気になる他社の取り組み/事例

2024.08.05 12:00

小売業がDXに取り組まなければならない大きな理由とは?
背景にあるのは逃げられない社会問題

 小売業でのDXの導入にはさまざまなかたちがありますが、主なものとして受発注の自動化、顧客情報のデータ化、リアルタイムでの売れ行きの計測、在庫調整などが考えられます。もちろん人手不足への対応も欠かせません。

 また、ECに乗り出したところ、思わぬ層の顧客が増えたという事例もあります。

小売業がデータ活用を進めるべき理由

 情報処理推進機構(IPA)が2023年に公表した「DX白書」では、日本企業の業種別のDX推進度は以下のように紹介されています。

222
業種ごとのDXへの取り組み
(出所:「DX白書2023」情報処理推進機構)
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108043.pdf p47

 全社戦力に基づき、全社的にあるいは一部の部門でDXに取り組んでいるとする企業の割合を見ると、卸売・小売業におけるDXの取り組みの度合いは、日本企業の中でも低くなっていることがわかります。

 しかし小売業にデジタル導入することには大きな意義があります。

 どのような変化が起きるのか、事例をいくつかご紹介していきます。

繊維街の生地販売店が意外な顧客層を獲得

 まず一つは、東京都荒川区の日暮里繊維街に店舗を構える奥山の事例です*1。1978年に創業し、09年に奥山貴弘社長が2代目として継承しています。質の高いポリエステル生地、そしてその生地を使ったステージ衣装を作り販売しています。

 創業以降、先代は、店舗での対面による販売、電話での営業こだわっていたといいます。「世界にここだけしかない生地だから、直接見て触れてほしい。だから、どこでも買えるようにはしたくない」というのがその理由です。現社長が事業を引き継いだ09年には、会社にPCは1台もありませんでした。

 しかし、奥山社長は「このままでは衰退するばかり」と危機感を覚えます。また、デジタルで販路を広げることは、むしろ先代の作り上げてきたオリジナルの生地を埋もれさせないとの考えもありました。そこで15年にECを導入しました。

 その頃、PC画面上では、生地の色味を再現するのは限界があり、インターネットでは売れないと言われていましたが、専門家に色味の再現を任せることで問題をクリアしたのです。

 結果、大きな反響が生まれました。ステージ衣装というニッチな商品だということもあってか、プロのピアニストや声楽家から、オーダーメイドのステージ衣装の依頼も来るようになったのです。

 また、コロナ禍では実店舗への来客は減りましたが、新しい顧客としてコスプレイヤーからの注文が相次ぎ、実店舗のマイナス分をカバーしたといいます。インターネットを通じた発信が、コスプレイヤーという想定外の顧客を呼び込んだかたちでもあります。

 コスプレはいまや日本だけでなく、海外でもブームになっています。これらの層を狙い、海外への販売も睨んでいます。

*1
「デジタル活用・DX事例集 vol.1 株式会社奥山 ~SNSの特長を活かした営業活動でリピーターを獲得~」東京商工会議所
https://www.tokyo-cci.or.jp/digital-support/column_1/

DXで不良在庫をなくし、人手不足にも対応するために

 もう一つは、北海道帯広市のトーシンの事例です*2。同社は、カプセルトイ専門店を運営しています。

 DXへの取り組みのきっかけは、ブームを背景に運営店舗を増加し、売上高を伸ばしている一方で、急成長に伴って管理部門が人材不足などを感じていたというものです。

 この業界には以下のような特徴があります。

・アイテム数が多く、かつ店舗ごとに人気商品も違うため、品切れによる機会損失が生まれる。
・代金は現金払いなので、適切な売り上げ管理が難しい。
・販売のタイミングを逃した商品は不良在庫として廃棄するしかない。

3333
トーシンが抱えていた課題
(出所:「道内中小企業に対するDX支援事例をご紹介します~「企業のDX推進」と「デジタル人材の育成・確保~」北海道経済産業局」
https://www.hkd.meti.go.jp/hokcm/20230525/jirei.pdf p8

