多くの企業がDXを目指す中、中小企業の意識も高まりつつあります。しかし、中小企業にとっては人材や資金の確保などがハードルとなり、大企業と同じように実効性のある手を打つのは簡単ではありません。ただ、中には着実に取り組みを進めている企業もあります。建設会社の後藤組(山形県米沢市)は、ITを活用して業務を効率化。以前は紙が中心の職場でしたが、現在はデジタル化やペーパーレス化が進展し、業績の向上にもつながっています。IT戦略を担当する経営管理部の笹原尚貴・部長は、これまでの自社での取り組みを振り返り「トップダウンとボトムアップの組み合わせが重要」との見解を示しています。
「DXって何」
後藤組は、1926(大正15)年に創業しました。2024年5月期の売上高は101億1000万円。米沢市の本社に加えて県内各地に拠点を置くほか、東京都新宿区に支社を置いています。従業員数は90人(準社員・パートなどを含めると150人)。地元を中心に事業を展開する中、最近はDX関連の取り組みが注目されています。
そもそも建設業は、紙の書類が多いとされる業種です。後藤組も例外ではなく、出勤表や現場の安全書類、見積書などは「紙がスタンダード」(笹原部長)でした。また、自社システムに日報を入力するために事務所に行ったり、人事評価の点数を手計算で出したりといった非効率な業務も多く残っていました。 そうした中、後藤茂之代表取締役が19年、今後の経営方針としてDXに力を入れると宣言し、担当として笹原部長を任命しました。笹原部長は、大学では文系学部で学んでいました。ITに関する知識はそれほど豊富ではなく、PCや機械には苦手意識がありました。担当になった当時は入社4年目で、そもそも「DXって何」との認識だったそうです。
大きな壁に直面
笹原部長は、慣れない業務に戸惑いはあったものの、担当として取り組みに着手。社内のIT活用について調べたところ、使っているメールやクラウドストレージはばらばらで、中には個人でつくったアカウントを業務に使っているケースも判明しました。
こうした「ガバナンスも何もない」(笹原部長)状況を是正するため、まずは必要と思われる機能がそろったクラウド型のグループウェア「G Suite」(現Google Workspace)を導入しました。その後、「Excel」で各社員が管理していた顧客管理の刷新について検討し、サイボウズが提供する「kintone」の活用を決めました。顧客管理に照準を合わせたのは、以前から後藤代表取締役に指示されていたため。多くの製品の中からkintoneを選んだのは、さまざまな業種で活用されている自由度の高さや、ユーザーの熱量を感じたからだったそうです。
しかし、ここで大きな壁に直面します。笹原部長は、独学でkintoneについて学び、アプリケーションを開発しました。さまざまな部署で勤務した経験から、自社の業務に合わせたつもりでしたが、結果は「全く浸透しないどころか、無視されるくらいのレベル」でした。
笹原部長は「私のスキル不足でアプリが使いづらかったこともあったと思う」としつつ、「一番の理由は、今、回っている業務を変える必要がなかったことだ」と説明。「組織の中であるべき情報伝達の仕方にのっとらず、私が勝手にやっていたことも大きかった」と付け加えます。
アプリを社内に展開する上で、笹原部長は話しやすい部門の人に直接相談し、現場だけで利用を進めようとしていました。しかし、Kintoneを活用する意義を理解してもらえず、押しつけ的なやり方には反発の声も。数カ月後には「このままだと普及できない」と諦めかけていました。
過去の反省を生かす
事態が変わるきっかけになったのは、「自分でアプリをつくるのではなく、現場の人がつくる環境にしないといけない」との後藤代表取締役からの助言でした。笹原部長は、とにかくKintoneに慣れてもらうことを目的に、日報アプリを開発して提供。わざわざ事務所に行く手間などがなくなったことで、社員からは上々の反応を得ました。
笹原部長は、次のステップとして、Kintoneをなくてはならないものにすることを目標に設定。具体的には、Kintone上のアプリを使わないと、稟議(りんぎ)や各種申請ができなくなることを目指しました。過去の反省を生かして後藤代表取締役を巻き込み、トップからの指示ということで社員に納得してもらうようにしました。 ワークフロー系の業務をKintoneの活用に置き換えた後は、事業部門ごとにアプリを開発してもらうようにする段階に。ここでも「社員にやってもらうなら、取り組むことによるメリットか、やらないことによるデメリットが明確にしないとだめ」との後藤代表取締役からアドバイスを基に対応策を検討。社内資格制度を設けたり、年1回の発表会を開催したりして社内の意識を醸成しました。
その結果、社員の考え方は変わり、事業部門でのKintoneの活用は徐々に定着。現在、社内では多くのアプリが開発されるようになりました。業務効率化の効果は数字にも表れており、DX関係の取り組みを進める前に比べて1人当たりの残業時間は21.1%減り、紙の量は60%削減。売上高は1.35倍、営業利益は2.77倍と業績も向上しています。 笹原部長は「目に見える成果は出ている」と話しますが、DX宣言の最終的な目的はデータドリブン経営。現時点の達成度は「40%くらいで、まだやらなければならないことはたくさんある」と気を引き締めています。今後は、アプリの数が増えたことで蓄積が進んでいるデータを、AIやディープラーニングと組み合わせる取り組みを加速させる方針です。また、開発したアプリやノウハウの外販についても視野に入れています。
後藤組の取り組みは、トップと現場がしっかり連携していれば、中小企業でもDXに向けた成果が出せることを示していると言えます。笹原部長は「IT活用で具体的な効果を得るためには、ボトムアップが必要だが、それを引き出すのに欠かせないのがトップダウンだ」とし、「現場の社員とトップが同じ方向を向いて一緒に取り組みを進めることが重要」と強調しています。
ここがポイント! |
●文系の社員でもDX担当になれる。 |
●現場だけでIT活用を進めるのではなく、会社の方針として理解してもらうことが大切。 |
●取り組むことによるメリットか、やらないことによるデメリットを明確に。 |
●無駄な業務をなくせば、業績アップも期待できる。 |
外部リンク
後藤組=https://www.gto-con.co.jp/
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