2024年に新設されたばかりの「中小企業省力化投資補助金(以下、省力化補助金)」が、同年12月の令和6年度補正予算において改正されました。
省力化補助金とは、中小企業の人手不足解消を目的としたものであり、端的にいえば「人手不足を解消するために導入する省力化製品や設備、システムへの投資に対して、国が補助金を出して支援する」という施策です。
これまでの申請枠である、カタログに登録された省力化製品を選び販売事業者と共同で申請する「カタログ型(*1)に加えて、大きな改正として新たな申請枠である「一般型」が追加されました。
(*1)カタログ型でも販売店の登録要件緩和など改正あり
新たに追加された「一般型」申請枠の最大の特徴は、カタログに登録されていない省力設備やオーダーメイド(またはセミオーダーメイド)の設備・システムの導入に活用できること、ハードウェアとソフトウェアの両方が対象になることなどが挙げられます。
これにより、事業者は「カタログ型」と「一般型」という2つの申請枠から選ぶことが可能であり、個々の企業が抱える実態に適した幅広い業務の省力化や効率化に対応できるようになったわけです。
とはいえ、「一般型」の申請は「カタログ型」と比べてハードルが高く、事業計画書の作成などが必要です。収益納付(*2)はありませんが、要件未達の場合には補助金の返還義務が生じることなども留意点でしょう。
(*2)補助事業の成果により一定の利益が出た場合に、その一部を返納する義務のこと
省力化補助金の活用では、最初に国が省力効果を認めた汎用製品をカタログから選ぶスキームにより使いやすい制度となっている「カタログ型」を検討したうえで、それでは省力化が難しい場合に「一般型」を選ぶのが現実的でしょう。
また、「一般型」の制度設計は「ものづくり補助金 省力化(オーダーメイド)枠」に近いものとなっています。しかし、ものづくり補助金は、革新的な新製品やサービスの開発、新分野への進出などを目的とした施策。これに対して、省力化補助金の「一般型」は“既存業務の省力化”を目的している点で異なります。
以下、新たな枠として設けられた「一般型」について、その概要を見ていくと共に、理解しておきたいポイントや留意点などを解説します。
省力型補助金(一般型)の制度概要
まず、省力型補助金(一般型)の制度設計の概要を見ていきましょう。詳細については公募要領を参照してください。
補助対象となる事業者
「省力化補助金(一般型)」の対象事業者は、中小企業(組合関連を含む)や小規模企業・事業者、NPO法人や社会福祉法人などです。対象者の規定はそれぞれで異なりますが、中小企業については下表の通りとなっています。
中小企業組合やNPO法人、個人事業主などの事業者要件も公募要領に詳しく記載されています。自社が適用対象かどうか、微妙なラインにある場合には詳細事項含めて確認するところから検討は始まります。
また、補助対象外となる事業者についても記述されています。例えば、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」や「中小企業等事業再構築促進補助金」の交付を受け補助金支払いが完了してない、あるいは過去3年間に2回以上の交付を受けた事業者は対象外とされており、補助制度をよく利用する中小企業は注意が必要です。
補助率と補助上限額
下記画像は、「一般型」の補助率と補助上限額をまとめたものです。従業員の規模や事業者類型により補助率と補助上限額は異なりますが、特例の適用も含めて補助上限が最大1億円という金額の大きさは注目でしょう。
補助率は、中小企業と小規模・再生事業者で異なります。中小企業は2分の1、小規模・再生事業者は3分の2。「最低賃金引上げ特例」の適用要件を満たすことで、中小企業も3分の2への引き上げが可能となっています。
なお、上記の補助率が適用されるのは補助金額が1500万円まで。中小企業も小規模・再生事業者も、1500万円超については3分の1となります。
補助上限額は従業員数で異なり、101名以上で8000万円です。省力化補助金制度の目的の一つに賃上げの推進が掲げられているため、カタログ型と同様に「大幅賃上げ特例」があり、この適用要件に沿うことで補助金上限は最大1億円にアップします。
補助金の申請に求められる要件
こうした補助金の交付を受けるには、申請要件を満たすことが必要です。前述した通り、補助金額も大きいだけにカタログ型に比べ、「一般型」の要件はハードルが高いものとなっています。具体的な基本要件は下記の通りです。
① 労働生産性の年平均成長率が4%以上増加
② 一人あたり給与支給総額の年平均成長率が事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上、または給与支給総額の年平均成長率が2%以上増加
③ 事業所内最低賃金が事業実施都道府県における最低賃金+30円以上の水準
④ 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表など(従業員数21名以上の場合)の基本要件をすべて満たす3~5年の事業計画に取り組むこと
なお、要件を満たしているかどうかは、毎年の提出が義務とされる事業成果報告で確認され、未達の場合には補助金の返還義務があります。