 上記のような課題を洗い出した上で専門家が提案したのが、以下のようなDXです。

 まず売り上げ・商品管理のために、カプセルトイの販売機にセンサーを取り付け、リアルタイムの販売データを収集します。さらに「販売時点データ」「商品データ」「在庫データ」を統合して可視化。現金管理に関しては、各店舗にキャッシュカウンターを設置し、人手によらない現金集計を行うようにするという内容です。

 カプセルトイの販売機には電源がないため、リアルタイムのデータをどう取得するかという課題はありますが、DXの一つの方向性として可能性を持っていると言えます。

*2
「道内中小企業に対するDX支援事例をご紹介します~「企業のDX推進」と「デジタル人材の育成・確保~」北海道経済産業局
https://www.hkd.meti.go.jp/hokcm/20230525/jirei.pdf p8-9

データが持つ大きな力

 近年、「データドリブンマーケティング」という言葉を耳にしたことのある方もいらっしゃることでしょう。データによって駆動するマーケティング、という意味ですが、今後この手法は重要なものになっていきます。

 普段の販売業務の中で、対面であれば色々なお客さんと接することかと思います。顔なじみの人もいれば、時々しか見かけない人、新規の人もいるでしょう。

 しかし、その中で、「誰がこれまでにいくら買ってくれている人なのか」を把握しているという会社はどのくらいあるでしょうか。

 もちろん、足しげく通ってくれる常連さんは大切にしたいものです。しかし、「たまにしか来ない」けれども一回に大きな金額を落としていく人、あるいは本人の姿は見たくなったけれど、その人が連れてきた友人が常連客になるという場合もあります。

 顧客情報を紙帳簿で管理していると、この見分けはつきません。

 ただ、こうした情報をきちんと分析し、見分けをつけることが必要な時代になっています。

 というのは、少子高齢化で人口が減っていく日本では、競合他社と奪い合う顧客がどんどん少なくなっていきます。新規顧客開拓も必要ですが、海外に販路を求めない限り、人口が減っていく中では、リピーターを増やすことが大切になっていくのです。

 雰囲気だけで「よく来てくれる人」というだけでは、長期的にその人がどのくらい会社に利益をもたらしてくれているかはわかりません。

 会社に多くの利益をもたらしてくれる人に集中的にダイレクトメールなどでアプローチをする、そういった手法も必要になってきます。無作為にハガキを送るだけでは、人手やコストがもったいないものになってしまいます。

 また、売り上げや顧客情報をデータとして可視化することで、潜在顧客の掘り出しにも役立ちます。

 大手旅行会社のJTBでは、このようなことがありました。

 担当者がこのように語っています。

“「かつて『出張するならJTB』という広告を出していました。今思えば、男性目線の企画であり広告でした。出張するのは男性社員という暗黙の前提があったのです。これを『出張女子』という切り口にしたらどうかと考えて調べてみたら、平均単価が男性より約10%も高いことがわかりました」”

(引用:「旅立つ人の心、データで読み解く JTBのデジタル戦略」NIKKEIリスキリング) https://reskill.nikkei.com/article/DGXMZO43340620U9A400C1000000/?page=2

 会社の中に「思い込み」があり、実は多くの金額を使う女性顧客へのターゲティングができてなかったというわけです。これを機に「出張女子」という企画広告を出したところ、従来より成約率が45%も向上したといいます*3。

 「太客」の見極めと適切なアプローチ、また、思い込みを排した潜在顧客の掘り出し、これらを効率的に実施していかなければ、市場の縮小にはついていけなくなってしまいます。

 今年も政府の「IT補助金」の募集が始まっています。専門家への相談にも使える制度です。こうした補助金をチャンスと捉えて、まず自社の課題を洗い出してみてはいかがでしょうか。

*3
「「出張女子」狙いで成約率45%増、JTBが導き出した勝利の方程式」日経クロステック https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/01874/

ここがポイント!
●小売業では人口の減少にともなって、今後市場の縮小が考えられる。
●その中で生き延びていくには、海外への販路拡大、リピーターを逃さない施策が必要。
●売り上げや顧客情報のデータ化は重要顧客の絞り込みに有用。
●IT補助金などの活用も前向きに検討したい。

外部リンク

IT補助金2024=https://it-shien.smrj.go.jp/
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