気になる他社の取り組み/事例

2024.10.01 10:20

DX事例◎芝園開発(東京都足立区)
駐輪場DXを実現して売上高が約2.6倍にアップ

 芝園開発株式会社(本社:東京都足立区)は、“無人”や“24時間”を軸に駐車場・駐輪場、フィットネスジム、コインランドリーなどの事業を展開するサービス事業者です。

 バブル景気に湧く1986年に土木建設業者としてスタートした同社は、バブル崩壊を機に時間貸駐車場事業へと業態拡大しました。事業も軌道に乗り、もう一つ柱がほしいと模索する中で、目に止まったのが街中の放置自転車です。コインパーキングと同じ仕組みで駐輪サービスを提供することで、放置自転車の問題を解決できないかと思案。実証実験に取り組み、好感触を得たことから駐輪場事業に乗り出しました。

 日本で初めて、機械式駐輪場とコインパーキング方式を組み合わせた「無人機械式個別管理時間貸駐輪場システム」を開発し、時間貸駐輪場のビジネスモデルを構築しました。

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日本で初めて時間貸駐輪場のビジネスモデルを構築した(写真提供:芝園開発)

 以降、放置自転車と駐輪場に関わる運用の仕組みを積極的にデジタル化することにより、同社の自転車対策ビジネスは全社売上の約8割を占める主力事業へと成長。自治体から相談を受けることも多く、官公需要が飛躍的に拡大しています。

 成長の原動力となったのが、さまざまなデジタル化への取り組み。中小企業に多いバックオフィス業務などのデジタルシフトにとどまらず、自社の提供するサービス力を向上させる、いわゆる“攻めのIT”によりビジネス変革を進めています。本格的なデジタルシフトへと舵を切って以降、売上高はDX以前と比べて3倍近い規模へとアップしました。

 以下、芝園開発のデジタルシフトやDXへの取り組みを具体的に見ていくことにしましょう。

デジタルシフトへの第一歩は会計システムから

 同社がデジタル化へ踏み出したきっかけは、道路交通法の改正により2006年に施行された放置駐車車両確認事務の民間委託が始まったこと。この改正を背景に、コインパーキングなどの駐車場事業に参入する企業が急増し、過当競争により駐車料金は急落しました。

 当時の駐車場事業は右肩上がりの市場であり、収支をデータ化して分析せずとも利益が出た時代でした。芝園開発も例外ではなく、駐車場ごとの収支が把握できていなかったといいます。競争が激しくなる中、収益が赤字か黒字かさえ分からない状況では、打つべき手を考えることはできません。

 そこで、デジタルシフトの端緒として会計システムの導入に着手しました。しかし、プロジェクトは失敗に終わります。理由は、既存のアナログ派とデジタル推進派の対立。最終的には、デジタル推進派の社員が退社してしまい、デジタルシフトへの流れは後退しました。

 しかし、社内の雰囲気が悪くなる中、あきらめることなくトップダウンでデジタルシフトを推進。再度プロジェクトに取り組み、会計システムの導入を成し遂げました。同社でデジタルシフトを牽引する一人である常務取締役の市川桐多氏は、「会計システム導入により社内ではデジタル化のメリットや力を体感した」といい、この成功を機に紆余曲折を経ながら積極的にデジタルシフトへと進んでくこととなります。

官公需向け「駐輪場」ビジネスをDXで主力事業へ

 攻めのITとして、同社が注力したのは駐輪場事業です。2010年代に自治体から放置自転車対策業務を受託するようになりましたが、当時の運用はアナログによる人海戦術という仕組みが一般的でした。放置自転車対策業務とは、放置自転車の発見から撤去や保管、返還、処分までの一連のプロセスのこと。かつては、この業務はほぼ人手で行われていたわけです。

 このプロセスをデジタル化し、放置自転車対策システム「CAPTURE(キャプチャー)」を開発しました。

 同システムでは、QRコードを介して放置自転車をテキストや画像、位置情報などの情報とひも付けることにより、発見から返還や処分までのプロセスを個別にトレースすることを可能とします。放置自転車の発見場所や時刻、撤去トラック・見回り担当者の現在地や移動ルートなどをマップアプリ上でリアルタイムに把握してログとして残せるなど、さまざまな情報をデータとして蓄積できるとのこと。

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CAPTUREでは、現場スタッフが持つ業務用端末により収集された情報がすべてログとしてシステム上に記録されることで、放置自転車の個体管理が可能となる(写真提供:芝園開発)。

 収集された膨大な情報は、ビッグデータとして活用して効率的な撤去トラック運行計画や人員配置などを検討することが可能です。放置自転車対策では業務の遂行が見えにくいですが、CAPTUREはそれを“見える化”する仕組みといってよいでしょう。適正な業務遂行のエビデンスにもなる同システム開発をきっかけに、自治体に働きかけたことで急速に官公需要が急増しました。