基本要件に加えて、下記に記載した要件も必要です。「一般型」では、申請時に提出した事業計画書を外部有識者などによる審査委員会が評価します。事業計画書が採択に大きく影響するだけに、事業計画の策定に関わる下記要件もしっかりと理解することが重要といえます。
1. 補助事業者の業務領域・導入環境において、当該事業計画により業務量が削減される割合を示す省力化効果が見込まれる事業計画を策定すること
2. 事業計画上の投資回収期間を根拠資料とともに提出すること
3. 3~5年の事業計画内に、補助事業において、設備投資前と比較して付加価値額が増加する事業計画を策定すること
4. 人手不足の解消に向けて、オーダーメイド設備などの導入を行う事業計画を策定すること
申請から事業完了までの流れ
省力化補助金(一般型)の申請から事業完了までの流れと取り組むべき項目の全体像を示したのが下図です。通年募集のカタログ型とは異なり、公募回制となっています。
省力化補助金の申請は電子申請のみとなっており、この点は「一般型」も変わりません。gBizIDプライムアカウント(行政サービスを利用するための法人代表者や個人事業主のアカウント)が必要です。
事業の実施期間は最大18か月と長く、大幅な生産や業務のプロセスを改善する設備やシステムの導入にも計画的かつ余裕を持って取り組めそうです。ただし、5年間にわたる効果報告が義務付けられていることなどは、申請にあたってよく検討すべきでしょう。
補助金制度の利用では申請ばかりに目が行きがちですが、留意すべきは交付後を見据えることです。国の制度では実績や効果の報告が求められるスキームが一般的で、省力化補助金も同様。補助金をもらって終わりではないことは、強く意識すべきといえます。
省力化補助金(一般型)の申請留意点
補助金などの申請検討や採択率を上げるために最も大切なことは、制度に関わる資料を読み込むことです。基本的にはすべてに目を通すべきですが、「公募要領」や、制度変更などがあった際に公開される「公募要領新旧対照表」などは特に熟読したいところです。
というのも、公募要領には申請や交付に関連する押さえておくべき注意事項やポイントが示されているからです。採択されやすくするのはもちろん、採択されて事業を実施していく中で事故(交付取り消しや補助金返還など)を防ぐためにも欠かせません。
「省力化補助金(一般型)」においても、注意すべき点はいくつか見受けられます。例えば、事業計画は必ず申請者自身が作成しなければならないとされていることです(公募要領/P3)。この意味で、「【参考資料】事業計画書作成の参考ガイド」なども重要な資料といえます。
しかし、事業計画の作成はなかなか難しいもの。専門家などの支援を受けることも少なくないでしょう。支援を受けることは問題ありませんが、その場合には支援者名や作成支援報酬額、契約期間などの記載が必要です。記載がない場合は虚偽申請として不採択や採択決定の取り消しとなるので留意したい点です(公募要領/P3とP27)。
これ以外にも、補助事業の実施場所(補助事業の実施場所として工場や店舗などを有していることが必須/公募要領のP15)や口頭審査(*3)の注意事項(公募要領のP32)といった細かな注意事項に加えて、加点項目(公募要領/P30)などが記載されています。
(*3)一定規模以上の申請を行う事業者を対象にオンラインで実施
補助金申請に限ったことではありませんが、国の施策においては制度の狙いに則したポイントを確実に押さえていくことが採択率を高めることにつながります。
また、DX絡みで留意したいこととして、開発したシステムの外販展開に関わることです。デジタルシフトやDXを積極的に推進する中小企業の共通点として、自社で開発したソリューションを他の事業者へ提供し、事業領域の拡大に取り組んでいる例が多いことです。
当然、「省力化補助金(一般型)」を活用して効果の高い省力化システムを開発できれば、外販を検討したくなるものです。しかし、現状では難しいようなのです。理由は、あくまでも同補助金は自社の省力化を目的としたもので、新たなサービスを開発するための施策ではないこと。
自社でのシステム開発を外販することを考えている中小企業が省力化投資補助金(一般型)を活用しようとする場合、この点には注意が必要でしょう。
※本稿は、2025年2月の情報をもとにしたもの。補助金制度の要件や制度設計は流動的で随時変更される場合があり、常に最新情報をチェックすることが必要です。
ここがポイント! |
●中小企業省力化投資補助金は、人手不足の課題を解消する省力化製品や設備・システムへの投資を支援する施策。 |
●従来の「カタログ型」に加え、新たに「一般型」が追加された。 |
●「一般型」は、オーダーメイド型で個々の現場の実態に適した省力化ソリューションを導入できる。 |
●申請や採択後の事業実施に向けて、公募要領などの資料を細部まで読み込むことが必要。 |
●外部専門家の支援を受けることは問題ないが、申請者が事業計画を策定し、採択された場合には自ら積極的に運用することが原則。 |
外部リンク
中小企業省力化投資補助金(一般型)公式ホームページ 中小企業省力化投資補助金(一般型)の公募要領

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