化では受付システム「ごみ.Tokyo」により、顧客の利便性と社内業務の効率化を実現。 |
●AI配車システムで収集ルートの作成効率化とドライバー不足の課題に対応。 |
●実証実験中のRFIDシステムなどにより、現場における収集作業の効率化と廃棄物管理のデジタル化を目指す。 |
外部リンク
白井グループ株式会社 一般社団法人東京クリーンリサイクル協会
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