 駐輪場事業に関わるもう一つのデジタル化の柱が、定期利用駐輪場運用システム「TEKINESS(テキネス)」です。

 定期利用の駐輪場も、もともとは極めてアナログ的な運用でした。それぞれの駐輪場に設けられた窓口での申込書記や利用料の納付、現金回収などの業務は人手で行われていました。しかも、駐輪場ごとにやり方が異なっていたといいます。利用者や担当者、自治体にとっても効率がよい仕組みとはいえません。

 そこで、同社は、定期利用のWEB申し込み機能と利用料のオンライン決済機能を搭載したTEKINESSを開発。不正駐輪対策アプリ(*1)や転記入力時のヒューマンエラーを防ぐ窓口受付専用アプリなど、管理者の利便性にも配慮した機能も盛り込んでいます。 (*1)自転車に貼った定期利用シール記載のQRコードを端末で読み取り、未契約や契約切れの車両を見つける仕組み

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TEKINESSは、定期利用駐輪場の運用方法を劇的に変革した(写真提供:芝園開発)
 
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不正駐輪対策アプリ「Verify(ベリファイ)」は、自転車の平置きでの駐輪場運用を可能とした(写真提供:芝園開発)

 現在、芝園開発ではこれらのシステムにコンタクトセンター機能を組み合わせた3つのサービスにより、「自転車対策まるごとDX」として展開しています。

DXの効果と成功の要因

 全社売上はデジタルシフト以前と比べて約2.6倍に拡大しました。官公需要向けでいえば、売上全体に占める割合はシステム導入直後の2016年で2割程度だったものが、2023年には7割に。駐輪場ビジネスモデルのDX化による官公需要の飛躍的な増加が、この成長を牽引したのは確かでしょう。

 これだけの成果をデジタルシフトにより実現できた理由について、市川常務取締役は「自分たちが必要とするものをデジタルでシステム化しただけ。それが次の展開へとつながっていった」と語ります。

 実際、放置自転車対策システムのCAPTURE開発のきっかけも、発端は「違法駐輪していないのに、なぜ撤去したのか」という持ち主からのクレームが多発したことでした。クレーム対応のために放置自転車の発見場所や保管場所などの現場で車両を撮影してエビデンスとしました。しかし、個々に撮影したうえでパソコンに保存して管理する作業は負担が大き過ぎたため、この解決策として放置自転車対策業務のシステム化に取り組んだというわけです。

 開発は外部のITベンダーに委託しましたが、運用方法や備えたい機能のイメージを共有するには、イメージを言語化してベンダーとのコミュニケーションが取れるITに精通した人材が社内にも必要と判断。IT技術者を自社で雇用してプロジェクトを進めました。

 IT技術者が不足している中、デジタル人材の育成には時間を要します。圧倒的にリソースが乏しい中小企業が、社内のさまざまな領域でDXを推進するには大きなハードルです。

 この点、「経理などの一般的に差別化にならない業務のデジタル化は市販サービスを導入して自社業務のプロセスを市販サービスの仕組みに寄せ、競争力の源泉となる主軸事業は独自開発により注力して取り組む」(市川常務取締役)との考え方は、中小企業のリソース不足対策の参考となるのではないでしょうか。

社内のシステム部門を法人化

 同社の事業エリアは、東京や神奈川、千葉などの関東にとどまります。開発した駐輪場運用ソリューションの導入効果を考えれば全国の自治体から引き合いがあってもおかしくはありません。この背景には、事業のハンドリングはすべて自社で行いたいとの考え方があります。そうすることで品質を高く保つことができるので、商圏を無理に広げたくないという理由からです。

 そこで、次なる展開として社内のシステム部門を2023年に本体から切り離して別法人化(リクスタシステムズ株式会社:市川氏が代表取締役を兼務)しました。現在、自社業務のために開発した駐輪場運用システムをパッケージ化して外販に取り組んでいます。

 これにより、システムを介した全国展開が可能となったわけですが、将来的には「ソフトウェアを開発していきたい」(市川常務執行役員)とのことです。

 自分たちの業務を効率化したいとの思いからビジネスモデルのデジタル化を進めたわけですが、結果としてサービス力が向上し外部から高く評価されるようになった芝園開発のDXへの取り組み。必要は発明の母といわれますが、このことわざを体現したものといえるのではないでしょうか。

※)文中の肩書きは取材時のものです。

        
ここがポイント!
●会計システム導入に失敗するも、強烈なトップダウンによる再チャレンジでデジタルシフトに成功。
●IT技術者を雇用し、外部のITベンダーの協力を得ながら駐輪場運用システムを自社開発。
●自社が本当に必要だと思う業務に注力してデジタル化を推進。
●デジタルシフトの成功を糧に、新たな展開として自らがITベンダーに。

外部リンク

芝園開発株式会社=https://www.sibazono.co.jp/
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